MAD STARS

バングラデシュ発の世界的エージェンシー「POP5」のクリエイティブトップが志す「Goodvertising」「Solvertising」とは【MAD STARS審査員インタビュー】

  国際広告祭「MAD STARS2026(釜山国際マーケティング広告祭)」が8月26日-28日の3日間、釜山 海雲台のシグニエル釜山にて開催された。

 アジェンダノートでは、最終審査員として現地審査に参加したクリエイターを中心にインタビューを実施。今回登場するのは、「Strategy」グループの最終審査員を務めた、バングラデシュ・ダッカを拠点とする総合広告会社 POP5のチーフ・クリエイティブ・オフィサーであるMohammad Akrum Hossain氏だ。 メッセージを伝えるだけではなく、現実に存在する課題を解決するためにクリエイティビティを活かす仕事=「Goodvertising」「Solvertising」に取り組んでいきたいと語る同氏に、今年のMAD STARSの印象や、バングラデシュのクリエイティブ・クリエイティビティの潮流について聞いた。
 

評価されたのは「ブランドと切り離せない」戦略・アイデア


ー MAD STARS 2026の応募作品や受賞作品について、どのような印象を持ちましたか。

私はグループ4「Strategy」の最終審査員の一人として、Strategy、Integrated、Media、SDGs、Place Brandの各部門の作品を審査しました。
 
Mohammad Akrum Hossain
POP5
Chief Creative Officer

 約20年にわたり、国内外のブランドのクリエイティブを手がけ、Cannes Lions、Spikes Asia、Effie Awardsなど、国内外で260以上の受賞歴を持つ。2025年は「Plot Farming」がMAD STARSでグランプリを受賞したほか、ADFEST、PHNX Awardsでも受賞。Cannes Lions、D&AD、The One Show、Clio、MAD STARSなど、世界各地のクリエイティブアワードで審査員を歴任している。バングラデシュ発のクリエイティブを世界へ発信する、同国を代表するクリエイターの一人。

審査において、まず私たちが確認しなければならなかったのは、「その作品が本当に応募カテゴリにふさわしいものかどうか」です。そのうえで、戦略的な裏付けがあるか、文化的な文脈を捉えているか、独自性があるか、そして意味のあるインパクトを生み出せるか、といった点を見ていきました。

今年は、単にインパクトがあるだけでなく、その背景にあるブランドにしっかりと根ざした作品が多かったと感じています。新鮮で、明確な目的があり、オーセンティックである。そうしたアイデアが、審査員の心に最も強く響きました。どのブランドでも成立するようなアイデアではなく、戦略とアイデアがそのブランドと切り離せないものになっている作品が、明確に評価されていたと思います。

なかでも特に印象に残ったのが、「Soil Stay」と「JOBSTAY Project」です。この2つには、私がクリエイティブにおいて非常に大切にしているものがありました。それは、極めてローカルなインサイトから出発しながら、世界へスケールしたり、ほかの地域にも応用したりできる可能性を持つアイデアへと発展させる力です。
 
タイの肥料ブランド TRA MONGKUT FERTILIZERによる「SOIL STAY」。自社の土壌データベースを活用して、ファームステイのマッチングを実施。農業従事者に、成功した農家の有効な農法を学ぶ機会を提供した。
 
韓国の求人プラットフォーム Worxphereによる「JOBSTAY Project」。大都市に集中する若年層を対象に、地方の魅力を味わいながら、小規模事業者で短期間のアルバイト・就業体験を行う仕組みを提供。地方の人口減少や人手不足の解消を目指す地域活性化プロジェクト。

また、どちらもそれぞれのブランドとの関連性が非常に高く、若い世代を地域の観光や知識、体験ともう一度つなげていくという、今まさに高まりつつあるニーズにも応えていました。

根底にあるのは、知識を共有し、人と場所の間に意味のある交流を生み出すことです。戦略的に優れ、社会との関連性も高く、なおかつ美しく実現されていた。その点で、私にとって特に記憶に残る作品でした。

ー バングラデシュおよびアジアの広告・クリエイティブ業界の現状をどのように見ていますか。また、現在の業界が直面している主な課題は何でしょうか。

長年にわたって業界を見てきたなかで、そして今年の作品を審査してみて、改めて感じたことがあります。それは、その国の経済力と、世界の舞台で継続的に競争力のある作品を生み出せる力との間には、一定の関係があるということです。

市場規模が大きい国ほど、予算やテクノロジー、人材、そして新しいことに挑戦するためのインフラにアクセスしやすい傾向があります。

バングラデシュには非常に大きなクリエイティブの可能性がありますが、まだ発展の途上にあります。日本、タイ、シンガポールといった市場と比較すると、目指すスケールの大きさやイノベーションへの投資、そして世界で競争できるクリエイティブ・エコシステムの構築という点では、まだ前進していく必要があると感じています。

特に大きな課題のひとつが、クリエイティビティとイノベーションへの投資が限られていることです。予算が限られていれば、新しいことにトライするのは難しくなりますし、野心的なアイデアを育て、実現することも難しくなります。そして、それは人材を取り巻く環境にも直接影響します。

バングラデシュには多くの才能ある人材がいます。しかし、その人材を国内にとどめてしまうことが大きな課題です。国際的に競争できるレベルまで成長した人ほど、より良い機会や環境、リソース、そしてより大きなスケールで仕事ができる場を求めて、国外に目を向けることが少なくありません。

