MAD STARS

「​アイデアの源泉は、人間側の“知覚変動”にある」電通・村田俊平【MAD STARS審査員インタビュー】

​ 韓国・釜山で開催される国際広告祭「MAD STARS」。今年、Film・Outdoor・Print・Radio & Audioの4カテゴリからなる「Traditional」部門の最終審査員を務めたのが、電通のクリエイティブディレクター/CMプランナーである村田俊平氏だ。

​ 世界中から集まるエントリー作品と向き合い、多国籍な審査員たちと議論を交わした初の海外審査。そこで村田氏が掴んだのは、AIによって揺らいだ「人間の倫理観や身体性」にこそ、次世代のアイデアの鉱脈があるという視点だった。
 

いま直感的に惹かれるのは、身体性を伴うもの


​—— 今回、初めて審査員として「MAD STARS」に参加されました。審査の現場を経験されてみて、このアワードならではの空気感や独自性をどう捉えられましたか。

​MAD STARSは、スパイクスアジアやアドフェスト同様、アジア地域で開催される広告賞ですが、ユニークな立ち位置にあります。応募作の大半がアジア圏から集まる一方で、審査員には欧米の文化圏からの方が少なくありません。

​アジア人だけでアジアの作品を審査する視点の狭小化を脱して、文化的背景の異なる欧米の審査員をも納得させる必要があるため、客観的・本質的な議論が叶います。

一方で当然難しいのは、アジア特有の文化やニュアンスが伝わりにくいことです。同じアジア人同士なら「こういう社会の空気感、あるよね」と直感的に共感できるインサイトも、欧米の審査員には前提から説明しなければならず、その過程でどうしても作品の熱量が薄まってしまうもどかしさがありました。
 
電通
クリエイティブディレクター/CMプランナー
村田俊平氏

専門はTVCMの大型キャンペーンからWEBムービーなど、動画コミュニケーションおよび、動画を中心とした統合ディレクション。2009年電通入社、2010年よりクリエイティブ局。2013年から志願し電通九州へ。2015年、企画が最もすぐれたCMの制作者に送られる小田桐昭賞、クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリストを受賞。2016年電通第3CRプランニング局帰任。2019年2月よりまたまた志願し、オーストラリアのBWM Dentsu Melbourneへ。2020年3月3CRP帰任。趣味は読書、釣り、ジム、ボルダリング、英語とあんみつ。最近生け花(小原流)を始めた。猫好きの猫アレルギー。

カンヌライオンズのように欧米の基準中心で競うわけではなく、かといってアジア人だけで盛り上がる内輪の賞でもない。この不思議なバランスがMAD STARSの特徴ですね。

​また、審査基準はわりとシビアな印象でした。グランプリ、ゴールド、シルバー、ブロンズに選出する作品の数や割合があらかじめ決まっていないため、「このカテゴリーは該当作が少ないので、ブロンズのみ」などということが普通に起こります。

実際、私も担当した今年のPrint部門はブロンズ受賞作のみで、シルバー以上は該当なしでした。出品費が手頃で参加しやすい賞でありながら、決して受賞しやすいわけではない。だからこそ、挑戦してくる作品にはいい意味での「ハングリー精神」があり、数の少なさに反して質は極めて高いと感じました。

​—— 膨大な作品群を評価する中で、今年のクリエイティブやマーケティングに共通する「新しい潮流」としてどのようなものを感じ取られましたか。

昨年すでにそうでしたが、AIをアイデアの中心においたものはどんどん少なくなっている印象です。やはり直接的にAIを手段として無理やり使うような作品は、審査の上位には上がってきませんでした。

AIの反動か、上位で強さを発揮していたのは、あえて「手仕事」が強調されたクラフト感のあるフィルムや、ライブイベントなどのリアルなアクティベーション、つまり「身体性」や「人との距離感の近さ」を伴った作品群でした。

Outdoor (屋外広告)部門の上位作品がまさに象徴的です。ひとつはカザフスタンの銀行・ForteBankの「Humanity Chain」。これはネット上で話題になった人々の親切な行動や人間愛を、デジタル空間のバズで終わらせず、わざわざ現実の「銅像」として物理的に制作・設置したものです。
 
 
ForteBank「Humanity Chain」

もうひとつは、Netflixタイによる、ミステリードラマ『Dalah: Death and the Flowers』のプロモーションを目的に制作された屋外広告「The Spoiled Flowers Billboard」。バンコクの中心部に本物の生花で作った巨大なビルボードを設置し、時間が経って花が枯れ落ちると、その下に隠されていた「犯人の顔」が現れるという仕掛けです。「早く観ないと街の広告にネタバレされる」という人々を駆り立てる仕掛けを、生花が枯れるという物理現象を用いてリアルタイムに作り出した。どちらも、アナログなリアリティと身体性を持ったアプローチですよね。
 

注目すべきはテクノロジーによってもたらされた変動


​—— 今後、日本のクリエイティブ業界が取り入れていくべき視点はどこにあるとお考えでしょうか。

​見るべきはAIそのものではなく、AIが社会に入ってきたことで人間にもたらされた大きな感覚の変動、言うなれば“知覚変動”なのだと思います。

​誰もがAIを簡単に使えるようになったことで、人々は相対的に手仕事や物理的な体験に対して憧れを抱くようになっていますし、時に人間の倫理観の輪郭そのものも揺さぶられています。先ほどの身体性を伴ったAI時代においてはあまりに非効率な仕掛けが高く評価されたのも、そうした変動の表れかと思います。

​AIの登場によって、人間にとって何の価値が相対的に上がったのか。そしてその揺らぎが、社会のどこで、どういう形で具体的に顕在化しているのか。そこをいち早く見つけ出して掘り起こすことへと、これからのクリエイティブの出発点は移りつつあると感じています。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録