【リレー連載】アジア市場を攻略するローカルインサイトとナラティブ戦略 #07
味の素はどうやってフィリピン家庭からの信頼を掴んだのか【リレー連載Vol.07 フィリピン】
2026/10/01
アジア市場は、日本企業の今後の成長を左右する最重要エリアのひとつである。しかしその一方で、アジア各国の市場環境は、たとえ隣国であっても大きく異なり、文化的・社会的背景の多様性が日本企業の進出における高い障壁となっている。こうした状況を踏まえて発足したのが、シンガポール・タイ・インドネシア・ ベトナム・マレーシア・フィリピンの6ヵ国を代表するPRストラテジストが結集し、日本企業のアジア進出を支援するコレクティブネットワーク(専門家組織)「PR Collective Asia」である。
参考:アジア市場におけるPR戦略の専門家組織「PR Collective Asia」発足
本連載は、PR Collective Asiaを構成するPRストラテジストによるリレー形式で展開する。各執筆者がこれまで手がけてきたコミュニケーション戦略を振り返りながら、各国の文化・宗教・商習慣・メディア構造といった特徴を紹介する。5回目となる今回は、ここ数十年で最大規模の変革期を迎えているというインドネシアのメディア産業に注目し、同国に進出する日本企業・ブランドがどのようにメディアリレーションズを築くべきかを解説する。
今回執筆を担当するのは、フィリピンで20年以上にわたり、レピュテーション管理、ブランド戦略、公共政策広報、危機対応の分野を牽引してきたPRストラテジストのマリン・モリーナ氏だ。
同氏によると、フィリピンにおいて信頼を得るには、企業が「知られていること」「良い企業だと思われていること」「一貫していること」という3つの条件がある。そして日本企業は、2つ目と3つ目の条件では高く評価される一方、弱点になりやすいのが1つ目の「知られていること」だという。
参考:アジア市場におけるPR戦略の専門家組織「PR Collective Asia」発足
本連載は、PR Collective Asiaを構成するPRストラテジストによるリレー形式で展開する。各執筆者がこれまで手がけてきたコミュニケーション戦略を振り返りながら、各国の文化・宗教・商習慣・メディア構造といった特徴を紹介する。5回目となる今回は、ここ数十年で最大規模の変革期を迎えているというインドネシアのメディア産業に注目し、同国に進出する日本企業・ブランドがどのようにメディアリレーションズを築くべきかを解説する。
今回執筆を担当するのは、フィリピンで20年以上にわたり、レピュテーション管理、ブランド戦略、公共政策広報、危機対応の分野を牽引してきたPRストラテジストのマリン・モリーナ氏だ。
同氏によると、フィリピンにおいて信頼を得るには、企業が「知られていること」「良い企業だと思われていること」「一貫していること」という3つの条件がある。そして日本企業は、2つ目と3つ目の条件では高く評価される一方、弱点になりやすいのが1つ目の「知られていること」だという。
フィリピン人が「信頼している」と言うとき、本当は何を意味しているのか
フィリピンで「信頼」に関する調査を実施すれば、その結果は非常に良好なものに見えるだろう。フィリピン人は、政府機関、銀行、学校、病院、食品会社、小売企業など、幅広い組織・機関に対して高い信頼を示す。所得層や地域を問わず、80%台、90%台という高いスコアが出ることも珍しくない。
フィリピンへの進出や事業拡大を考える日本企業にとって、こうした数字は朗報のように見える。しかし、現実は違う。
むしろこれは、フィリピン市場において最も誤解されやすいデータのひとつである。私が社長を務めるEONでは、10年以上にわたり、フィリピンにおける「信頼」をテーマとした全国調査を実施してきた。全国規模の定量調査に加え、ルソン、ビサヤ、ミンダナオの各地域で長時間のグループディスカッションも行っている。
<執筆者>

Malyn Molina マリン・モリーナ
EON 社長 兼 COO
20年以上にわたり、レピュテーション管理、ブランド戦略、公共政策広報、危機対応の分野を牽引してきたPRストラテジスト。その深い知見と先見性で、ステークホルダーリレーションズを実践している。フィリピン最大級かつ歴史ある統合型コミュニケーション・コンサルティング会社の一つ EONの社長兼COOとして、同社を継続的な業界評価へと導き、「Philippines PR Agency of the Year」などの受賞を実現。同社では、アジア開発銀行をはじめとする国際機関や主要政府機関との地域横断プロジェクトを拡大し、規制産業におけるレピュテーション戦略を構築した。国家ブランド強化に向けたプロジェクトも推進。日産、ユニクロ、味の素など日本企業の支援実績も多数。
