中国の「リアルな生活者」の姿を追う #01
中国人の「車」選択の基準は、すでにAIとボイス? 日本や米国よりテクノロジーに好反応
デジタルテクノロジーの浸透により、テックライフが着実に進化
中国では、ここ数年のテクノロジーの発展によって、生活者の「日常の景色」が大きく変化してきています。たとえば、現金が生活の中から消えて財布を持たないことが当たり前となった「キャッシュレス決済」が進んでいます。さらに自転車や自動車、洋服などをシェアリング・レンタルで済ませてモノを所有せずにその利便性だけを享受する「シェアリングサービス」、いつでもどこでもサービスを利用したりモノを手に入れたりして時間や場所を自在にコントロールすることができる「O2Oフードデリバリーサービスアプリ」など、中国の生活風景が変わった例を挙げれば、きりがないほどです。
博報堂生活綜研(上海)として、中国・上海に活動拠点を置き、ダイナミックに動いている中国のデジタルテクノロジーの生活環境の変化を見据えて、生活者の行動変化はもちろん、人々の価値観や潜在的な欲求がどのように変化しているかを観察しながら研究を行っています。
スマホの電子決済が、ごく普通の人々の生活に普及
昨年、我々が中国生活者の生活実態を見ながら、中国・日本・米国3カ国の比較調査を実施しました。その結果を分析したところ、他の国と異なり中国におけるテクノロジーの発展の特徴は、デジタルリテラシーの高い特殊な人やお金持ちの人たちだけでなく「ごく普通の人々の生活」の中に、最先端のテクノロジーが浸透 していることと、それによって生まれた生活の利便性やエンターテインメント性を享受していることでした。
たとえば、ある地方都市(寧波市)の家庭を訪問した際、「家中の家電製品をIoT化してコントロールする生活者」がいました。調査対象者である陳さんの職業は公務員で、最先端テクノロジーとは無縁でありながら、自分の趣味としてスマート家電の改造に取り組んでいました。
オンラインで繋がっているスマート家電を使うだけでなく、人の動きを感知して自動でスイッチの入るセンサーを部屋中に設置して、家の中が常に快適な状態で維持されている居住環境を楽しんでいます。一昔前にSF映画の中で描かれていた「未来の生活」が、今まさしく現実的な生活シーンとなり、当たり前のように生活の一部として出現しているように感じられます。
また、別のユーザーインタビュー調査では、ある新エネルギー自動車を購入した20代後半の若者に話を聞きました。人生で初めて買った車が「コネクテッド機能付きの新エネルギー車」である彼は、車載のAIスピーカーに関心を抱き、自分の人生にとって初めてのPHEV(プラグインハイブリッドカー)を購入し、新婚の妻の送り迎えなどで楽しく乗りこなしています。彼の場合は、購買検討の際にはそれほど重視していなかったコネクテッド、ボイスコントロール機能も、いざ使ってみると今は運転する際に欠かせない機能になっていると言っていました。
デジタルネイティブと言われる「中国90后(1990年代に生まれた世代)」以降の若者にとって、これからの車種選択の基準が、動力性や操縦性といった従来的な機能に比べて、インターネット接続やボイスコントロールがあるかが重要な要因となってきています。今後、自動車の選び方や購入時の重要な視点においても大きな変化が起きるのではないかと考えられます。