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「マーケティングとリーダーシップ」研究の第一人者が語る、成果を加速する5つの実践法 ― キャリアの次のステージを目指すマーケターは、いかに社内で影響力を築くべきか
2026/08/05
成果を加速する、明日から使える5つのアイデア
加藤 ここまでさまざまなお話を伺ってきましたが、マーケターが明日から実践できる「成果を加速させるアイデア」を5つ教えていただけますか。
トーマス 1つ目は、「22%の罠」に陥らないことです。マーケターの仕事は、ビジネスを成長させることです。売上を伸ばし、顧客を獲得し、利益を拡大する。そのために、マーケターという役割が存在しているのです。
では、企業の成長はどこから生まれるのでしょうか。多くの人は、市場シェアを奪うことだと考えます。競合より少し多く売るために、大規模なキャンペーンを打ち、広告投資を増やす。もちろん、それも成長のひとつの手段です。
しかし、市場シェアによる成長は全体の約22%に過ぎません。残りの約78%は、別のところから生まれます。たとえば、新しい顧客層を開拓すること。既存の商品を新しい市場で販売すること。商品そのものを進化させること。新しい地域へ展開すること。あるいは、経営レベルの話になりますが、M&Aも成長の手段です。つまり、成長の大部分は、市場シェアの奪い合いではありません。
たとえ自分の担当業務が市場シェアの拡大だったとしても、「会社を成長させる方法は他にもあるのではないか」と考え続けることが重要です。市場や顧客、地域、事業機会を広い視野で捉える。その姿勢が、マーケターとしての成長にもつながります。
2つ目は、「言葉」です。マーケターは、ブランディング、アトリビューション、セグメンテーションといった専門用語を使いたがります。マーケティングの世界では通じますが、それ以外の部門の人にとっては、自分とは関係のない言葉です。これらの言葉を「馬鹿げている」とさえ感じます。
顧客に向かって、「この商品のアトリビューションをどう考えていますか。ファネルのどこに位置しているか教えてください」なんて言いませんよね。顧客は、「欲しいか、欲しくないか」を考えているだけです。
社内でも同じことが言えます。経営層が知りたいのは、「顧客はどう動くのか」「売上はどう変わるのか」「利益にどうつながるのか」です。セグメンテーションやアトリビューション、メールの開封率そのものに関心があるわけではありません。
だから、相手の言葉で話してください。マーケターは専門用語を使うことで、自分の専門性を示そうとしがちです。でも実は、複雑なことをシンプルに伝えるほうが、ずっと難しいし、実は強い自信が必要です。そして、それができる人ほど、本当に理解している人です。
難しい言葉ではなく、相手が理解できる言葉で話すこと。それだけで、伝わり方は大きく変わります。
3つ目は、顧客を味方につけることです。マーケターの意見には、誰でも反論できます。しかし、顧客の声に反論することはできません。だから、あなたが持ち込める最も強力な論拠は顧客自身の言葉なのです。
できれば動画や音声、メッセージなど、顧客の言葉をそのまま伝えられる形で持ってきてください。そして、顧客への質問も変えてみましょう。私は、「10点満点で何点ですか」とフィードバックを求めることを、あまり勧めません。NPSや満足度も参考にはなりますが、それだけでは十分ではありません。
代わりに、こう聞いてください。「ひとつだけ改善できるとしたら、何を変えてほしいですか?」この質問から得られる答えのほうが、はるかに価値があります。
その声を集め、社内で共有してください。
これが私が思いつく中で最高のアイデアです。「フィードバック(10点満点で何点ですか?)を求めない」ことです。「8点」とか「NPS(ネットプロモータースコア)」とか、それはそれで良いのですが、それほど強力ではありません。もっと強力なのは、顧客に「改善できる点を1つだけ挙げるとしたら何ですか?」と聞くことです。その声を集め、社内で共有してください。これは市場リサーチのレポートや「9.5%」のようなデータよりも、はるかに説得力があります。たとえば5人の顧客が動画で同じ課題を語っていたら、「改善しよう」という空気が一気に生まれます。
私たちはいつも「顧客は正しい」「顧客が重要だ」と言いながら、実際に会議へ持ち込むのは平均値や折れ線グラフのレポートばかりです。もっと顧客本人の声を届けるべきです。それが、より良い意思決定につながります。
4つ目は、一人で変えようとしないことです。会社は、一人では変えられません。だから、自分を「変革を起こす人」ではなく、「ムーブメントをつくる人」だと考えてください。
何か新しいアイデアがあるなら、最初に考えるべきことは「誰が味方になって協力してくれそうか」ということです。その人と話し、協力してもらう。必要なら、その人にヒーロー(主役)になってもらう。大切なのは、自分一人で成果を勝ち取りにいこうとしないことです。私は若い頃、この失敗を何度もしました。「自分が提案して、自分が勝たなければいけない」と思っていたのです。でも、大きな組織では、それでは上手くいきません。