つまり、問題は才能がないことではありません。そうした才能ある人たちがバングラデシュにとどまり、成長し、世界に向けてバングラデシュを代表するような仕事を生み出せる環境を、いかにつくっていくか。それが私たちの課題だと思います。
 

「Goodvertising」や「Solvertising」と呼べるような仕事を


ー 現在、バングラデシュの広告・クリエイティブ業界では、どのようなテーマが特に注目されていますか。また、勢いを増していると感じる業界や分野はありますか。

今、最も大きな関心を集めている分野のひとつは、間違いなくテクノロジーです。なかでもAIは、エージェンシーとクライアントの間で交わされる議論において、大きなテーマになっています。ほぼすべてのクライアントが、コンテンツ制作やプロダクション、あるいはより広範なマーケティングのエコシステムに、AIをどのように取り入れられるかを模索しています。

興味深いのは、AIを単なる制作ツールとして捉える段階から、すでに議論が先へ進み始めていることです。今、より重要になっているのは、ブランドがテクノロジーを使ってどのように課題を解決し、体験を向上させ、新しいエンゲージメントの形を生み出せるか、という問いです。

この変化は、バングラデシュにとって非常に重要になると思います。テクノロジーを活用することで、制作リソースや規模の面で私たちが抱えている制約の一部を補うことができます。

ただ、本当の可能性は、そうしたツールを優れたローカルインサイトやオリジナルな発想と組み合わせることにあると思っています。

ー バングラデシュの広告・クリエイティブ業界でAIがどのように受け止められ、活用されているか、もう少し詳しく教えてください。

AIに対する捉え方は、かなり大きく変化しました。AIを活用したコンテンツが登場し始めた当初、業界内にはある程度の抵抗感がありました。AIはクラフトの質を損なうもの、あるいはクリエイティビティにおける人間の役割を奪うものとして見られることも少なくありませんでした。

しかし、この2~3年でAIは急速に一般化しています。クライアント側からも、AIの活用を積極的に検討してほしいという要望が出るようになり、エージェンシーもクリエイティブや制作プロセスのさまざまな段階にAIを取り入れています。

興味深いのは、今また新しいフェーズに入りつつあることです。この1年ほどで、明らかに「AIでつくった」と感じられるコンテンツに対して、クライアントもオーディエンスも、より厳しい目を向けるようになってきました。AIそのものの目新しさが薄れ、人々はそのコンテンツが本当にオーセンティックなのか、独自性があるのか、人間らしさを感じられるのか、といったことに、より敏感になっています。

だからといって、AIがなくなるとは思いません。むしろ、その逆です。AIとの関係がより成熟したものへと変わり、人間のクリエイティビティを置き換えるのではなく、それを増幅するためのツールになっていくのだと思います。

次のフェーズは、ますます人間中心のものになるでしょう。テクノロジーが価値を生むところでは積極的に活用しながら、アイデアや感情、文化的なインサイト、そして独自の視点といった部分は、あくまで人間ならではのものであり続ける。そうした方向に進んでいくと考えています。

ー 業界や社会を取り巻く今後の変化を見据えて、個人的にはどのようなプロジェクトに携わり、どのようなクリエイティブを生み出していきたいですか。

これからも、広い意味で「Goodvertising」や「Solvertising」と呼べるような仕事に取り組んでいきたいと思っています。つまり、単にメッセージを伝えるためだけではなく、現実に存在する課題を解決するためにクリエイティビティを活用する仕事です。

特に興味があるのは、そのブランドだからこそ意味があり、人々の生活に具体的なインパクトをもたらすアイデアです。私にとって最も強い仕事とは、「ブランドとの関連性」「人々のニーズ」「意味のあるインパクト」、この3つが交わるところに生まれるものです。

何かを解決する、何かを変える、あるいは新しい行動を生み出す。それと同時に、人々がそのブランドをどう捉え、どう体験するかまで変えていく。そうした仕事に魅力を感じます。

最終的には、クリエイティブアイデアがビジネスや社会と切り離されて存在するのではなく、ブランドそのものの変革の一部になるような仕事に携わりたいです。人々に価値をもたらすと同時に、そのブランドが人々の生活のなかで、より意味のある役割を担えるようにする。そんなクリエイティブを生み出していきたいと思っています。
   
<Mohammad Akrum Hossain氏の代表作>
 
POP5の代表作となったサステナビリティプロジェクト「Plastic Exchange Store」。非営利団体「Bidyanondo Foundation」と連携して立ち上げられた店舗では、住民が集めたプラスチックごみを「通貨」として扱い、米、レンズ豆、小麦粉、文房具などの日用品と交換することができる。回収されたプラスチックはリサイクル業者に売却され、その売却益が店舗に並ぶ新たな物資の購入資金に充てられた。住民の意識を「プラスチック=単なるゴミ」から「価値ある代替通貨」へと変え、地域のビーチや街のクリーンアップに劇的な効果をもたらした。
 
不動産企業 Shopnodhoraによる、都市部の未利用地を農地へと転換する持続可能な社会貢献イニシアチブ「Plot Farming」。急速な都市化によって長期間放置されている投資用の空き地と、土地を持たない農民を結びつけるプロジェクト。土地所有者から一時的に利用許可を得て農民が作物を育て、収穫物を農民と土地所有者で折半する仕組みを構築。遊休地を活用しながら、農民の食料と収入の確保につなげた。MAD STARS 2025のSDGs部門でグランプリを受賞し、設立まもないPOP5は「世界で最もクリエイティブなエージェンシー」第8位にランクインする快挙を成し遂げた。

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