【リレー連載】アジア市場を攻略するローカルインサイトとナラティブ戦略 #06

ベトナムにおける真の「ローカライズ」を考える ブランドが示すべきは「信頼性」より「関連性」【リレー連載Vol.06 ベトナム】

前回の記事:
ユニクロやホンダも実践する「アーンド・ファースト」のコミュニケーション戦略【リレー連載Vol.05 インドネシア】
 アジア市場は、日本企業の今後の成長を左右する最重要エリアのひとつである。しかしその一方で、アジア各国の市場環境は、たとえ隣国であっても大きく異なり、文化的・社会的背景の多様性が日本企業の進出における高い障壁となっている。こうした状況を踏まえて発足したのが、シンガポール・タイ・インドネシア・ ベトナム・マレーシア・フィリピンの6ヵ国を代表するPRストラテジストが結集し、日本企業のアジア進出を支援するコレクティブネットワーク(専門家組織)「PR Collective Asia」である。

参考:アジア市場におけるPR戦略の専門家組織「PR Collective Asia」発足

 本連載は、PR Collective Asiaを構成するPRストラテジストによるリレー形式で展開する。各執筆者がこれまで手がけてきたコミュニケーション戦略を振り返りながら、各国の文化・宗教・商習慣・メディア構造といった特徴を紹介する。5回目となる今回は、ここ数十年で最大規模の変革期を迎えているというインドネシアのメディア産業に注目し、同国に進出する日本企業・ブランドがどのようにメディアリレーションズを築くべきかを解説する。

 執筆を担当するのは、ベトナムで20年以上にわたり、新興市場におけるレピュテーション構築およびベトナム展開支援を専門とするPRストラテジストのマシュー・アンダーウッド氏だ。政府の影響を受けてメディア環境の再構築が進むベトナム。オーディエンスに情報を届ける「仲介者」であるメディア・ジャーナリストをいま一度深く理解した上で、適切な情報を、適切な順序・方法で届けることの重要性を指摘する。
 

急速に変化するベトナム市場を攻略するPR戦略


 私たちのオフィスの壁には、私が長年クライアントに伝えてきた言葉が掲げられている。

「ベトナムで発信することは、すべてベトナムについてでなければならない」

 ベトナムでコミュニケーションに携わって約23年。そのうち6年間は別の会社を経営し、17年近くをMatterhorn Communicationsの立ち上げと運営に費やしてきたが、今なお、この言葉を修正する理由はほぼない。


<執筆者>
Matthew Underwood マシュー・アンダーウッド
Matterhorn Communications マネージングディレクター

ベトナムで20年以上にわたり、新興市場におけるレピュテーション構築およびベトナム展開支援を専門とするPRストラテジスト。Matterhorn Communicationsの創業者。同社をホーチミンに本社を置く有力PR会社へ成長させ、グローバル企業の市場参入および広報戦略を主導。それ以前は、シンガポールの Upstream Asia で 2 年間リージョナルアカウントディレクターを務めたほか、オーストラリアのWrightsでアカウントマネジメントなどを歴任。

 これは単に、コミュニケーションを「ローカライズ」すべきだという話ではない。今日、多くの洗練されたグローバル企業にとって、グローバルメッセージを各市場に合わせて調整する必要性があることは説明するまでもない。

 より興味深いのは、経済、メディア環境、そして人々の情報消費のあり方が同時に変化している国において、「ローカライズ」とは何を意味するのかという点である。ベトナムは、非常に速いスピードで変化している市場だ。そのダイナミズムこそが大きな魅力のひとつである一方、地域共通の前提に基づいて構築されたコミュニケーション戦略は、特に影響を受けやすい。

 他の市場で上手くいったことが、そのままベトナムで通用するとは限らない。5年前にベトナムで上手くいったことが、今も通用するとは限らない。そして最終的には、市場が商品やサービス、テクノロジーを、開発者が当初想定していたものとは異なる方法で使うことさえある。
 

再構築されるメディア環境


 最も顕著な変化は、メディアの構造そのものにある。

 ベトナムの主要メディアはその大半が国有であり、多くのアジア市場とは異なる環境の中で運営されている。通常の商業コミュニケーションを行う企業にとって、こうした境界線が日々の活動において大きな障害となることはほとんどない。しかし、どこにその境界線があるのかを理解することは、ベトナムで活動するために必要な基本知識だ。

 現在、特に注目すべきなのは、そのメディアシステム自体が大きな変化の途上にあることだ。2025年に行われた政府全体の組織再編を受け、2026年にはメディア業界でも統合が大きく進んだ。かつては別々に、場合によっては競合しながら運営されていたメディアや組織が、テレビ、ラジオ、新聞、デジタル、ソーシャルなどを包含する、より大きなメディア構造の中に組み込まれるようになっている。

 これは単なる組織再編ではない。業務フローやビジネスモデル、そして場合によってはジャーナリストの役割そのものも変化している。

 キャリアの大半をひとつの媒体に専念してきた人々が、複数の媒体を横断して考えることを求められるようになっている。なかには、タイプライターの前でキャリアをスタートした記者が、現在では同僚のスマートフォンに向けて出演することを求められているケースもある。

 こうした統合の最終的な形はまだ見えていないため、現時点で断定的な結論を出すのは早い。しかし、ここで改めて認識しておくべきことがある。メディアは、企業のメッセージを一方的に届ける固定された「チャネル」ではない。メディアそのものが、変革の途上にあるひとつの「機関」なのである。

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