MAD STARS
韓国独立系広告会社 INNORED トップが語る「密度のあるブランドづくり」と「低高度のイノベーション」【MAD STARS 現地インタビュー】
2026/10/02
国際広告祭「MAD STARS2026(釜山国際マーケティング広告祭)」が8月26日-28日の3日間、釜山 海雲台のシグニエル釜山にて開催された。
アジェンダノートでは、最終審査員として現地審査に参加したクリエイターを中心にインタビューを実施。今回登場するのは、韓国の独立系広告会社・INNORED の創業者/CEOであるHyunwoo Park氏。MAD Committee(組織委員会)のアドバイザリーメンバーを務める同氏に、韓国の広告業界が抱える課題と、そこから脱却するためにインディペンデントエージェンシーが果たす役割、そしてAI時代を背景にINNOREDが志向する「密度のあるブランドづくり」と「Low-Altitude Innovation(低高度のイノベーション)」について聞いた。
アジェンダノートでは、最終審査員として現地審査に参加したクリエイターを中心にインタビューを実施。今回登場するのは、韓国の独立系広告会社・INNORED の創業者/CEOであるHyunwoo Park氏。MAD Committee(組織委員会)のアドバイザリーメンバーを務める同氏に、韓国の広告業界が抱える課題と、そこから脱却するためにインディペンデントエージェンシーが果たす役割、そしてAI時代を背景にINNOREDが志向する「密度のあるブランドづくり」と「Low-Altitude Innovation(低高度のイノベーション)」について聞いた。
「人間であること」の意味を大切にしたストーリーの重要性を再認識した
ー 御社が手がけたSamyang Foods「Samyang 1963」が、MAD STARS 2026 Strategy部門でCrystalを受賞されました。おめでとうございます。今年の応募作品や受賞作品について、どのような印象を持ちましたか。全体を通して感じた傾向や、特に印象に残った作品についてもお聞かせください。
温かいお祝いの言葉をありがとうございます。Samyang Foodsの「Samyang 1963」がCrystalを受賞できたことは、INNOREDのチームにとって非常に意義深い栄誉です。とりわけ、ADFEST 2026での受賞に続き、今回も評価をいただけたことを大変嬉しく思っています。
Samyang Foods(三養食品)「The Acquitted Ramyeon Returns(無罪となったラーメンの帰還)— Samyang 1963」。1963年に発売され、国民的ヒットとなった韓国初のインスタントラーメン「サムヤンラーメン」は、1989年に「工業用牛脂を使用している」という誤情報が広がった「牛脂波動」で大きな打撃を受けた。2025年、三養食品は当時の製法を現代風にアレンジした「サムヤン1963」を発売。単なる復刻ではなく「名誉の回復と誠実な帰還」を掲げ、当時解雇された従業員を招いて最初に試食してもらうことで、雪辱と感謝をエモーショナルに描いた。大きな話題を呼び、関連動画は約8,000万回再生、発売1ヵ月で700万個以上を売り上げるヒットとなった。

Hyunwoo Park
INNORED
Founder / CEO
2007年、INNOREDを設立。2023年 AdAsia Seoulクリエイティブ部門責任者、2022年「Advertiser of the Year Korea」選出。同年Cannes Lionsでシルバー1、ブロンズ1を受賞。2021年LIA審査員、2019年New York Festivals(NYF)Grand Juryを歴任。
INNORED
Founder / CEO
2007年、INNOREDを設立。2023年 AdAsia Seoulクリエイティブ部門責任者、2022年「Advertiser of the Year Korea」選出。同年Cannes Lionsでシルバー1、ブロンズ1を受賞。2021年LIA審査員、2019年New York Festivals(NYF)Grand Juryを歴任。
