DXで、人間らしく価値ある仕事に集中できる環境をつくる


―― 2025年中に順次導入を予定している「GiGOリンク」など、顧客との接点において取り組んでいるDXがあれば教えてください。

 CRM(顧客関係管理)やカスタマーサクセスの概念はGiGOにおいても非常に大切だと考えています。以前から「GiGOアプリ」を展開して、顧客データの収集や管理に努めてきました。
  

 このアプリにはプリペイド決済機能が搭載されていて、お得にプレイできるのですが、それを使うには決済端末とアプリをその都度連携するためにかざす必要がありました。その操作が煩雑だったために、顧客体験を損ねていました。そこで開発したのが、ゲーム機にアプリを一度かざすだけでスムーズに決済が完了する「GiGOリンク」です。これにより、アプリ利用のハードルを下げ、GiGOとしても顧客データと購入データが紐づいたID-POSのデータ取得し、1to1のコミュニケーションを加速させる狙いがあります。

 またGiGOアプリでは、ログインして利用いただくとお客さまがどのゲームを何回プレイしたか、過去どのゲームで遊んだのか、どんな景品をお持ち帰りになったのかといった情報を保存・参照できるようになっていきます。さらに、店舗に設置したビーコン(無線通信を活用して、特定の場所にいる人を検知したり、情報を伝えたりするデバイス)により、来店や退店も把握できるようになっています。
  

 これらの顧客データこそが、私たちの競争力の源泉です。今後はデータを活用し、個々のお客さまの興味に合わせた景品が入荷したらパーソナルな通知を出したり、たくさんプレイしていただいているのになかなか景品が取れないときに、その場で従業員がアシストに入ったり、常連のお客さまの来店時には出迎えたりするなど、細やかなコミュニケーションやパーソナライズされた接客を実現し、「GiGOだからまた来たい」と思っていただけるような、温かいおもてなしを目指しています。適切なタイミングに能動的な接客を行うことが、私たちの強みになると確信しています。

 私たちがDXによって目指すのは、従業員がお客さまとのコミュニケーションや接客といった、最も人間らしく、価値ある仕事に集中できる環境をつくることです。そのために、人間でなくてもできる業務や人が価値を発揮しにくい作業は、AIやシステムに大胆に任せられる仕組みにしたいと考えています。
 

AIカメラで顧客行動を分析し、店舗の体験向上につなげる


―― 実証実験を経て導入したというAIクラウドカメラについても、導入理由や詳しい取り組みの内容を教えてください。

 ID-POSのデータを取得するためにGiGOアプリを活用していますが、依然として現金でプレイされるお客さまも多くいらっしゃいます。アミューズメント施設は基本的にレジが無いビジネスのため、アプリだけではすべての顧客行動を捉えきれないという課題がありました。

 そうしたデータを補うために、AIクラウドカメラの「Safie One(セーフィー ワン)」を導入しました。現在は、約30店舗の店頭にカメラを設置し、どのような時間帯に何人のお客さまが入店しているのかというデータを取得しています。そこからデータサイエンスの手法を用いて、全450店舗にデータを類推拡張し、全体でどの程度の来店数があるのかを予測するモデルを構築しました。
  
店内に設置したAIクラウドカメラ
  
お客さまが入店しているのか、ヒートマップで把握

 それによって導き出された数字と売上を合わせて分析することで、売上と客数が比例して伸びているのか? それとも客数はそのままで客単価が上がったのか? 客単価が上がった理由は何か? など具体的な分析が可能になりました。従来は「雪が降ったから売上が下がったのだろう」「近くでお祭りがあったから売上が上がったのだろう」といった定性的な振り返りに留まっていたものが、AIクラウドカメラの導入によって、明確な数字に基づくデータドリブンな分析へと進化しています。

 将来的には、店舗の内側についても、最も人通りが多い通路はどこか? どこに何の景品を置くとプレイしていただける確率が上がるのか? といったことを分析し、レイアウト改善やプレイ機会の創出に役立てたいと考えています。
  
  
店舗内の人流を分析

 言うなれば、ECや動画配信サービスのUI/UX分析をリアル店舗に持ち込んでいるようなイメージですね。私は前職のウォルト・ディズニー・ジャパンで、動画配信サービス「Disney+」の事業に携わっていました。動画サイトでは、トップに大きなバナーがあり、その下にいろいろな作品のサムネイルが並んでいて、ユーザーは画面を横や下にスクロールしながら作品を選んでいきます。店舗も同じように、動画サイトのトップバナーが店舗の入口に近い部分だと考えると、そこから画面をスクロールするようにどんどん店舗の奥に進みながら、プレイしたいゲームを探していくわけです。

 オンラインであれば、何人のユーザーがどこまでスクロールしたのか、この作品のサムネを何人が見た/クリックしたのかといった行動データはすべて数値化され、コンテンツの最適な配置に活かせます。この仕組みをリアル店舗でも実現し、同じように数値を取得できる環境にすることで、景品の内容やゲーム機の配置の戦略などに役立て、成功事例は全店舗へ横展開していきたいと考えています。