海外情報

「マーケティングとリーダーシップ」研究の第一人者が語る、成果を加速する5つの実践法 ― キャリアの次のステージを目指すマーケターは、いかに社内で影響力を築くべきか

「社内を動かす影響力はどうすれば身につくのか」「マーケターとして成功するためには何をすればいいのか」―― 多くのマーケターが、キャリアの中で一度は直面するテーマではないだろうか。
 
 世界中のCMO育成に携わり、「マーケティングとリーダーシップ」研究の第一人者として知られるトーマス・バルタ氏。今回、キンドリルジャパン Vice President, CMOの加藤希尊氏が、来日した同氏にインタビューした。加藤氏自身も、CMOや事業リーダー候補を対象としたグローバルリーダー育成プログラム「Marketing Academy Fellowship」APACコースに参加した経験を持つ。マーケティングリーダーとしての実務経験と、同プログラムで得た視点の双方を踏まえながら、次世代を担うマーケターが社内で影響力を築き、成果につなげるために必要な考え方や行動について話を聞いた。
 

マーケターは「二人のステークホルダー」に仕えている


加藤 私は昨年、各国のCMOやシニアマーケティングリーダーが参加するグローバルリーダーシッププログラム「Marketing Academy Fellowship」のAPACプログラムに参加し、その経験をアジェンダノートで紹介しました。プログラムでは、マーケティングにとどまらず、リーダーシップや組織変革、経営視点まで幅広いテーマが扱われ、その中でもあなたのセッションは特に印象に残っています。

私は20年以上マーケティングに携わってきましたが、若手の頃に知っておきたかった示唆や、今でも組織を率いる立場で実践している考え方が数多くありました。今回は、その学びも踏まえながら、これからリーダーやCMOを目指すマーケターが、社内で影響力を築き、成果につなげるために実践できる考え方や行動について伺いたいと思います。

たとえば、あなたのセッションで印象に残っているのが「Reframe(リフレーム)」という考え方です。Netflix創業者のリード・ヘイスティングス氏は、自社の競争相手を「映像配信サービス」ではなく、「人々の睡眠時間」だと捉え直しました。このように、前提となる見方を変えることで、戦略や提供価値そのものが変わるという視点は、とても示唆に富んでいました。

今回は、こうした思考法も含め、日々の仕事の中で実践できる考え方や行動について伺いたいと思います。これから組織の中でより大きな価値を発揮していきたいマーケターが、社内における影響力を築いていくために、キャリアの早い段階で最初に持つべき視点とは何でしょうか。
加藤 希尊 氏
キンドリルジャパン
Vice President, CMO

 20年以上にわたり、WPPグループ、Salesforce、チーターデジタルなどでマーケティング組織を率い、B2B・B2C双方の事業成長を推進。事業変革と成長を専門とし、SaaSやサービス事業におけるGo-to-Market戦略、エンタープライズマーケティング、Account-Based Marketing(ABM)、ブランド戦略を通じて事業成長を牽引。書籍の執筆や講演などを通じて、マーケティングの知見を発信している。

トーマス  まず理解してほしいのは、マーケターは「二人のステークホルダー」に仕えているということです。一人は、もちろん顧客。そしてもう一人は、自分の会社です。

マーケティングでは、顧客を理解し、リサーチを行い、何を望んでいるのかを把握することが重要だと教えられます。それは間違いありません。しかし、マーケターは社内においても、まったく同じ姿勢を貫かなければなりません。
 
会社が答えを与えてくれるのを待つだけではなく、自ら組織の中に深く入り込む必要があります。事業にとって今何が最も重要なのか、損益計算書(P/L)はどのような構造になっているのか、現場の人たちは何に課題や不安を感じているのかを理解する。そして、組織全体で起きている変化にも常に目を向ける。そうしたことも、マーケターに求められる重要な役割なのです。

つまり、あなたの仕事は「顧客」と「会社」をつなぐことです。顧客のことだけを考えていると、会社のニーズを見失います。反対に、会社のことだけを考えていると、顧客を見失います。私たちは、この重なり合う領域を「Value Creation Zone(価値創造ゾーン)」と呼んでいます。マーケターとして最初に理解すべきなのは、この考え方です。

私自身も、キャリアのスタートではそのことが分かっていませんでした。顧客調査を行い、自分のプロジェクトに夢中になっていましたが、社内への理解が足りなかった。その結果、一生懸命提案しても、周囲はほとんど関心を示してくれませんでした。

当時は「なぜ興味を持ってもらえないのか」が分からなかったのです。今振り返れば、そこがすべての出発点でした。
 
トーマス・バルタ氏
 マーケティング・リーダーシップと企業成長の分野における世界的な第一人者。キンバリー・クラークでマーケティング・ディレクターを務めた後、マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーとして活躍。現在は、Marketing AcademyのGlobal CMO Fellowshipのディーン(学長)を務めるほか、マーケター向けのオンライン・エグゼクティブプログラムThe Marketing Leadership Masterclassを主宰している。著書に『The 12 Powers of a Marketing Leader』などがあり、世界各地でカンファレンスや企業向けワークショップの講演を行っている。
 

