AIに向き合う欧州のビジネス・ブランド・クリエイティブの最前線
今回レポートするのは、Web Summit 2025だ。筆者は、2020年から実に5年ぶりの参加となる。このWeb Summitは、世界70,000人が集うイノベーション・テクノロジー・ブランド・経営・ベンチャー・投資・カルチャーなどを広範に扱う欧州最大規模の国際イベント。会場は、ポルトガルのリスボンで毎年行われている。
さて、今年の注目キーワードは、生成AIの次章とも言える「AIエージェント」と「AIによるビジネスの再定義」。広告業界やマーケターにとっては、データや自動化の進化はもちろん、クリエイティブやメディアなどに生成AIやこれからのAIの発展がどのように変化をもたらしているのか? 欧州企業を中心としたグローバル企業の発信から窺い知ることができるだろう。さらに、CMOやスタートアップが語るのは、「人とAIが共創するマーケティング」の未来像だ。AIがいよいよブランド構築そのものを変える局面を迎えていることを示唆している。
そんな、マーケターや企業で変革を担うビジネスパーソンには見逃せないこと間違いなしのWeb Summitを現地からレポートする。
テクノロジーを「人の力」に変える ― Web Summitが提示する新たな使命
オープニングリマークスでは、ポルトガルのGonçalo Saraiva Matiasデジタル担当大臣が登壇。テクノロジーを「民主主義と社会の信頼を支える力」として捉える姿勢を鮮明にした。AI、データ、デジタル変革は単なる効率化の手段ではなく、同氏は「人間中心の行政・経済・教育を再設計するための基盤」だと語り、AI国家戦略の成果を紹介した。
紹介されたのは、AIモデルが公共デジタルサービスのハブとなり、行政・教育・企業支援を横断的に結ぶもの。「AIはもはや未来ではない。いま社会を変えている現実だ」と語り、AI倫理やデータ主権を重視した国家的枠組みの構築を宣言した。Web Summitを「政府と民間、産業と文化をつなぐ橋」と位置づけ、世界中からのイベント参加者に「実験し、夢を見続けてほしい」と呼びかけた。
さらに、リスボン市長のCarlos Moedasが登壇。都市の成功に欠かせない要素は「社会正義」と「カルチャー✕アート」であると発言。「文化と社会正義こそが真のイノベーションを生む」と語り、「0と1の世界に人間性を取り戻す鍵はカルチャーである」と力説した。そして、リスボンを「社会正義が技術革新を育む都市」「アートとテクノロジーが交差する首都」として、次の10年を見据えた都市像について語っていた。
Maria Sharapova × IBMが語る「AIが拓くSportsの新しい知と体験」
初日の集客に最も寄与したであろう(?)大物登壇者の登場。元テニス女王Maria Sharapovaだ。IBMのSarah Marin(Chief Corporate Affairs and Brand Officer)と共演し、AIがスポーツにもたらす変革を語った。
シャラポワ氏は「AIによって選手がリアルタイムで自分のプレーを解析し、身体の回復や戦略の最適化ができるようになった」と語り、かつてコーチが数時間かけて編集していた映像分析が、今では数分で提供されると具体例を示した。
また、IBMはファンとのエンゲージメント進化に注力しており、「AIはトップ選手だけでなく、無名選手にも公平な露出機会を生む」と紹介した。AIによる自動解説や多言語対応のライブ分析が“新しいストーリーテリング”の可能性をもたらすという。
このセッションでは、IBMのスポーツテックの取り組みでなく、シャラポワ氏が向き合うAIとの関係が主役になっていたので、スポーツの世界へのAI浸透をよりリアルに感じることができたのではないかと筆者は考える。




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