「中川政七商店には、何も無いんですよ」
外から見ていると、歴史はあるし、ブランディングもできているし、経営も順調。しかし、中川会長は「何も無い」と言います。不思議に思って続きを伺うと、製造は先代のときに海外生産に切り替えたためファブレス(工場を所有しないで製造を行うビジネスモデル)であり、優れた技術も無いし、高級麻織物「奈良晒」もとうに滅びてしまった。そして、歴史があるとは言え、「300年の歴史を認識されたのは、ここ最近の話だ」というわけです。
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それは、「ブランドをマネジメントする力と、誰も実現できていない工芸メーカーの再生を掲げていることによる差別化」だそうです。つまり、成長する上で大切だったのが、工芸の再生というビジョンであったということです。中川さんに伺うと、面白い表現をされました。
「ビジョンというものは、テンションが上がらないとダメなんですよ」
そして、最終的には「will」「can」「must」が重ならないといけないんだなと気づいたそうです。ビジョン(will)を考えるのは経営トップ。経営企画室などに委ねては魂が入らないため、自分でできる(can)ことを考える。そして、それがなんらか世の中のためになっているかを考える(must)ということでしょうか。
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「事務所では現実的なことに追われるので、近鉄学園前駅のスターバックスで考えますね(笑)」とのこと。
中川さんの著書「日本の工芸を元気にする!」でも書かれているように、マーケティングについても、朝のスターバックスで学ばれていたようです。私もたまに利用するお店なので、もしかしたらお会いしていたかもしれません。
次にアイデアは、どういう時に浮かぶのかについても伺いました。
「考えようとしても、何も浮かばない。特段、考える時間をとるという感覚は無く、アイデアはインプットがあると自然と広がり、動いているときに浮かぶ」とのこと。
また、「一人になって、仕事以外のことをする時間も必要だと考えて、何かを見に行ったり、本を読んだりしている。でも休みという感覚は無い」と言います。経営者とはそういうものなのでしょう。