MAD STARS 2026の作品全体を見て感じたのは、表層的なテクノロジーの目新しさを追い求める方向から、人間の感情の本質的な深さを重視する方向へと、明確な変化が起きていることです。
さまざまなカテゴリーでAIツールがごく自然に制作へ取り入れられていましたが、高く評価された作品が際立っていたのは、単にテクノロジーの能力を誇示したからではありません。人間の弱さや繊細さに寄り添い、失われつつある文化的なつながりを取り戻すために、テクノロジーを活用していたからです。
その傾向を象徴する作品が、グランプリを受賞したTBWA\HAKUHODOの「Radio Time Machine」です。認知症を抱える高齢者のために開発されたこのプロジェクトでは、AIによって、レトロなラジオのダイヤルを特定の時代の放送を生成する装置へと変えました。年代を選ぶと、その当時のニュースや音楽、声が再現され、それらをきっかけに記憶を呼び起こし、ケアにつなげていくというものです。
AIを使って人と人との交流を自動化したり、置き換えたりしたのではありません。テクノロジーを、人々が失われた自分自身の記憶や歴史と再びつながるための、穏やかな「認知の架け橋」として活用したのです。
ニチイ学館「Radio Time Machine」。全カテゴリーの中で最も優れた作品としてグランプリ・オブ・ザ・イヤーを受賞した。
大量の「低密度なコンテンツ」があふれる時代だからこそ、本当に心に響いたのは、「Samyang 1963」で私たちが目指したアプローチも含め、コンセプトの密度を保ち、オーディエンスの貴重な時間を尊重しながら、「人間であること」の意味を大切にした物語へと人々を招き入れる作品でした。
ー Parkさんは、MAD Committee(MAD STARS組織委員会)のアドバイザリーメンバーを務めていらっしゃいます。MAD STARSは今後、国際的な広告フェスティバル/アワードとして、どのように進化していくべきだと考えますか。
MAD Committeeのアドバイザリーメンバーとして、MAD STARSには独自の強みがあると考えています。それは、開かれた姿勢、文化的な包摂性、そしてクリエイティビティをより多くの人に開いていく「民主化」へのコミットメントです。
これからのMAD STARSには、従来型のアワードプログラムという枠を超え、真の「Thought Leadership(思想的リーダーシップ)」を生み出すグローバルプラットフォームへと進化してほしいと思っています。広告という狭い領域にとどまらず、文化や社会全体にまで影響を与える存在になるということです。
そのためには、CMOやブランドマーケターが心から「参加したい」と思えるフェスティバルへと、さらに裾野を広げていく必要があります。広告会社だけの内輪の祭典にとどまるのではなく、世界のブランドリーダーやマーケターたちが戦略的な先見性を得て、自らの世界観を捉え直し、クリエイティビティがビジネスや文化にどのような実質的なインパクトをもたらすのかを発見できる、欠かせない交流の場になるべきです。
さらに、次世代のクリエイターやマーケターを積極的に支援することも、MAD STARSが担うべき重要な役割です。私たちの業界の未来は、若い才能をいかに育て、励まし、その力を引き出せるかにかかっています。
MAD STARSは、新進のクリエイターや機動力のあるインディペンデントエージェンシーにとって、世界へ羽ばたくための強力な出発点になれるはずです。単にトロフィーを授与するだけでなく、戦略的なメンタリングや、世界にその存在を知ってもらう機会まで提供するのです。
テクノロジーを活用する力と人間中心の価値観を結びつけ、エージェンシーのリーダーとCMOを一堂に集め、次世代の若いビジョナリーを育てていく。そうすることでMAD STARSは、自動化が進む世界において、ビジネスと人々の暮らしの双方を豊かにするフェスティバルとして、独自のアイデンティティを確立できると思います。

韓国の広告業界が抱えるパラドックス
