日清食品のブランドや商品を「一番よく知っている」というプライド
萩原 広告制作は広告会社さんと一緒に制作をしていると思いますが、どこまでを自社内で取り組んでいますか。
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米山 先に答えを言うと、「すべて自分たちがやっている」と言い切れるように頑張っています。タネも探せば、コピーもオチも考えるし、おもしろいポイントはどこなのかという分析もします。
もちろん、広告会社さんにもアイデアやアドバイスをいただきますし、1個の脳みそで考えるよりは100個のほうがいいし、AIにアイデアをもらってもいいと思います。広告会社さんにはCM撮影の手配なども含めていろいろとサポートしていただいていますが、最後はやはり私たちが決断するわけです。
広告会社さんも同じ方向を向いて取り組んでいますので、これはどちらがすごいというわけではなく、私たちは「ブランドや商品のことを一番よく知っている」というプライドをもっていますし、そこに重みがあると思っています。
萩原 その言い切りはすごいですね。広告クリエイティブは広告会社さんの作品として扱われがちですよね。弊社でも相当な部分を自分たちも担っていますが、それがなかなか表には出ていかない時には歯がゆさも感じることもあります。ただ、これはクリエイティブに対する責任の裏返しでもありますね。
米山 やっぱり商品を売るための広告なので。どっちが売れるかな、どっちがおもしろいかな、どっちが人の心を掴むかを考え抜くというシンプルなことだと捉えています。
萩原 その目的に対する責任を持っているということですね。「売れる」や「おもしろさ」などを達成するために何が必要なのか、社内で言語化していたりはしますか?
米山 明文化はしていないですね。でも、例として萩原さんも自分の詳しい分野以外でいろんな人からオススメを受けることがあると思います。私が萩原さんに「昨日、トレッキングで30km歩いたんですけど、とても面白かったですよ。一度やってみませんか?」と言われたらどうですか。
萩原 やらないですね(笑)。
米山 やらないですよね(笑)。でも、その伝え方が「新潟の糸魚川から長野の松本まで続く『塩の道』を知っていますか? 長野には海がないので、塩を新潟から牛や人間が運んでいたんです。その道が『塩の道』と呼ばれていて、塩尻という地名もその終点に由来しているんですよ。道中には史跡もあって、歴史を感じられる場所なんです。だから、長野県の塩尻というのは、その塩の道の最後なんですよね」と言われたら、歩いてみたいと思いませんか。
萩原 それは歩いてみたいと思いました。
米山 そうですよね。実は私、山登りは嫌いなんですよ。アウトドアよりもネオンが好きなので(笑)。
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萩原 イメージ通りですね(笑)。
米山 でも、ある仕事でこの「塩の道」に行くことになって、道具を一式揃えたんです。靴やリュックサック、服を揃えたら、それだけで「山登りマン」になった気がしてモチベーションも上がって、実際に楽しかったんですよ。そういう話を聞いたら、少し興味が湧きませんか。
萩原 確かに、「塩の道」が気になります。
米山 そうなんです。最終的には「相手が行きたくなるかどうか」を純粋に判断したらいいと思っていて。これは広告も同じで、伝えたい情報が相手の心を動かせるか、行動につながるかが重要なんです。
萩原 日清食品さんは、それを完全に客観視できていますよね。
米山 だからこそ、スタッフには「右脳と左脳のスイッチを入れ替えなさい」と常日頃から言っているんです。担当者としてのスイッチも大事だし、純粋におもしろいかを判断するスイッチも大事だからです。
たとえば、自分がスーパーマーケットに買い物に行って「日清食品の商品をどんな風に勧められたら買いますか?」と聞きます。マーケティング部のオリエンには細かい情報が書いてあるわけですが、「今スーパーに行って、レジでカゴを持っている人に一言でオススメしてカゴに入れさせなさい」と。私は、それがオリエンだと思っているんです。
テレビCMはその15秒バージョン、30秒バージョン、1分バージョンがあるだけなので、オリエンがきちんと整理されていれば迷うこともないわけです。その感覚を常に大事にしなさいというのが、私が言っていることです。少し雑な言い方ですが、私の中で「食べてみたくなった」と思えば、だいたいはいいテレビCMになります。
萩原 それはめっちゃわかります。
米山 そこに妥協はしないようにしています。もちろん社長との定例ミーティングで、社長の言葉にも「いや、それよりもこっちのほうが買う気になりませんか」と言うこともあります。