カルチュア・コンビニエンス・クラブ、外資系化粧品会社、青山商事など多様な業界でデジタルマーケティングの責任者を担い、実績を重ねてきた藤原尚也氏が、2025年6月1日付で家事代行サービス「タスカジ」のCOO(Chief Operating Officer)に就任した。
これまでCMOやマーケティング責任者として活躍してきた藤原氏が、今後はマーケティング領域にとどまらず、事業全体や企業経営に関与する立場へとキャリアの幅を広げていく。また、長年にわたりBtoC事業で実績を重ねてきた同氏だが、今後はBtoB事業の新規立ち上げにも取り組む予定で、これも新たな挑戦となる。
新たな挑戦への一歩を踏み出した藤原氏に、今回の就任に至った経緯や、COOとしての短期~中長期的なミッション、自身のキャリアの考え方について聞いた。
これまでCMOやマーケティング責任者として活躍してきた藤原氏が、今後はマーケティング領域にとどまらず、事業全体や企業経営に関与する立場へとキャリアの幅を広げていく。また、長年にわたりBtoC事業で実績を重ねてきた同氏だが、今後はBtoB事業の新規立ち上げにも取り組む予定で、これも新たな挑戦となる。
新たな挑戦への一歩を踏み出した藤原氏に、今回の就任に至った経緯や、COOとしての短期~中長期的なミッション、自身のキャリアの考え方について聞いた。

藤原 尚也 氏
株式会社タスカジ COO(Chief Operating Officer)
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)でTSUTAYA店舗、ツタヤオンライン事業、DBマーケティング事業を立ち上げる。その後、外資系化粧品会社のデジタルマーケティング責任者を経て、独立。アクティブ合同会社CEOに就任。青山商事にて「洋服の青山」のデジタル戦略などを推進する。2025年6月より現職。
株式会社タスカジ COO(Chief Operating Officer)
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)でTSUTAYA店舗、ツタヤオンライン事業、DBマーケティング事業を立ち上げる。その後、外資系化粧品会社のデジタルマーケティング責任者を経て、独立。アクティブ合同会社CEOに就任。青山商事にて「洋服の青山」のデジタル戦略などを推進する。2025年6月より現職。
唯一無二のデータを活かしたBtoB事業の拡大に意欲
ー青山商事のデジタルコミュニケーションヘッドオフィス ゼネラルマネージャーから、タスカジのCOOに。これまでとは異なる業界に、これまでとは異なる立場で関わるというチャレンジを選択されました。今回の就任に至った経緯を教えてください。
これまではCMOやマーケティング責任者として仕事をしてきましたが、今回は経営者としてジョインすることになりました。10年間続けてきた、様々な企業に対するマーケティング支援に区切りをつけ、経営者の視点・立場で事業を大きくしていくことにチャレンジしたいと考え、今回のポジションへの就任に至りました。
リアル/デジタルを跨いだ事業視点のマーケティングの経験と、複数の企業で様々なビジネスに携わってきた経験を活かし、そこに経営の視点を加えることで、自分の可能性をさらに広げたいと思っています。
ータスカジの事業の特徴や、置かれている現状、お持ちの課題などについて聞かせてください。
タスカジは、家事をしてほしい「依頼者さん」と家事をしたい「タスカジさん」の出会いの場をつくる、家事代行のマッチングプラットフォームです。2014年7月にサービスを提供し、家事代行サービス市場を着実に広げてきました。
これからやるべきことは大きく二つあります。一つは、家事代行サービス市場をさらに拡大していくとともに、市場全体に占めるタスカジのシェアを高めていくこと。もう一つは、タスカジのプラットフォームを活かして、BtoB事業を展開していくことです。
BtoB事業の基盤となるのは、2020年に発足した「タスカジ研究所」。サービスを提供する中で蓄積された、タスカジ独自の“家ナカ”データを活用して、様々な企業とコラボレーションするオープンイノベーションの仕組みです。
“家ナカ”データは、なかなか表に出てきづらいデータです。暮らしや人生に密接に関わるデータであるがゆえ、最も切実で、知られざるインサイトを見つけることができる可能性を秘めていると思います。それら唯一無二のデータを活かして、住宅・家電・食品・消費財・サービス・小売など幅広い業種の企業を対象に、新規事業や商品の企画開発、リサーチ、プロモーションなどの支援・共創を行っています。
タスカジの“家ナカ”データが充実している理由の一つには、依頼内容の内訳があります。競合他社は、比較的掃除の割合が高いのに対し、タスカジは料理と掃除がちょうど半々くらい。そして整理収納も料理の半分くらい依頼が寄せられます。だから衣食住に関わる、生活全体のデータを蓄積しやすいんです。
