IBMでは経営に近いマーケティングを経験
―― そのためのステップとしてIBMに移られたのですね。
IBMでは、またいろいろと一段高い学びがありました。全世界的にシステマティックにオペレーションがされており、グローバルレベルのプロフェッショナルの方々と一緒に働く機会が各段に増えました。本社ではルイス・ガースナー、サミュエル・パルミサーノといった有名な経営者の横でマーケティング・コミュニケーションを通じて会社を変えてきたジョン・イワタ氏と接する機会もあり、マーケティングと経営が近くにあることのイメージが具体化できました。
マーケティングはブランドやカルチャーをつくるということもそうですが、IBMは新しい市場を創造するということに大きなパワーをかけてきた会社です。ただ単に広告を出す、リードジェネレーションをするというのではなく、戦略的に「こちらの領域に行きたいから、そのために投資をして、最初にマーケットをつくる」ということを常にやっていました。だから、マーケティングと経営が近いんですよね。
IBMではいろいろなマーケティングを見ましたし、職場は本当にグローバルでした。私が日本IBMでマーケティングのマネージャーをやっていたとき、同僚も上司も全員日本人ではない時期がありました。大変でしたけれど、おもしろかったですね。
特に大変だったのは、日本のカルチャーを理解してもらうこと。例えば、クラウドソリューションとAIの一種であるコグニティブコンピューティングを持つIBMがどのような未来をつくろうとしているのかを伝えるコミュニケーションで、アニメ『ソードアート・オンライン』とのコラボプロジェクトを展開したのですが、その説得には苦労しました。
米国人のボスからは「アニメをプロモーションに使うのか」と反対されましたが、日本ではアニメがリスペクトされていて、大人も見るし、ターゲットユーザーのペルソナを調査した上で理にかなっていると話し、最終的にはボスに「マーケターとしての私を信頼するのですか、しないのですか?」と迫って、承認をもらいました(笑)。
プロジェクトは、原作の川原礫先生も含めて話しながら、IBMのテクノロジーをわかりやすく見せることを意識してつくり込みました。そして、VRで「ソードアート・オンライン」の世界を疑似体験できるというプロモーションを展開。すると、200人の枠に世界中から10万人の応募がありました。結果的に希少な枠になったということも含めて、大きなソーシャルバズが起こりました。その後、そのコンテンツはIBMのイベントのキーノートでも、グローバルでも活用されました。
このような経験を通じて、カルチャーの違いはあっても、価値があると自身が信じることであれば、諦めずに実現するまで、向き合いながらコミュニケーションすることが大切だと学びました。すぐには理解されなくても、それがなぜ必要なのかをいろいろな手段で、諦めずに、ネゴシエーションするということです。
私は、最終的にはボスから「ユキコがやるべきだと思うなら、やっていい」とGreen Lightをもらいましたが、そこに行き着けたのは、それまで私がやってきたことへの信頼感や実績ということより、全力でプロジェクトをサポートしてくれた国内外、社内外の仲間のおかげでした。新しいチャレンジへの旗を上げた時、集ってくれる仲間がいることのありがたさ、チームで動くことの嬉しさを感じる経験をいくつもさせていただきました。
最終回「『強くて優しい会社』を目指して、CMOとしての使命とその先にあるもの(7月1日掲載予定)」に続く
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