カンヌライオンズ2026
マーケターが関心を持つべきは、AIか、個人クリエイターとの共創か、クリエイティブの内製化か? レイ・イナモトがカンヌライオンズ2026で感じた変化
2026/09/10
世界最大級のクリエイティビティの祭典「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(カンヌライオンズ)」が、今年も6月22日から26日までフランス・カンヌで開催された。世界中から2万点を超える作品が集まり、その中から優れた広告・コミュニケーション事例が表彰されたほか、多彩なセミナーやトークセッション、業界の第一線で活躍するプロフェッショナル同士の交流が繰り広げられた。
アジェンダノートでは、現地を訪れたマーケターやクリエイターへのインタビューを実施。カンヌでの過ごし方をはじめ、現地で肌で感じたことや得られた学び、日々の仕事にどう生かそうとしているのかを聞いた。
今回は、ニューヨークを拠点に活動するクリエイティブディレクターで、I&CO共同創業者のレイ・イナモト氏に話を聞いた。2006年頃から10数回にわたりカンヌを訪れてきたイナモト氏は、今年の現地で何を感じたのか。
「ブランドとは、信頼による差別化である」と提唱するイナモト氏。カンヌで起きている変化から、日本企業やマーケターは何を読み取り、自らのブランドやビジネスにどう生かすべきなのか。現地での対話から見えてきた、カンヌライオンズの現在地を聞いた。
アジェンダノートでは、現地を訪れたマーケターやクリエイターへのインタビューを実施。カンヌでの過ごし方をはじめ、現地で肌で感じたことや得られた学び、日々の仕事にどう生かそうとしているのかを聞いた。
今回は、ニューヨークを拠点に活動するクリエイティブディレクターで、I&CO共同創業者のレイ・イナモト氏に話を聞いた。2006年頃から10数回にわたりカンヌを訪れてきたイナモト氏は、今年の現地で何を感じたのか。
「ブランドとは、信頼による差別化である」と提唱するイナモト氏。カンヌで起きている変化から、日本企業やマーケターは何を読み取り、自らのブランドやビジネスにどう生かすべきなのか。現地での対話から見えてきた、カンヌライオンズの現在地を聞いた。
メイン会場内外で、AIとの向き合い方に温度差
ー この4日間、カンヌライオンズ2026に参加されていかがですか。
まずはAIについてお話しすると、2023年、2024年は、カンヌライオンズ全体がまさに「AI祭り」という雰囲気だったと思うんです。それが今年は、パレ(メイン会場)の中と、その外にあるビーチなどとで、AIに対する温度差がかなりあると感じています。
ビーチにはAdobeやGoogle、Amazon、Metaといったテック企業が並んでいて、そこではもちろんAIの話題がすごく多い。一方、パレの中で話を聞いていると、「やっぱりヒューマン・クリエイティビティが大事だよね」という、ある意味では当たり前のことが改めて強調されている。少し「アンチAI」のような動きが出てきているなと感じました。
もうひとつ、日本とアメリカを行き来したり、英語圏と日本語圏の両方を見たりしていると、AIの受け入れられ方がかなり違うことがわかります。
今、アメリカではAIの評判がすごく悪いんです。どのくらいかというと、タバコやICE(移民・関税執行局)と同じくらい評判が悪い。一方、日本や中国などのアジア圏を見ると、AIを肯定的に捉えている人が7~8割くらいいる印象です。
その背景には、社会が置かれている状況の違いもあると思います。日本は少子化・高齢化が進んでいて、たとえば僕が1週間日本に帰っただけでも、いろいろな場面で「人手不足だな」と感じるんですよね。以前はコンビニの店員さんは日本人ばかりだったのが、この10年で海外の人が増えた。バスのドライバーがいないという話もある。少子化・高齢化が社会課題になっていることが、日常生活の中ではっきり目に見えるわけです。
一方、アメリカに住んでいると、そういう感覚は日常生活の中ではあまりありません。その代わり、アメリカでは「アンチAI」のムードがかなり強くなっている。
日本でも話題になっていたと思いますが、4~5月は大学の卒業式シーズンで、さまざまな著名人が大学でスピーチをしていました。たとえばGoogleのエリック・シュミットがスピーチの中で「AI」と口にした途端、会場から一斉にブーイングが起きたことがあった。そういうことが何件か起きているんです。
大学生からすれば、「自分たちの仕事が奪われている。その大きな要因のひとつはAIだ」という感覚がある。実際、今のアメリカでは、新卒でなかなか職に就けない状況があります。僕の知人の息子さんも、イェール大学でコンピュータサイエンスを専攻して昨年卒業したんですが、就職できなかったそうです。イェール大卒のいわゆるエリートで、ものすごく優秀なはずの人が就職できない。日本で言えば、「東大を出た人が就職できない」というような感覚だと思います。
そういう国や地域によるコンテクストの違いを、ここカンヌでも感じ取ることができます。
あと、広告やマーケティングとは直接関係のない話ですが、カンヌに来ていると、年々アメリカ文化の存在感が強くなっていることも感じます。
