ヤフーのリソースで“好かれる広告フォーマット”を制作
——中村さんはECDとして、どのような動きをしていくのですか。
中村 まずは、ヤフー社内のエンジニアをはじめとした、クリエイティブチームの社内文化をつくりたいと思っています。そのためにPARTYや、電通デジタルとのプロジェクトをつくって、お互いの血を通わせるようなことをしたいですね。
日本の広告業界は、世界的に見てもアイデアのレベル、エンジニアのレベルが非常に高いと思います。そして、クリエイティブとメディア、マーケティングでハイレベルな“つばぜり合い”ができるようになるのが理想です。
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——エンジニアがポイントですか。
中村 どのスタートアップ企業でもたいがいはエンジニア不足のところ、ヤフーはエンジニアを大量に抱えているんですよね?
井上 ヤフーは、新卒でエンジニアを採用して育てています。全社で約2800人いて、MS統括本部にも相当な数のエンジニアがいます。それだけの人材を抱えていること、そしてそのマネージメントシステムを持っていることは、ヤフーの大きな資産です。ここで、うまくいっていない会社もいっぱいありますから。
中村 広告商品をつくるのは、「レギュレーションをつくる」ということ。優れた制限は、クリエイティブの質を上げることができます。NIKEのブランドスローガン「JUST DO IT. 」だって制限です。
恐れるな、しのごの言わずにただ「やれ」という。それ以外のこと、立ち止まって逡巡することを禁止しているわけです。このスローガンを起点に数々のすばらしいクリエイティブが生まれています。
井上 クリエイターにクリエイティビティを発揮してほしい範囲のことを、英語で「ガードレール」や「ステージ」と言ったりします。ガードレールがあってはじめて、クリエイターは思い切りサーキットの中を走りまわれるものです。日本企業は、この設定があまり上手ではない印象があります。
中村 たしかに以前、広告主にターゲットを尋ねたら「19歳から50代の男女」と答えられたことがあって。「この少ない予算でそれは、何も規定していないのと一緒ですよ!」と言いました。
井上 グローバル企業では、そうしたステージを設定するのが広告主の仕事、踊るのはクリエイターという役割分担がはっきりしています。
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また、エージェンシーのAE(営業)がつくったクリエイターへのブリーフ資料「クリエイティブブリーフ」を、広告主が確認した上でサインするという流れが一般的です。それには二つの意味があって、まずは先ほどの例えで言うと「ガードレール」「ステージ」がしっかり設計されているかを確認するということ。
もうひとつは、フィー制が一般的ということもあって、手戻り、つまり余計な追加費用がかかるのを防ぐことです。日本式と欧米式、どちらにも一長一短があるとは思いますが。
中村 エンジニアの話に戻すと「アナログなものをデジタルにする」「つながっていないものをつなげる」という部分において、まだまだ日本ではアップデートの余地があると思っています。そういうプロトタイピングには、やはりエンジニアリングのスキルが必要かなと。