よくこんな例えをします。家でパーティーを開き、みんなに踊ってほしいとします。最初に音楽を流し、自分一人で踊り始める。少し滑稽に見えるでしょう。でも、そのうち一人、二人と加われば、一気に流れが変わります。そこからムーブメントが生まれるのです。
会社も同じです。仲間を増やすことが、変革への近道です。
5つ目は、「ストーリー」です。あなたのストーリーですね。マーケターには、自分が何を実現したいのかを一言で伝えられるストーリーが必要です。会社では、ロビーでも、エレベーターでも、ランチでも、飲み会でも、多くの人と出会います。これらはすべて、自分のアイデアを共有する絶好のチャンスです。そのたびに、一貫した、明確なメッセージを繰り返し語ってください。
これは消費者向けのマーケティングと同じです。30秒しかない広告で、いくつものメッセージを伝えようとはしませんよね。ひとつのメッセージを、繰り返し届けるはずです。社内でも、雑談ばかりで終わらせるのではなく、「私は何を変えようとしているのか」を伝え続けましょう。
たとえば、「もっと顧客理解を深める会社にしたいと思っています。市場の変化を見逃さないためです。そのために今、この仕事に取り組んでいます」。そんなメッセージを、会う人ごとに繰り返し伝える。
CEOやシニアマネージャーから、「あなたは何をしている人なの?」と尋ねられる場面を想像してください。「SEOを担当しています」と答えるのと、「会社をもっと顧客志向にするために取り組んでいます」と答えるのでは、相手に与える印象はまったく違います。
人は、あなたの仕事そのものではなく、「何を実現しようとしている人なのか」を記憶します。だからこそ、自分のストーリーを持ち、それを一貫して語り続けることが大切なのです。
影響力を築くことは、終わりのない「仕事」である
加藤 ここまで影響力について伺ってきましたが、組織の中で影響力を築いていく上で、最も大切なことは何でしょうか。
トーマス まず理解してほしいのは、会社に入った時点で、最初から影響力を持っている人など誰一人いないということです。年齢は関係ありません。もちろん、経験や実績は大きな助けになります。しかし、どれだけキャリアを積み、どれだけ高い役職に就いても、人々の信頼を得て影響力を発揮する努力は、日々続けなければならないのです。
組織には、それぞれ異なる考えを持つ人がいます。そして、多くの人はあなたの提案に対して「ノー」と言うことができます。だからといって、まだ十分な影響力がないことに落胆したり、苛立ったりする必要はありません。
私の親しい友人に、大企業のCEOがいます。ある日、彼が話してくれた言葉が今でも印象に残っています。
「CEOである私すら、すべてを思い通りに動かせるわけではない」
「取締役会は会社の方向性について異議を唱える。株主は業績を求める。政府は法令遵守を求める。労働組合には労働組合の期待がある。そして社員の中にも、私のビジョンを信じる人もいれば、そうでない人もいる」
つまり、CEOであっても、人々の支持は毎日積み重ねていかなければならないということです。だからこそ彼は、会社のストーリーを語り続け、人々と対話を重ね、一歩ずつ前へ進めるための働きかけを毎日続けているのです。
肩書きだけで人はついてきません。権限は与えられるものですが、影響力は与えられるものではありません。影響力は、自分で築き上げるものなのです。それは、マーケティングのスキルを一歩ずつ身につけていくのと同じです。
その一例として、私たちはマーケターが影響力の築き方を学ぶオンラインプログラム「The Marketing Leadership Masterclass」を運営しています。参加するのは経験豊富なシニアマーケターや経営層も少なくありませんが、多くの人が受講後にこう話します。
「もっと若いうちに、このスキルを身につけておきたかった」
影響力を築くこと自体が、ひとつの仕事なのだと考えてください。そして、そのプロセスに終わりはありません。
加藤 最後に、この記事を読んでいるマーケターへ、ひとつだけメッセージを送るとしたら、何でしょうか。
トーマス マーケティングは、世界で最もクールな仕事のひとつです。同時に、とてもタフな仕事でもあります。なぜなら、誰もがあなたに「ノー」と言えるからです。顧客も、会社も、同僚も、あなたのアイデアに反対するかもしれない。マーケターは、権限だけで物事を動かせる仕事ではありません。だからこそ、面白いのです。
マーケターがつくっているのは、「未来」です。未来は、データだけでは証明できません。もちろんデータは重要ですが、最後に未来を描くのは、あなた自身の洞察であり、直感です。
そこには葛藤もあるし、長い労働時間もあるでしょう。社内の対立や、思うように進まない日もあるかもしれません。それでも、顧客が本当に求めるものを見つけ出し、会社が誇れる価値へと形にしていくことができたなら。ビジネスの中で、これほどやりがいのある仕事を、私は知りません。
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