象徴的なのが、今年のワールドカップです。これまでワールドカップの開催年にカンヌへ来ると、街全体がものすごく盛り上がっていたんですよ。世界中から人が集まる場所なので、各国の代表ユニフォームを着て応援する人で賑わうし、ビーチでは参加者が国ごとにチームをつくって、「ミニ・ワールドカップ」のようなことをやっていたこともありました。
ところが、今年はそういう空気があまりない。ブラジルの“カナリア軍団”を時々見かけるくらいで、夜に街を歩いても、バーやレストランでは試合を中継しているものの、以前ほどワールドカップの熱気を感じないんです。
「なぜだろう」と考えていたら、さっきの話ともつながる気がしたんですよね。
今のカンヌは、Google、Amazon、Adobe、Metaといったテック企業の存在感がかなり大きくなっています。そして、その多くがアメリカ企業です。もちろん単純に「アメリカ人はサッカーにあまり興味がないから」と言い切れる話ではないですが、カンヌを構成する人や企業が変わったことで、以前ここにあったインターナショナルな文化の見え方も少しずつ変わってきている。そのひとつの表れなのかもしれません。
テック企業の存在感が強くなることには、もちろん良い面もあります。一方で、アメリカ企業の比重が高まることで、これまでカンヌにあった多様な文化が少し見えにくくなっている。そういう変化は、実際に現地へ来てみると感じますね。
オンラインでは見えない「世界の潮流」を捉えに
― 今年レイさんはどんなことに興味を持ち、何を見ようと思ってカンヌに参加しているのでしょうか。
僕が初めてカンヌに来たのは2006年くらいで、これまで合計で10数回来ています。
ここで見たいのは、世界の潮流や社会の変化がビジネスとどうつながっているのか、あるいはカルチャーの変化がビジネスにどう影響しているのか、ということです。そうした動きは、オンラインで追いかけることもできます。しかし、実際にここへ来て、人と話し、意見やアイデアを交わしていると、点だった情報がつながって、見え方が立体的になってくるんですよね。
ここ数年は、毎回セッションにも登壇していますが、それと同じくらい、現地で何が起きているのかを自分の目で見ることを大事にしています。
たとえば、先ほど話したワールドカップの空気感なんて、実際にここへ来ないとわからないじゃないですか。それ自体は、僕らが日々向き合っている仕事に直接関係する話ではないかもしれない。でも、そこで起きているカルチャーの変化が、企業やビジネスのあり方とどうつながっているのか。そういうことを感じ取るために来ています。
パレの内外を歩いているだけでも、いろいろな人に出会います。そこで話したり、夜に会った人と「今、何が気になっているの?」と聞き合ったりする。そうやって、その場でしか拾えない感覚や兆しに触れられることが、カンヌの醍醐味のひとつだと思います。
クリエイティブな企業・ブランドとは? クリエイティブ内製化の本質
ー 今年、新部門「クリエイティブ・ブランド・ライオン」が設立されました。カンヌにおけるブランドの存在感が高まっていることを象徴する動きだと感じます。以前レイさんは、「カンヌが単なるクリエイティブの祭典ではなく、ブランドに関わる場だと捉えられるようになれば、マーケターやCEOを含めて参加者が広がるのではないか」とおっしゃっていました。その意味では、まさに今年、その方向へ進んでいるようにも見えます。今回の新部門をどう捉えていますか。
「クリエイティブ・ブランド」という部門をつくったこと自体は、僕はすごく肯定的に捉えています。
これまで「クリエイティブ」というと、作品そのものだったり、それをつくる人だったり、クリエイティブを担当する部署だったり、どうしてもアウトプットや職能の話になりがちでした。
でも今は、そこから一段広がって、「クリエイティビティ」という、ビジネスに向き合う姿勢そのものが問われるようになってきている。しかも、映像やキャンペーン単体ではなく、「企業」や「組織」のあり方まで評価の対象になってきた。そこまで議論が広がったこと自体が、すごくポジティブな変化だと思います。この部門は、いい意味でかなりビジネス寄りなんですよね。
クリエイティブ・ブランド部門の審査員とも話しましたが、他部門とは審査の仕方がかなり違うそうです。たとえばフィルム部門やアウトドア部門なら、まず審査対象となるアウトプットがありますよね。でも、この部門では、そうしたものを基本的には見ない。「この5年間で何をしてきたのか」をまとめた10数ページの資料を読み込み、それをもとに議論する。だから、いわゆる「クラフト」――もちろん、それ自体は僕もすごく大事だと思っています――が中心ではないんです。
「アート・アンド・コマース」で言えば、コマースが9割。下手をすると10割くらいの話なんですよね。ただ、そのビジネスの中に「クリエイティビティ」という視点を持ち込んで評価するという意味では、かなり一歩前に進んだ部門だと思います。
そして、この部門ができたことで、これまでカンヌとは距離があった企業も、評価対象になり得るようになった。
たとえば、I&COのクライアントであるユニクロも、正直、カンヌの賞自体にはあまり興味がないんですよね。でも、企業として、ビジネスとしてはものすごく成長しているじゃないですか。もちろん、その背景にはオペレーションをはじめ、さまざまな要素があります。それをどこまで「クリエイティビティ」と呼ぶかという議論はあると思いますが、少なくともブランドとしては大きく成長している。