EON 社長 兼 COO
20年以上にわたり、レピュテーション管理、ブランド戦略、公共政策広報、危機対応の分野を牽引してきたPRストラテジスト。その深い知見と先見性で、ステークホルダーリレーションズを実践している。フィリピン最大級かつ歴史ある統合型コミュニケーション・コンサルティング会社の一つ EONの社長兼COOとして、同社を継続的な業界評価へと導き、「Philippines PR Agency of the Year」などの受賞を実現。同社では、アジア開発銀行をはじめとする国際機関や主要政府機関との地域横断プロジェクトを拡大し、規制産業におけるレピュテーション戦略を構築した。国家ブランド強化に向けたプロジェクトも推進。日産、ユニクロ、味の素など日本企業の支援実績も多数。
定量調査から分かるのは、「フィリピン人は高い信頼を示す」ということだ。一方、ディスカッションから見えてくるのは、彼らがその「信頼」という言葉に、実際にはどのような意味を込めているのかということである。
このギャップにこそ、多くの海外ブランドがフィリピン市場で投資を無駄にしてしまうポイントが潜む。
フィリピン人は、無条件に相手を信頼するわけではない。私たちが実施したディスカッションでは、フィリピン人は「信頼」を、その一部をあえて留保しておくものとして語る。
その組織や企業が自分たちの期待を裏切る可能性があることを想定しながら、それでも信頼する。ほかの選択肢のほうが悪いから信頼する。そして多くのカテゴリーでは、ほかに選択肢がないから信頼しているのである。
ある参加者は、こう率直に語った。
「選択肢がないから、信頼しているんです」
また、自身が利用している電力会社について、別の参加者はこう語った。
「ここには電力会社が一社しかありません。私がその会社に求めているのは、透明性です」
これは、企業が自社の市場データをどう読み解くべきかを大きく変える視点である。商品を買ってもらっていることと、信頼されていることは同じではないのだ。
ある家庭が15年間にわたって同じ商品を購入していたとしても、それは単に、その商品が最も手に入りやすい、あるいは価格的に購入しやすい選択肢だからかもしれない。リピート購入は、必ずしもロイヤルティを意味しない。それは単なる「計算」の結果であることもある。
したがって、企業が問うべきなのは、単に「消費者は私たちをどの程度信頼しているか」ではない。「現在の市場におけるポジションのうち、どの程度が本当の意味での選好によるもので、どの程度が習慣、利便性、あるいは選択肢の少なさによるものなのか」ということなのだ。
フィリピンで信頼をつくる3つの条件
私たちの調査から、フィリピンにおいて信頼を得るには3つの条件があることが分かっている。
それは、企業が「知られていること(known)」、「良い企業だと思われていること(good)」、そして「一貫していること(consistent)」である。
日本企業は一般的に、2つ目と3つ目の条件では高く評価されている。高い能力や品質基準、信頼性、そして長期的なコミットメントを備えた存在として認識されることが多い。一方、弱点になりやすいのが1つ目の「知られていること」だ。
日本企業は一般的に、高い実力や優れた取り組みを持ちながら、それが十分に知られていないことがある。ここは重要なポイントだ。
社会からの信頼は、企業の評判だけで築かれるものではない。また、「その会社に知り合いがいる」といった個人的なつながりだけで形成されるものでもない。実際、私たちの調査では、個人的なつながりが組織への信頼に与える影響は、比較的小さいことが分かっている。
それ以上に信頼を大きく左右するのが、組織としての能力、善意、倫理的な行動、そして他者の意見に耳を傾ける姿勢である。
もちろん、フィリピンでビジネスを進めるうえで、人間関係が極めて重要であることは間違いない。しかし、単に相手を「よく知っている」というだけでは、その組織への信頼には直結しない。
大切なのは、自らの能力や姿勢を、人々に伝わる形で示し続けることだ。「知られている」だけではなく、「何ができる企業なのか」「どのような姿勢で社会と向き合っているのか」を目に見える形で示す。その積み重ねこそが、フィリピンにおける信頼に繋がっていくのである。




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