直近の対応策の評価と見落とされがちな論点
9月12日から始まったマイメロ・クロミとコラボした「ハッピーセット」での新たな対応は十分と言えるだろうか。個数制限と対面販売という対策は、「転売ヤー」による買い占めを抑制し、多くの顧客に商品が行き渡るという目的において、一定の効果が期待できると私は考えている。
しかし、これらはあくまで対症療法だ。転売される根本的な原因である「希少価値の高さ」は解決していない。むしろ、個数制限を設けることで、顧客の「買いたい気持ち」を煽る結果とならないだろうか。かえって競争が激化する可能性も孕んでいる。また、「対面販売のみ」というルールは、宅配サービスの利用者やモバイルオーダーを好む顧客に不公平感を生じさせるリスクも十分考えられる。
さらに、見落とされがちな論点も指摘したい。まず、ブランドイメージの毀損である。「ハッピーセット」は本来、子どもたちを笑顔にするための商品だ。それが「大人の転売」によって価値を貶められ、本来のブランドイメージから乖離する可能性がある。この問題は単なる商品管理の域を超えて、ブランドの本質に関わる大きな課題だと考える。
また、社会的責任という観点も重要だ。食品ロスや転売問題という社会課題に対して、企業としてどのように真摯に向き合っていくか。長年にわたり、子どもとその家族たちに「食文化」を提供してきた先進企業としての姿勢が、今問われている。ESG経営が重視される現代において、この問題への対応は企業価値そのものに直結する。
出典:123RF
マクドナルドに今後求められる中長期的な戦略
今回の件は、単なる「プロモーション上の失敗」とは言い切れない、より根深い問題を孕んでいるのではないかと懸念している。SNSで「アンハッピーセット」と揶揄された状況を脱却するため、マクドナルドには広報・PRとブランド価値構築の観点から、中長期的な戦略が求められる。
この問題を論じる上で、重要な前提がある。マクドナルドは他社と比べて圧倒的に来店客数(ゲストカウント)の多いブランドだ。「ハッピーセット」のおもちゃの流通量を考えると、実質的に日本最大級の「おもちゃ店」でもある。この規模での対応には複雑さと困難さが伴うため、まずその点に理解と敬意(リスペクト)を示したい。今後の施策次第では、ファーストフード業界だけでなく、玩具業界やキャラクタービジネス全体にも影響を及ぼす可能性がある。
まず、「ハッピーセット」の存在意義を再定義する必要がある。単なる販促ツールとしての「おもちゃ」ではなく、「子どもたちの笑顔」という本来の価値を前面に押し出すべきだ。例えば、おもちゃのリサイクルプログラムの強化や、地域の子育て支援活動との連携など、社会貢献活動と結びつけることでブランドイメージを刷新できる。
次に、透明性の高いコミュニケーションが不可欠だ。転売対策に関する考え方や今後の取り組みについて、顧客にわかりやすく、かつ誠実に伝える必要がある。一方的な情報発信では広大な砂漠にわずかな水をまくだけの不毛な結果になりかねない。「顧客の声を聞く」ための双方向のコミュニケーションの場をこれまで以上に大規模に設けること。この実施と成果を幅広く社会に告知していくことで、信頼関係を再構築していくべきだ。
持続可能なコラボレーション戦略への転換も重要である。希少性を煽るコラボではなく、より多くの人が楽しめる、サプライズ感のあるコラボレーションにシフトする。数量限定ではなく、期間中いつでも手に入る仕組みづくりや、購入者限定のデジタルコンテンツ提供などは、現在のおもちゃの価値を多様化することにもつながり、転売の動機自体を削ぐことができる。
最後に、「アンハッピーセット」という不名誉なレッテルを逆手に取り、「子どもたちを笑顔にするハッピーセットをもう一度取り戻す」という企業としての決意を、具体的な行動で示していくことが求められる。
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