来年あたりは、いくつかのクライアントに、「この部門に出てみてはどうでしょう」と勧めてみようかなと思っています。これまでは、「この作品を応募しませんか」という話でした。でも、これからは、作品ではなく、その企業が組織としてどう進化してきたのかを評価してもらう。そこに大きな意味があると思います。
― クライアントにエントリーを勧めるのも、受賞すること自体が目的というより、そこを目指すことで組織の意識が高まったり、企業としてのあり方を見直したりすることに意味がある、ということでしょうか。
はい。受賞を目指すこと自体はいいと思うのですが、それが目的になった瞬間、そこで終わってしまうんですよね。
たとえばユニクロは、賞を獲るためにやってきた結果として成長しているわけではなくて、企業として正しいことを積み重ねた結果、実際に成長している。
昨日、僕が登壇したセッション(編集部注:セッションタイトル「DEBATE: Inside Out: In-House or Agency?」)には、インハウスのクリエイティブを担当している人が登壇していました。Webサイト構築プラットフォーム Squarespaceのチーフ・ブランド&クリエイティブオフィサーです。

彼のチームでは、クリエイティブ制作をすべて内製化していて、エージェンシーには頼っていません。でも彼が強く言っていたのが、「コスト削減を目的に内製化すると失敗する」ということなんです。
なぜ内製化するのか。その理由をきちんと問い直した上でやらないといけない。実際、内製化すること自体にもお金はかかります。だから、「安くするため」という理由だけでやらないほうがいい、と。
これは日本でも海外でも同じだと思います。特に今、日本でも広告クリエイティブの内製化は進んでいると思いますが、それが「コスト削減」という文脈だけになってしまうと、仮にコストは下がっても、結果として効果が出ていない、ということになりかねません。
ー では、クリエイティブのインハウス化の本質を、レイさんはどう捉えていますか。
先日出版した書籍『Brand Shift:「信頼」で選ばれる時代の成長戦略』にも書いたのですが、そもそも「ブランド」という言葉自体が、かなり曖昧に使われているんですよね。
これまで企業がブランドづくりを外部に任せてきた背景には、まず、社内に必要なケイパビリティがなかったということがあります。映像をつくる、企画を考える。そうした実行能力が社内になかった。
それに加えて、「ブランド」という言葉を使うと、多くの人が「それはマーケティング部門がやることでしょう」とか、「プロモーションですよね」「宣伝ですよね」と捉えてしまう。どうしても、表面的な話になってしまうんです。
でも、僕が本の中で言いたかったのは、「ブランドは経営課題のひとつである」ということです。まず、そこを経営者に認識してもらう必要がある。
ブランドを構築し、ブランド力を高めることが、企業の成長につながる。その理解は、少しずつ広がってきている感覚があります。そして、それを本当に企業の成長につなげるのであれば、やっぱり社内にそのための力を持たなければいけない。社外に任せ続けているだけでは、企業そのものの力として蓄積されていかないんですよね。
ー クリエイティブ・ブランド部門の評価基準にも通じますね。単発のアウトプットを見るのではなく、クリエイティビティのあるアウトプットを継続的かつ再現性高く生み出すために、企業内部にどんな仕組みをつくっているのかを見る。つまり、ブランド力だけでなく、企業そのものの力を高めていくことが問われている。
そうだと思います。大事なのは、それをどうやって組織の中に落とし込んでいくかです。「広告」や「クリエイティブ」というレベルだけで話していると、どうしてもアウトプットの話で終わってしまう。
でも、それを継続的に生み出せる「組織のシステム」にまで落とし込まなければ、たとえばCMOが変わっただけで、それまでやっていたことも変わってしまう。結局、属人化してしまうんですよね。そうではなくて、企業のカルチャーとして定着させていく。そこが重要だと思います。
特にグローバル企業の場合、一部の国や一部のチームだけが優れている状態では、まだ「組織化されている」とは言えません。
カンヌでもよくありますよね。グローバル企業なのに、「この会社が獲っている賞って、全部ブラジルから出ているよね」とか「全部アメリカだよね」とか。それは、その地域に優れた人がいるとか、熱意のあるチームがいるということであって、企業全体に仕組みとして根づいているわけではない。
クリエイティブ・ブランド部門で、グランプリのAB InBevのほかに高く評価されていた企業がマスターカードです。マスターカードの活動を見ると、ヨーロッパ、メキシコ、アメリカ……各エリアでエグゼキューションは違うけれど、文脈は揃っているんです。
同じ思想が、それぞれの国や市場に合わせて違う形で実現されている。つまり、クリエイティビティが一部の人の能力ではなく、ちゃんと「組織のシステム」になっていて、そこが評価されているんですよね。




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