ファンタスティックなアイデア続々…結果は?
「ちょっと人参の話をしておこうか」
人参を追う馬のイラストを映したAチームは、冒頭から聴衆の心を掴みにかかった。『Fan to』と名付けた施策のコンセプトは「ファンタと共にポジティブな変化を楽しもう」。テスト後に飲める特別なファンタの引換券を友達同士で贈りあうことで、パーティ的なイメージの強いファンタの飲用シーンを高校生の日常に広げる提案だ。高校生の1年間もしくは1週間の生活における「感情曲線」を描き、定性インタビューを行い、ファンタの「機能的価値・情緒的価値」を他ブランドと比較しながら、深くリサーチを重ねて導き出した。
「テスト期間のマイナスな感情をプラスに変える存在」となることで、高校生に支持されるブランドになるというプランだった。
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結果として、審査でAチームは僅差の2位になった。プレゼンの掴みや「ファンタがあれば辛いテストも友だちと乗り切れる」という情緒的価値を的確に生かしたアイデア、そして他者のためにお金を使うという、バズれば拡散性の高い価値に着目した点が「非常にクリエイティブ」。熱心にプレゼンに見入っていた日本コカ・コーラのジャパン&サウスコリアオペレーティングユニット マーケティング本部 スパークリングフレイバーズカテゴリー事業本部 シニアブランドマネジャーの森嶋健人氏は、そう講評した。
続けて発表したBチームの施策名は『ファンターバル』。高校生の「ガチトーク」を引き出すテーマをランダムに掲載したファンタが、高校に置いてある自販機から出てくるというアイデア。学生は「ファンタが話題の発端になってモチベーションを上げてくれる『もう一人の友だち』としてポジショニングできれば、愛着に繋がると思います」と語った。
Bチームは、価格やサイズ面で高校生に身近な自販機に着目したことが「ビジネスセンスがある」と評された。さらに全国の高校数やシェアから推定されるターゲット数やビジネスインパクトを定量的に割り出した点も高く評価された。順位は3位だった。
1位に輝いたのはCチーム。施策名『放課後ファントーク!』のコンセプトは「帰り道はファンタで弾ける」。グレープとオレンジの2種類のラベルに「美味しそうな」「先生は?」といった大喜利的なトークテーマをランダムに散りばめ、飲むとお題が見えてくる仕掛け。仲の良い友だちができ始める5月頃にキャンペーンを始め、SNSと結びつけることによって、認知・購入・拡散に繋げるカスタマージャーニーを緻密に設計した。
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Cチームで最も評価されたポイントは、定性調査によって「楽しくてくだらない時間の共有」というファンタの価値をクリアにした点だった。日本コカ・コーラのジャパン&サウスコリアオペレーティングユニット マーケティング本部 スパークリングフレイバーズカテゴリー事業本部 ディレクターの野村綾香氏は、「スターティングポイントが明確だったことが、その後のプランへの落とし込みや一貫性のあるプレゼンに繋がった」と絶賛した。
2人のプロマーケターが、全チーム共通の改善点として指摘してきたのが定性インタビューによる顧客インサイトの深掘りだった。「定量的なアンケートで大きな数字が出ると引きずられがちだが、数字の裏にあるひとりのインサイトを深く掴めれば、より面白く、かつビジネス的にも強いプランができるのではないか」とアドバイスした。
小野教授によると、産学連携演習の狙いは、リアルな現実に触れること。「アイデア大会」ではなく、徹底してリアルなリサーチにこだわる。「『実験室や温室』で用意した教材で演習することも可能だが、今の学生はリアリティがない課題にいきなり飛び込んでも関心が高まらない。『フィールド』に出てリアルな素材を拾って料理する方法を学んでいます」
実践的な演習を1年次から重ねることで、学生の実力も着実に上がっているようだ。優勝したCチームの福田桃加さんは「仮説を立てて、こういうプランが当たるんじゃないかと考えても、検証していく過程でずれる所が出てくる。パズルのピースをはめるように筋を通すのは難しいけれど、すごく面白いです」。今回の『放課後ファントーク!』では「ずれることなくロジカルにはまった」と手応えを感じたという。
そんな小野ゼミ生の卒業後の進路はさまざまだが、最近は事業会社のマーケティングやデータサイエンスの専門人材として採用されるケースも散見されるという。
ゼミ長の浅井颯真さんは海外の大学院でマーケティングを学ぶことに興味があるそうだ。「飽きっぽいので就職は向かない気がして(笑)。自分ひとりで稼げるマーケティングのプロフェッショナルになりたいです」
実践的な企画力を培った小野ゼミ生たちの、今後の多彩な活躍が期待される。
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