カンヌライオンズ2026

トップマーケター 足立光氏が考える「カンヌとの正しい向き合い方」【カンヌライオンズ2026現地インタビュー】

 世界最大級のクリエイティビティの祭典「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(カンヌライオンズ)」が、今年も6月22日から26日までフランス・カンヌで開催された。世界中から2万点を超える作品が集まり、その中から優れた広告・コミュニケーション事例が表彰されたほか、多彩なセミナーやトークセッション、業界の第一線で活躍するプロフェッショナル同士の交流が繰り広げられた。

 アジェンダノートでは、現地を訪れたマーケターやクリエイターへのインタビューを実施。カンヌでの過ごし方をはじめ、現地で肌で感じたことや得られた学び、日々の仕事にどう生かそうとしているのかを聞いた。

 今回は、マーケターとしての長いキャリアの中で、今年初めてカンヌライオンズを訪れた、ファミリーマート エグゼクティブ・ディレクター、CMO(兼)マーケティング本部長(兼)デジタル事業本部長の足立光氏に話を聞いた。

 足立氏は、カンヌについて「異なる業界」「異なる世代」「異なる国」の人々と出会い、知見を広げる場として高く評価する一方で、その中心にあるのはあくまで欧米の価値観であり、「ここが世界のすべて」と捉えるべきではないと指摘する。マーケターの本来の役割とは何かを踏まえながら、カンヌライオンズとの正しい向き合い方、そしてビジネスにおけるクリエイティビティの役割について語ってもらった。
 

カンヌライオンズは「世界の中心」ではない


― 足立さんが、今年初めてカンヌライオンズに参加された理由を教えてください。

いくつかありますが、一番大きいのは「カンヌ」という場そのものが変わってきたことです。僕が知っているのは「広告祭」と呼ばれていた時代で、当時は「エージェンシーの皆さんのお祭り」という印象でした。所属する企業の広告やキャンペーンが出品される際も「どうぞエントリーしてください」といった具合で、僕自身はあまり興味がなかったんです。どれだけ素晴らしいクリエイティブがカンヌに集まっていたとしても、僕の役割はビジネスをつくることでしたから。

ただ、「カンヌ国際広告祭」から「広告」が外れ、「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」へと名称が変わり、さらに今年からは、応募作品の信頼性を担保する「Awards Integrity Standards」が本格運用されるなど、ビジネスの成果を重視する流れが強まっています(編集部注:応募企業には、成果を裏付ける証拠の提出が求められるほか、CEOやCMOによる事実確認も必要となっている)。

こうした変化を見ていると、クリエイティビティというものが、よりビジネス寄りになってきたと感じます。また、以前はエージェンシーの方が主な参加者という印象でしたが、最近はクライアント側の参加も増えていると周囲から聞くようになり、「一度は行っておかなければ」と思ったのです。

普段、僕はカンファレンスにはあまり参加しません。海外のカンファレンスも含めて、今はサマリーがWeb上で手に入るので、現地へ行かなくても内容は概ね把握できます。ただ、カンヌは非常に特殊な場所ですから、一度は自分の目で見てみたいと思いました。

もうひとつ理由を挙げるとすれば、最近シニア向けの広告で「足腰が丈夫なうちに、いろいろな場所へ行こう」というメッセージを目にする機会が増えたことです。「本当に行きたい場所には、行けるうちに行っておかなければ」と考え、自費で参加することにしました。

― 実際に現地参加されてみて、感じたことを教えてください。

3つあります。

1つ目は、想像以上に日本の方が多いことです。会場やその周辺を歩いていると、やたらと知り合いに会うので、「ここは西麻布か?」と思うほどです(笑)。クライアントサイドを含め、本当に多くの日本人が参加しているのが印象的でした。

2つ目は、欧米のクリエイティブやコミュニケーションのトレンドが非常によく表れていることです。たとえば、データを駆使した事例では、「スポーツにおける勝利の女神の可視化」がありました。ファンクラブのデータを分析し「このお客さんが球場に来ると勝率が高い」という傾向を見つけ、その人を「勝利の女神」として招待・優遇するという取り組みです。都市伝説のような話をデータで可視化する発想は、とても面白いと思いました。
 
ポーランドの名門サッカークラブ「Wisła Kraków」が実施したファン参加型プロジェクト「Lucky Fan Index」

一方で、「反AI」ともいえる動きも目立ちます。AIで何でも作れる時代だからこそ、コマ撮りの映像や、ニッカウヰスキーが受賞したようなクラフトマンシップ、あるいは銃弾の音がタイプライターの音に聞こえるような作品など、人の手で作られたアナログな表現の価値が改めて評価されていると感じました。そうした面白いアイデアは、日本に持ち帰りたいと思っています。
 
Industry Craft部門ゴールドなどを受賞したニッカウヰスキー「dear difference」。「竹鶴ピュアモルト」の魅力やニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝氏のウイスキーづくりに込めた哲学を表現した。
 
Film Craft部門ゴールドを受賞した「BULLET MACHINE」。報道の自由を擁護する国際NGOのArticle 19と、地方紙のLa Uniónが、報道の自由の日に合わせて発表した。

3つ目は、想像以上にカンヌが「グローバル」ではなく「欧米」のお祭りだということです。ショーケースを見ていると、欧米のクリエイティブやクリエイティビティこそ世界のトップであるかのような錯覚を覚えます。審査員も登壇者も主要なクライアントも、ほとんどが欧米のグローバル企業です。初日に行われた、世界最大のビールメーカー・AB InBevのキーノートでも、「ジャスティス・リーグ」(編集部注:AB InBevが組織した、キーとなる外部クリエイティブパートナーによる精鋭チームの名称)として紹介されたクリエイティブ人材は、全員が欧米の方でした。

一方で、アジアを席巻した韓国や台湾、香港などの事例は、カンヌではほとんど目にしません。そういう意味で、ここは欧米におけるクリエイティビティの中心ではあっても、グローバル全体の中心ではないと思います。

そうしたアウェイな環境の中で、日本の皆さんが賞を目指して健闘していることは本当に素晴らしいと思います。ただ、「ここが世界のすべてだ」とは考えないほうがいいということも、改めて感じました。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録