カンヌライオンズ2026

資生堂 アートディレクター&コピーライター振り返るカンヌ2026「カンヌで企業としての存在感を継続的に示していきたい」

 

資生堂 インハウスクリエイターが選んだ注目作品4選


ー 二人がそれぞれ印象に残った作品を教えてください。
 

アートディレクター池田セレクション1:De'Longhi「Tiny Coffee Shops」

「自宅のコーヒーはコーヒーショップに劣る」という人々の認識を変えることを狙い、デロンギのコーヒーマシンを「世界最小のコーヒーショップ」に変貌させたアイデアです。Industry Craftのグランプリなどを受賞しました。
 

コーヒーの良さを伝えるにあたって、味や香りを一生懸命説明するのではなく、商品(コーヒーマシン)そのもので体現しているのが印象的です。一瞬で言語を超えて伝わるコミュニケーション速度の速さ・強さ、ミニチュアをクオリティ高くやり切ったところにクラフトならではの価値と可能性を感じました。

「近づけば近づくほど良くなる」という審査員講評があったのですが、強く共感しました。1年8ヵ月ほどかけてつくったとのことで、その制作の裏側まで見たくなりました。制作したのはプロダクトですが、様々な部分を見たくなる体験設計ができている点も素晴らしかったです。
 

アートディレクター池田セレクション2:NIKKA WHISKY「Dear Difference」

ニッカウヰスキーのブランド「竹鶴ピュアモルト」を現代的なラグジュアリーブランドとして刷新した作品で、Industry Craftのゴールドなどを受賞しました。
 

作品タイトルは「愛おしい違い」といった意味合いですよね。創業者の竹鶴政孝さん自身の人生における「違いの追求」と、ウイスキーづくりの工程で発生する「違いの調和」を掛け合わせたアイデア。

ウイスキーのブランディングですが、ボトルも液体も一切見せずにアートディレクションの力で裏側にある哲学やカルチャーをアイコンとして体現した点が素晴らしいと感じました。1種類のシンボリックな色と形ではなく、様々な接点の中でブランドが形づくられるように展開性があるところや、ドットの色や混ざりを1,000回以上実験・撮影したというクラフトのこだわりにも感動しました。

「商品をしてすべてを語らしめよ」(資生堂の初代社長・福原信三の言葉)とは真逆の表現に一見思えますが、考え方・本質は共通していると感じます。
 

コピーライター・宮澤セレクション1:IKEA「Made for Life」

FilmとIndustry Craftのゴールドなどを受賞した、IKEAのキャンペーン「Made for Life」を印象的な作品として挙げます。
 

まず、なんといってもコピーの力ですよね。先ほど「人を信じる」というキーワードを挙げましたが、この作品からは、人の想像力を引き出す力を感じました。書かれていない行間を想像させることができるアイデアが素敵です。

認知はあるけれど「安くて機能的なだけ」というブランドイメージを変えたいという問題意識の中での作品ですが、ムービーのストーリー展開がシンプルなんですよね。最初の価格タグのような表現から、テキストだけで短い物語が綴られて、別の商品に行き着く。その間に、描かれていない情景が浮かび上がってくる。

大がかりな演出はありません。ただ、日常の喜びだけでなく、悲しみやハプニングも見せることで嘘のない広告になっている。どんなブランドイメージをつくりたいかが伝わってきました。

「Made for Life」という大きなタグラインと、描くシーンのバランスに、資生堂に通ずる企業姿勢を感じました。
 

コピーライター・宮澤セレクション2:Heineken「Tocayos」

スペインで独立系バルが生き残ることが難しくなっているという課題に対し、同じ店名のバルをつなぎ、プラットフォーム化したアイデアです。Creative B2Bのゴールドなどを受賞しました。
 

まず着眼点が印象的でした。コピーライターをしていると、ネーミングでも差別化を意識しますが、本作は「共通点」を探しにいって影響力を持たせた発想がすごいと思います。店名は同じだけれど、各店に歴史があり、つなぐことでかえって個が引き立った。仲間ができると強くなれると思うので、そういった点でも意義を感じます。

すぐにハイネケンの売上につながるかというと難しいかもしれませんが、各店舗の売上は伸びたそう。そもそも短期的な売上が狙いではないんですよね。

ハイネケンのタグラインは「Social Networking since 1873」。創業時からソーシャルネットワーキングをしてきたということですよね。タグラインが企業姿勢を示しており、一貫性が素晴らしいと感じました。
 

資生堂だからできることを、シンプルに


ー 今回の経験を、今後の仕事にどのように活かしていきたいですか。

池田 資生堂という企業には、150年を超える歴史と資産があります。その培われたものを、いま一度社会と接続することが、会社の価値につながるのではないかと思っています。

資生堂は化粧品メーカーですが、「美しい生活文化の創造」という考え方を大切にしてきました。今回カンヌにエントリーした「BEST AFTER 2055」もそうですが、化粧品を売るだけではなく、文化的価値をつくってつないでいくという会社の思想があります。

クリエイターとしても一社員としても、世の中との接点を増やしたいという思いを強くしました。カンヌに参加して、勇気をもらったり、可能性を感じたりすることができました。
 
消失危機文化を後世に継承するプロジェクト「BEST AFTER 2055」

また、カンヌの中にブースや体験拠点をつくるなど、企業として出展する意義を感じました。カンヌライオンズは世界中のブランド関係者やクリエイティブ関係者が集まる場ですから、単なるタッチポイントではなく、そういった感度の高い方々にブランド体験を提供することには、大きな意味があるのではないかと思います。

宮澤 私は「世界から見た自分たち(資生堂)」という意識を持つことができました。池田さんも言った通り、カンヌライオンズという世界中の方々が集まる場で企業としての存在感を継続的に示していくことの意義を感じました。
 

他社CMOの方もおっしゃっていましたが、グローバルでのブランド認知がない状態で面白いことをしようと思ったら、自分たちが何者かを説明することから始めなければなりません。ブランド認知がある状態であれば伝え方が大きく変わってくるので、会社としての存在感をもっと出していきたいという思いを強く持ちました。

また受賞作は解決策がとても鮮やかで、ひねりのあるアイデアというよりはむしろシンプル。それらを見て、実は日頃、「自分で自分を制限」しているかもしれないという気づきがありました。制限を取っ払ったらシンプルな解決策を思いつけるのに、「これをやったら駄目なのではないか」と勝手に決めつけているところがあるかもしれない。改めて、頭をもっと柔らかくして日々の仕事に取り組みたいと思いました。

コピーライターとしては、なぜこの会社・ブランドがやるのかという意味づけを意識したコピーづくりをしていきたいです。

池田 良いアイデアは、言葉なしでも伝わりますよね。プロジェクトが進むにつれて、どうしても複雑になりがちなので、僕も「シンプル」を意識していきたいと思います。
 
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