影響力を持つために「良い質問をする人」であれ


加藤  会社全体を理解することの重要性はよく分かりました。一方で、それを日々の仕事の中で実践するのは簡単ではありません。こうした視点は、どのように身につけていけばよいのでしょうか。

トーマス  方法はいくつもあります。

まずは、会社に関する情報を積極的に集めることです。新聞記事や投資家向け資料を読むだけでも、多くのことが見えてきます。社内で共有されている売上レポートやマーケティングレポートにも目を通してください。そこには会社が何を重視しているのか、多くのヒントがあります。もちろん、上司に直接聞くのもいい方法です。上司が複数いるなら、それぞれに聞いてみてもいいでしょう。

そして、日常の会話も貴重な情報源です。たとえば誰かとランチをするとき、「今どんな仕事に取り組んでいるんですか」「会社として大きなテーマになっていることは何ですか」と尋ねてみる。こうした何気ない質問から、多くのことを学べます。ただし、消費者調査と同じで、相手がすべてをそのまま話してくれるとは限りません。だからこそ、自分で探り、学び続ける姿勢が大切なのです。

もうひとつ、実践的な方法があります。気の合う同僚と「自分たちが経営陣だったら、この会社をどうするか」を議論してみることです。その問いを立てるだけで、これまでとは違う視点で情報を集めるようになります。そうすると、会社の見え方が変わってくるのです。

加藤  面白いですね。もうひとつ、あなたのセッションで特に印象に残っている言葉があります。「日々の小さな行動が、やがて大きな影響力になる」という話です。日々の仕事の中では見過ごされがちですが、実は大きな成果や影響力につながる行動には、どのようなものがあるでしょうか。

トーマス  CEOや経営幹部に、「将来が楽しみな人材は誰ですか」と聞くことがあります。すると、とても興味深い答えが返ってきます。彼らが挙げるのは、「良い質問をする人」です。

良い質問をする人は、相手に考えさせます。物事をもっと大きな視点で見せてくれたり、逆に細部に気づかせてくれたりする。だから印象に残るのです。

多くの人は会議になると、自分が発言する順番を待っています。あるいは最後に自分のプロジェクトを説明して終わります。もちろん、それ自体は悪いことではありませんが、それだけでは十分ではないのです。

「2年後の市場はどう変わっていると思われますか」
「今と同じ競争環境だと思われますか」
「会社として、もっとイノベーションに投資すべきでしょうか」
そんな問いを投げかけてみる。シニアリーダーは、そうしたテーマに強い関心を持っていますから、自然と耳を傾けてくれるのです。

良い問いを投げかけることができれば、「この人と話すと考えが整理される」「この人のおかげで仕事がしやすくなる」と思ってもらえるようになります。それは仕事だけでなく、あらゆる人間関係に共通することです。まったく知らない人が突然現れて、自信満々に持論を語り始めても、それだけで相手を納得させることはできません。だからまずは、「この人は価値をもたらしてくれる」と信頼されることが大切なのです。

心理学には「Idiosyncrasy Credit(特異性クレジット)」という考え方があります。簡単に言えば、「周囲に貢献することで、影響力を発揮する権利を得る」ということです。人に考えるきっかけを与えられる人には、その扉が開かれます。

すぐに実践できるアドバイスをひとつ挙げるなら、次に上司や経営陣へプレゼンするときは、提案を説明するだけで終わらないことです。相手が考えたくなる質問を、一つか二つ用意しておいてください。

加藤  日々の仕事で実践できる「良い質問」の例があれば教えてください。

トーマス  良い質問の多くは、「未来」に向いています。未来について考える問いは、人の興味を引きつけるからです。

たとえば、「今後、市場ではどんな変化が起きると考えていますか」「今、最も注目しているトレンドは何ですか」こうした質問は、多くの会社で有効でしょう。

一方で、「過去」に目を向ける質問も効果があります。たとえば、「以前にも同じような取り組みをしたことはありますか」「そのとき、何が上手くいき、何が上手くいかなかったのでしょうか」など。あるいは、その会社に成功体験があるなら、「当時の成功要因は何だったのでしょうか」「その経験を、今の事業にどう生かせるでしょうか」と聞いてみる。過去の経験を引き出す質問も、人の思考を深めます。

大切なのは、自分の担当プロジェクトだけに閉じこもらないことです。一歩引いて、「もしこの施策が成功したとして、その先に市場はどう変わるでしょうか」「来年、消費者はどこへ向かうでしょうか」そんな問いを投げかける。自分の仕事と結びつけながらも、より大きな視点へ議論を広げるのです。

そうすると相手は、「この人は新しい視点を持っている」「新しい何かをもたらしてくれそうだ」と感じます。もちろん、それだけですべてが変わるわけではありませんが、影響力を築くための確かな一歩になるはずです。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録