ー 韓国のコンテンツ・エンターテインメント産業の成長と、世界における存在感の高まりは目覚ましいものがあります。現在の韓国の広告・クリエイティブ業界をどのように見ていますか。また、どのような課題があると考えますか。その中で、INNOREDのようなインディペンデントエージェンシーは、どのような役割を果たすべきでしょうか。
現在、韓国のコンテンツ・エンターテインメントを取り巻くエコシステムは、かつてないほど世界的な勢いを得ています。しかしその一方で、広告業界はある種のパラドックスを抱えています。韓国発の文化的IPが世界へ広がる一方、広告会社は短期的なデジタル指標と、極端なまでの業務スピードを求められる環境にとらわれ、クリエイティブの深みを失いかねない状況にあります。
今、重要なのは、単なる「量」の拡大から「コンセプトの密度」を高める方向へと転換することです。指標ありきの戦術から脱却し、長く持続するブランドの哲学を築いていかなければなりません。
まさにここで、INNOREDのようなインディペンデントエージェンシーが重要な役割を果たすと考えています。硬直した企業構造やインハウスネットワークの制約に縛られないからこそ、インディペンデントエージェンシーには、真の「Thought Leadership(思想的リーダーシップ)」を実践する自由があります。
INNOREDは19年前の創業以来、「広告業界をイノベートする」というミッションのもと、広告の可能性を広げ、先駆的な企業文化を築くために、絶え間ない努力を続けてきました。私たちは、エージェンシーが生み出すクリエイティブは、その組織の内側にある文化や職場環境を直接反映するものだと考えています。
だからこそ、私たちは自分たちの役割を、単にキャンペーンを生み出すことだけだとは考えていません。エージェンシーで働く人々のウェルビーイング、インディペンデント同士が協働するエコシステム、そして長期的なブランド構築のあり方を再定義し、業界の新たな潮流をつくる存在でありたいと考えています。
健全な組織文化を育み、戦略的な知見を次世代へ受け継いでいくことで、インディペンデントエージェンシーは、持続可能なかたちで卓越した仕事を生み出しながら、クリエイティブ業界をリードしていけると思います。
ー 現在、韓国の広告・クリエイティブ業界では、どのようなテーマが特に注目されていますか。 また、特に勢いを増していると感じる業界や領域はありますか。
現在の韓国で最も重要な議論のひとつが、「ツールから存在へ」という転換です。生成テクノロジーが制作・実行を担うようになるなかで、「人間のクリエイティビティとは何なのか」を改めて定義しようとする動きです。
メディアチャネルが極度に細分化され、マーケターの間には強い疲弊感や先行きへの不透明感が広がっています。だからこそ今、中心的なテーマとなっているのが、自動生成されたコンテンツの海の中で簡単に忘れ去られることのない、「密度」のあるブランドをどう築くかということです。
特に勢いを増している分野としては、K-Food、ウェルネス、そしてとりわけIPを軸としたエンターテインメントコンテンツやライフスタイルブランドが挙げられます。こうしたカテゴリーのブランドは、もはや単なる機能的なベネフィットを売っているわけではありません。文化的な体験や、そのブランドならではの物語、没入感のある世界観そのものを世界へ発信しています。
韓国の先進的なマーケターたちは、表層的なソーシャルメディアの指標だけに頼るのではなく、より深いレベルでのエンゲージメントを重視するようになっています。そのため、実感を伴うつながりを生み出すキャンペーンへのニーズが急速に高まっています。それは没入型のポップアップストアにとどまりません。ブランドを直接、物理的に体験できる「Creative Products」への需要も高まっています。
消費者が実際に触れ、感じることのできる物理的なタッチポイントや独自の商品をデザインすることで、ブランドは消費者の貴重な時間を尊重しながら、オーセンティックで「密度」の高い関係を築こうとしています。
ー 現在、韓国の広告・クリエイティブ業界では、AIはどのように受け止められ、活用されていますか。
韓国では、AIは業務上の新しい可能性として試す段階から、すでに日常的の一部へと移行しています。世界の巨大テック企業が、いわば「高高度」でAIの覇権を争う一方、INNOREDでは、私が「Low-Altitude Innovation(低高度のイノベーション)」と呼ぶ取り組みを進めています。
