デジタルガレージの前身・フロムガレージ誕生の経緯

「えっ、３人で起業するの？」

 1981年の秋、大学時代のバンド仲間の厚川欣也君が、就職活動で出会った２人と一緒に企業するんだというので僕は驚いた。今でこそ若いうちに会社を立ち上げることは珍しいことではないが、当時は会社員としての経験なしにいきなり起業というのはあまり聞いたことがなかった。

 たしか光文社の最終面接に残ったものの採用に至らなかった厚川欣也・林 郁・南雲洋二君の３人が、フロムガレージを立ち上げる。これが後のデジタルガレージなのだが、最初は大学生向けのフリーペーパー「Student Press」の広告収入を得ることから始まり、SP（セールスプロモーション）へとビジネスを拡大していった。

 

 

 

 厚川君とは青山学院大学に入学してすぐに音楽サークルで出会い、バンドを組むことになる。どういうわけか気が合った。だいたいサークルでは好きなミュージシャンが一緒で「バンド組もう」となるのだが、厚川君とは好きなミュージシャンが一緒なのはもちろん、嫌いなものも一緒なのだ。これは意外と大事で、長続きする。

 のちに僕は個人会社をつくることになるが、その際にしっかり決めておくことがある。それは「やらないこと」を決めることだ。たとえば、「広告でもデジタルメディア以外は絶対扱わない」。やることを決めるよりも、その会社の輪郭がしっかりするケースがある。

 さて、僕は青学の文学部英米文学科で、厚川君は文学部日本文学科だ。当時は青山キャンパスしかなく、学生生活を楽しむには最高のロケーションだった。僕はほぼロケーションで大学を選んだし、女の子がたくさんいるので英米文学科を選んだ（笑）。

 その後の就職を考えればこの選択はしなかったはずだ。二人ともあまのじゃくでメジャーを選ばない。音楽も、今でいうところのオルタナティブばかり。僕はシェイクスピアやアメリカの劇文学に興味はなく、上智大学の先生のところに行って、言語間の距離と方向をプロットする、いわゆるコレスポンデンス分析を手伝っていた。なんと、懐かしいFortran（※注1）を使っていた。一方、厚川君は卒業論文に夢野久作の『ドグラ・マグラ』を選んでいて、こちらも評価できる先生がいないというはみ出しぶり。

※注1　Fortran
Formula Translation（数式の変換）に由来する、科学技術計算に向いた手続き型プログラミング言語。1954年にIBMのジョン・バッカスが考案したコンピュータ用で世界最初の高水準言語であり、その後も改訂されて使用されている。