ちなみに、料理の依頼が多いのは、過去にタスカジに登録していた「伝説の家政婦・志麻さん」ことタサン志麻さんをはじめとした、タスカジから輩出された多数の伝説的家政婦の存在が大きいようです。代表の和田が「料理代行サービスで実現する豊かな暮らし」を広めようとメニュー化した「作り置き料理」で、タスカジ内で評判になっていた志麻さんにフィーチャーし、メディアに多く取り上げられたことも要因の一つかもしれません。
ー短期的~中長期的なミッションについて教えてください。
まずは、タスカジのマッチングプラットフォームをより一層拡大することです。サービス開始10年とはいえ、タスカジを知らない人はまだ多いですし、利用エリアも現状は家事代行の需要が高い一部の都府県に限られており、まだまだ広がる余地があります。
一つの方向性として、企業の福利厚生としてタスカジを導入いただく、法人向けの取り組みを強化していく予定です。また、国や地方自治体など、行政と上手く連携することも重要だと考えています。
個人一人ひとりに向けてプロモーションするのは、経験があり得意でもありますが、お金も時間も相当にかかるのが事実。タスカジの企業規模も踏まえ、法人や行政と連携して、「家事代行によって実現できる新しい働き方・暮らし方」を啓蒙しながら、サービスを広げていくことにチャレンジしたいですね。
そうしてプラットフォームが拡大すればするほど、“家ナカ”データが量・種類ともに豊富に蓄積されていきます。このデータを活用して、タスカジ研究所を基盤とするBtoB事業(BtoBtoC事業を含む)を本格的にマネタイズしていきます。
たとえば、マンションデベロッパーと一緒にマンションをつくっています。コンセプト、間取り・動線、収納スペースなどのデザイン……“家ナカ”データを活かして、住まい手にとって暮らしやすい居住空間づくりを目指しています。また、食品宅配業者と共同で、タスカジさんがつくる料理の人気ランキングベスト10をお届けするミールキットサービスも実現しました。今後の展開としては、EC事業者と連携して、日用品の在庫管理・自動発注・自動配送ができるアプリを開発するのも良さそうです。
これらはあくまで一例ですが、取得できるデータの量・種類も、それを活用して生み出せるサービス・事業もたくさんあり、可能性は無限大です。それを代表の右腕として一緒につくっていくのが、中長期的なミッションです。
入社から1ヵ月半。まずはサービスの全体像を把握し、依頼者さん/タスカジさんの両者がそれぞれどんなことに悩んでいるか、どんなことに喜びを感じているのかを知ることが重要と考え、問い合わせ対応やクレーム対応など、サポートセンター業務を積極的にやっています。
ー藤原さんをCOOに起用した理由について、代表の和田さんから何か聞いていますか? タスカジの今後の事業成長に、藤原さんのどんなスキル・経験が活かせると考えますか?
僕がジョインするまで、代表の和田以外のタスカジ社員はほんの数人。業務委託やパートの皆さんと力を合わせて、マッチングプラットフォームの運用・拡大に全力を注いできました。今後、新たなフェーズに進んでいくにあたり、マーケティングのおよびIT・デジタル活用のスキルを備え、新しいサービス・事業を0→1でつくっていける仲間としてCOOを募集していたので、手を挙げました。
募集要件には「マネジメント・経営の経験があること」「Webマーケティングが得意であること」「IT・デジタルの素養があること」「キャリアの幅を広げ、経営者としてのキャリアをつくっていきたいと考えていること」などが書かれていて、 和田からは「募集要件をあらためて見ると、まさに藤原さんのことだね」と言ってもらいました。
加えて、タスカジというサービスの捉え方も、僕を選ぶ際のポイントになったようです。僕は、タスカジは「人が成長するプラットフォーム」だと思っています。サービスを提供することで、タスカジさんは料理や掃除のスキルを磨くことができる。依頼者さんは、家事をやってもらうことでできた時間を勉強や趣味や仕事に充てることができる。タスカジは、どちらにとっても成長につながる機会を提供することができるプラットフォームだと解釈したんです。ただの「家事代行サービス」ではなく、そういう視点で事業を捉え、一緒に大きくしていける存在を求めていたと聞きました。
僕がジョインしてもまだ数人の小さな組織ですから、人材はまだまだ積極募集中です。特に来てほしいのは、サポートセンターを統括し、IT・デジタルを活用して進化させていってくれる人と、僕らの次の世代の経営者候補となる人です。後者は、マーケティングで経験・実績を積んできて、次のステップに進みたいと考えている30代にぜひ来てもらいたいですね。
マーケティング経験者が30代で経営者になるのが当たり前の時代に
ー藤原さんは、なぜタスカジに興味を持ったのでしょうか?