AIに何ができるのかという抽象的な問いを立てるのではなく、私たちが重視しているのは、より現場に根差した課題です。人間のどの能力をこれまで以上に伸ばすべきなのか、そして何をAIに委ねるべきなのか。それを日々判断しています。
こうした「低高度」のAX(AIトランスフォーメーション)は、私たちのエージェンシーの働き方を根本から変えつつあります。
まず、「サポート」から「エンパワーメント」への変化です。私たちのテクニカルチームは、もはや単なる支援部門ではありません。独自の社内ツールを開発し、クライアントのビジネス課題を直接解決する、戦略的な問題解決者として機能しています。
次に、「ボーダーレスなクリエイティビティとグローバルへの展開」です。AIはグローバルプロジェクトにおける言語の壁を取り払い、同時にAE、アートディレクター、コピーライターといった職種間の境界も曖昧にしています。実行のプロセスがシンプルになることで、加工される前の純粋なアイデアそのものが、これまで以上に重要であることが明確になっています。
そして、「機動的でフラットなワークモデル」です。業務上の摩擦が減ることで、シニアディレクター2人で構成するチームや、「Individual Director」というモデルのような、高い自律性を備えたアジャイルな組織体制が機能しやすくなっています。
最終的に、AIは人間の才能を置き換えるものではありません。むしろ、私たちの業界が本来持つ本質、すなわち「考える力」を最大限に引き出すものです。業務上の負荷や摩擦を取り除くことで、AIは人間がより人間らしくあることを可能にし、クリエイティブ広告の本質をさらに深く追求できるようにしてくれるのです。
ー 業界や社会を取り巻く今後の変化を見据えて、個人的にはどのようなプロジェクトに携わり、どのようなクリエイティブを生み出していきたいですか。
INNOREDを創業して19年になりますが、私自身がこれから取り組みたいのは、単なる「量」よりも「深さ」を、アルゴリズムによるリーチよりも「人と人とのつながり」を育むプロジェクトです。
INNOREDでは、すべてのキャンペーンをひとつの根本的な問いから始めています。それは、「どうすれば、私たちの人々の力になれるだろうか?」という問いです。

これからは、真のオーセンティシティを持つブランドとパートナーシップを組み、そのブランドが本来持っている真摯な思いや本質を言語化し、より広く世界に響くものへと増幅していきたいと考えています。短期的な注目を追い求め、高速でつくられては消費されていく広告を量産するのではなく、消費者の実体験そのものを豊かにする、没入感のあるブランドの世界を築いていきたい。自動生成されたコンテンツがますます増えていく時代だからこそ、本当の安らぎや喜び、人間らしい温かさをもたらす仕事をつくりたいと思っています。
業界全体という視点では、これからも「Thought Leadership」を生み出し、持続可能なクリエイティブ・エコシステムを育てることに力を注いでいきます。その姿勢を象徴する取り組みのひとつが、私たちが毎年開催しているマーケティングカンファレンス「CHANGE」です。今年で14回目を迎えます。CHANGEを通じて、私たちは10年以上にわたり、変化し続ける自分たちの世界観をマーケターやブランドリーダーと共有しながら、「私たちの仕事は何のためにあるのか」という本質的な問いを絶えず掘り下げてきました。
CHANGEのような取り組みをリードし、「どうすれば人々の役に立てるのか」を問い続け、次世代のインディペンデントなクリエイティブ人材を支援していく。その積み重ねによって、INNOREDを、卓越した才能を持つ人々が力を発揮できる場所であり続けさせたいと思っています。そして、社会に長くポジティブな足跡を残す「Beloved Ideas(愛されるアイデア)」を生み出していきたいと考えています。

INNOREDのオフィスに並ぶトロフィーの数々




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