カンヌライオンズ2026

ただのドリルではなく「かっこいいドリル」をつくりたい ヤングカンヌ日本代表・清水出帆氏が挑む「テックエンタメ」とは

 

ヤングカンヌ日本代表選出の秘訣は「ギャルマインド」


ー 清水さんは今年、ヤングカンヌの日本代表に選ばれました。以前からヤングカンヌには興味があったのでしょうか。

実は、最初にエントリーしたのは1社目の広告会社にいた頃です。当時、広告会社に入ったにもかかわらず広告制作ではない部署に配属されていたことに、少しモヤモヤを感じていました。そこで、実力試しのつもりで応募したんです。そのときにファイナリストまで残ることができました。

その後、広告制作の現場からは一度離れたものの、惜しいところまで行けたという成功体験は残っていました。また、エンタメという広い意味でクリエイティブに関わる立場として、自分の力を確認し続けることは大事だと思っていましたし、一緒にお仕事をする方にとっても安心材料になるのではないかと考えていました。

国内予選に挑戦するのは今年で4回目でしたが、本腰を入れて取り組んだのは今年が初めてです。先ほどお話ししたメソッドが、ようやく自分のものとして昇華できたと確信できたタイミングだったので、自信を持って臨むことができました。

ー 国内予選を勝ち抜いた企画「Zoom-outh(ズームマウス)」について教えてください。

予選の課題テーマは、「日本の障害者雇用をより良くするには?」でした。

私たちのメソッドに当てはめると、私は「現代の職場文化」として、Zoom会議に着目しました。

Zoomは、たとえば身体障害のある方や視覚障害のある方にとっては非常に便利なツールです。一方で、聴覚障害のある方にとっては、「画面上の顔が小さすぎて、読唇がしにくい」という大きな壁がありました。

そこで、TikTokなどで流行している「口を大きくするフィルター」を、真面目なZoom会議に持ち込むアイデアを提案しました。サービスとしての「Zoom」と、拡大するという意味の「Zoom」を掛け合わせて、「Zoom-outh」と名付けました。
「Zoom-outh」のケースボード

このアイデアが出たとき、正直に言うと「これはいけるぞ」と手応えを感じました(笑)。メソッドに綺麗にはまっていましたし、シェアハウスの同居人たちにモックアップを試してもらったところ、とても楽しそうに使ってくれたんです。これは人が動くアイデアだと確信しました。

審査員の方からは、シンプルで分かりやすく、「見せる/魅せる」プレゼンができていたと評価していただきました。

現在の仕事で培った経験も大きかったと思います。MVやステージ背景で流れる映像を制作する機会が多く、そこではお客さんの目線がどう動くか、演出にどう巻き込むかを常に考えます。その経験を、ヤングカンヌのプレゼンにも活かせたのではないかと思います。

また、Zoomと口デカフィルターという、すでに存在する技術の組み合わせで実現できるため、実装負荷が低い点も評価していただきました。
  
プレゼン練習の様子

シェアハウスの同居人に「Zoom-outh」のモックアップを試してもらった

今回、日本代表に選ばれた大きな要因のひとつは、相方の「ギャルマインド」にあると思っています(笑)。

他のチームが非常にスマートで素晴らしい解決策を提示していた一方で、私たちは「真面目にやるだけじゃつまらない。もっと可愛くしたい、もっとニヤッとさせたい」という、いたずら心や楽しさを徹底的に追求しました。それが差別化につながった のではないかと思います。

私が大事にしている言葉に、「KISS(Keep It Simple, Stupid:バカみたいに単純にしろ)」があります。何かを考えるとき、迷ったときに、常に立ち返る言葉です。シンプルなものこそ、言葉を超えて伝わる。ノンバーバルな力を持つと信じています。

実は、「Zoom-outh」の着想元は「アイスバケツチャレンジ」でした。

※編集部注:アイスバケツチャレンジ
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の研究支援を目的に、氷水をかぶるか、アメリカALS協会に寄付をする運動。約10年前、SNSを通じて世界的に広がった。
もともとはチャリティ活動ですが、障害の有無やALSへの関心・関与の度合いを問わず、幅広い人に「面白そうだからやってみたい」と思わせるパワーがありました。

課題解決と情報拡散を同時に実現する仕組みづくりは、文化から発想しているからこそ得意とする領域なのかもしれません。

予選と本戦の大きな違いは、日本人審査員がほぼいらっしゃらないことです。本能的なレベルで、全人類が動かされるような“スーパーノンバーバル”なアイデアでなければ、審査員の心は掴めないだろうと感じました。本戦に向けては、海外の文化圏、ミーム、インサイトにどうアジャストしていくかが課題です。

※清水氏のヤングカンヌ本戦での体験は、別の記事で詳報する。
 

「かっこいいドリル」をつくる人になりたい


ー マーケティングやクリエイティブ領域において、課題に感じていることはありますか。

「分業」による情報の劣化です。調査、戦略、制作が分断されていることで、調査で得られた生々しいインサイトが、制作に届く頃には咀嚼されすぎて、跡形もなくなっているケースが少なくないのではないかと感じています。

咀嚼された情報だけをもとにものをつくることは、クリエイティブの可能性を狭めてしまう。とてももったいないことだと思います。

うまく垣根を超えていけるような風土になればいいなと思いますし、私自身も、調査、戦略、制作・実装を自由に越境しながら仕事をし続けたいと思っています。

ー 今後、どのようなクリエイティブ人材になっていきたいですか。

ヤングカンヌ日本代表になれたことは誇らしく思っていますが、仕事を通じて実社会を大きく変えられているという手応えは、まだ十分とはいえません。

まずは「文化から発想する」メソッドによって、マスターピースと言ってもらえるような仕事を実現したい。そして、社会に大きな爪痕を残したいです。社会をいたずら心で彩ることができたら、すごくハッピーだなと思います。

よく「ドリルを売るには、穴を売れ(顧客はドリルそのものではなく、「穴を開ける」という目的のためにドリルを買う)」と言われますが、最近はそれだけではなくなっていると感じています。これは受け売りですが、私たちがやっていることは、言うなれば「でも、かっこいいドリル、欲しくない?」ということなんです。

穴が開くのは当たり前。その上で、そのプロセス自体を楽しく、かっこよくしたい。「そのドリル、かっこいいから欲しいよね」と思われるような世界観をつくりたいんです。

それはハイブランドのドリルかもしれないし、ラメでデコったドリルかもしれない。課題解決や目的達成のための手段を、楽しくてポジティブなものに変えていくことが私の理想です。

マーケターの皆さんは、「目的達成のための手段はニュートラルに考えるべきだ」ということを、当然理解されていると思います。ただ、私が伝えたいのは、「もっとニュートラルに考えてもいいのではないか」ということです。

過去の私自身もそうでしたが、マーケターとして活動していると、限られた予算を既存のメディアや施策にどう配分するか、という思考になりがちです。でも、既存のメニューから考えるのではなく、その外側に、もっと面白い手段があるかもしれません。

それは展示かもしれないし、占いのようなものかもしれないし、お店をつくることかもしれない。そんな「既存メニューの外側」に関心をもつマーケターの方がいらっしゃったら、ぜひ一緒に「かっこいいドリル」をつくりたいです。

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