一つは、“家ナカ”データに可能性を感じたことが大きかったですね。これまでのキャリアを通じて、僕は一貫してデータを取り扱ってきました。たとえば、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)も然り。CCCは、単にレンタルビデオ店「TSUTAYA」を運営する企業ではありません。会員の個人情報やレンタル履歴、購買履歴などのデータを活用し、お客様一人ひとりに最適な提案(レコメンド)をすることこそが、事業の本質です。僕はそこに興味を持って、入社しました。
タスカジにも、同様の可能性を感じました。“家ナカ”に関するありとあらゆる情報を持っている企業なんて、そうそうありません。食品、日用品、化粧品、アパレル、エンタテインメント……あらためて見回してみると、まだデータ化されていないものを含め、“家のナカ”には本当に多種多様な情報があると実感します。また、家ナカにも「コト消費」が存在していると気づきました。たとえば、タスカジさんがつくる料理を家族みんなで美味しく食べる幸せな時間・空間が実現できること。タスカジさんの整理整頓によって室内が片づいた分、新しいインテリアを取り入れて憧れのライフスタイルを実現できること。こうした、料理・掃除・収納から得られる価値にも「コト」を求めるという行動変容が起きていると思います。
そうしたデータを活用して、より良い商品開発などにつなげて、より豊かな生活を実現したい。そうすればデータを提供するユーザーにもメリットが生まれて、サービスの価値がさらに強まると感じました。
ーマーケティング領域で実績を重ねた先に経営者を目指すというのは、優秀なマーケターが辿るルートの一つだと思います。今回、藤原さんもその道を進まれますが、マーケターのキャリアの積み方について、藤原さんの考えを聞かせてください。
皆さんも感じていると思いますが、僕は「マーケティングという職種はなくなっていく」と考えているんです。生成AIをはじめとするAI技術が急速に進化する中、いま僕がやっているようなマーケティングという職種は、10年後にも存在するんだろうか? 様々な企業の過去のデータやノウハウを放り込んだら、ChatGPTが答えを全部教えてくれるんじゃないか? ーーここ数年、こんなことをずっと考えてきました。
もちろん、AIに精度の高いアウトプットを出してもらうためのスキルは必要だし、そこは今後も人間が担い続ける部分だと思います。ただ、少なくとも、僕がこれまでやってきたようなマーケティングの仕事がそのまま必要とされ続けるとは思えない。次の10年を考えると、これまでの経験を活かしながら、経営の立場に移っていくべきだと考えたんです。
必ずしも経営者になる必要はありませんが、これからの時代にビジネスパーソンとして活躍するなら、AIを使いこなす人材になることは必須要件です。僕自身、AIを積極的に活用して、これまでより効率の良い組織・事業をつくることに興味があります。AIによって実現される新しい働き方や仕事内容に適応するのはもちろん、使いこなす側になれるよう、自分自身を変化させていきたいですね。
これまでは、経験と実績と人脈があってこそ思考・実行できていたマーケティング戦略も、担当事業の現状や昨年までの実績、課題と優先順位、目標などをインプットして、「どんな事例を参考に、どんな順番でどんなアウトプットをすれば目標達成できる?」と尋ねたら、数秒~数分でAIが答えを教えてくれる時代です。
若いうちからAIを意識的に使いこなせば、僕らの世代よりもずっと速いスピードでマーケティングの基本を習得し、AIを活用した新しいマーケティング手法に切り替えて成果を出し、経営レイヤーへと移行していくことができるはず。AI時代は、キャリア形成のスピード感が、これまでとは比べものにならないほど加速していくのではないでしょうか。
僕らの世代のように、40-50代になって、年齢的にも経験的にも人脈的にも成熟して経営レイヤーに進むのはイメージが湧きやすいと思いますが、これからの10年で、経営者になる年齢は一気に若年化し、30代で経営者になるのが当たり前の時代がやってくると思います。僕も負けないよう、挑戦を重ねていきたいと思います。