すべてのクリエイティブに大声で伝えたい9のパンチライン


 そんな豪華セミナー・パネルディスカッションの中から、特に私が「食らった」パンチラインを9つご紹介します。どれも、すべての若手クリエイティブに大声で伝えたいものばかりです。
 
パンチライン1|“You’re Not Boring”
「あなたは決してつまらない人間ではない」

 アルゼンチンの独立系エージェンシー・GUTのグローバルCEOが声を大にして言っていました。「現在クリエイティブなことを仕事にできている時点で、あなたには特別な視点やバックグラウンドがある、それを忘れてはいけない」

 自分が毎日毎日夜遅くまで考えた企画たち・・・もちろん、すべることだってたくさんあります。そのあとにイケてる先輩の案を見て「うわ、これ思いつきたかったな・・・もしかして、センスないのか・・・?」と落胆しまくりの自分にとって、非常に勇気をもらえる言葉でした。

 「ブランド担当よりもブランドに詳しくなり、クリエイティブディレクターよりもクライアントに食らいつき、常に好奇心を持ち続けて」

 たくさんの企業やブランドと向き合わせていただき、好奇心と少なからず持っている「これやったらおもろいんちゃう?」というイタズラ心を日々ぶつけることができ、それを笑顔で受け止めてくれる大人がたくさんいるこの業界のありがたみを改めて実感しました。
 
 
パンチライン2|“Business First, Creative Second”
「ビジネス第一、クリエイティブは二の次だ」

  「勘違いしてはならないのは、これはCCOとしての見解ですよ」とOgilvyのCCO Liz Taylor氏は強調していましたが、非常に重要な視点だなと感じました。

 若手は自分のために働き、中堅になったらブランドのために、より上になるにつれステークホルダーやビジネスのため、というキャリアパスの図を投影していました。「若手のうちは自分の基礎力や経験・実績をつけることに全力を尽くしなさい」とCCOたちは語りました。

これはあくまで自分の解釈ですが、クリエイティブの比率を下げるのでは決してなく、ビジネスの視点やナレッジも同様につけていくことの重要性を唱えているように感じました。CCOレイヤーになると、エージェンシーとしてアウトプットの質の担保や、クライアントのビジネス拡大への貢献に一番クリエイティビティを使っていることを若手のうちに聞けたことは大変貴重でした。
 

CCOに対してNGなしで質疑できたパネルディスカッション
 
パンチライン3|“CRAFT is Critical”
「クラフトは重大だ」

 パンチライン2と逆行しているようにも感じられる言葉ですが、これもクリエイティブの意義を再認識させてくれるものでした。

 「ビジネスインパクト・メディア・予算などは、言ってしまえば、見ようと思えば誰でも見られてしまう中で、クラフトを見られるのはクリエイティブしかいない」とHavasのCCO Dan Lucey氏は強調していました。

 ブランドと生活者をつなげるものも、GoodからGreatな印象にするものも、すべてクラフト。AIや効率的なクリエイティブに溢れ始めているこの世の中で、非効率的・無駄という言葉をいくら周囲から浴びせられても、責任を持ってクラフトを突き詰め続ける重要性を熱弁されました。
 
パンチライン4|“Case Films are also your work”
「ケースフィルムもまた、あなたの作品である」

 審査員を何度も経験している登壇者のすべてが、口を酸っぱくして話していました。

 審査会に参加してわかったのは、ケースフィルムやボードに書かれていない各国の文化的背景までは考察してもらえないこと、「あの作品ってどんなだったっけ?」となった際にボードは一切見返さなかったこと、でした。

 「作品にかけたクリエイティビティと同じくらい、ケースフィルムにもクリエイティビティを」。2分以内のフィルムに、いかに課題に対してイノベーティブなアイデアで解決したかを入れ込みつつ、文化的背景も踏まえて、なぜそのアイデアでないといけなかったのか。それに対してどんな反応をしたか。無数のケースを見る審査員に、どう印象的な読後感を植え付けられるか。

 感情を捉えるタイポグラフィからSEまで、何年・何ヵ月もかけたプロジェクトであっても2分間という制限の中で最高のストーリーテリングをしろという言葉に、思わず食らってしまいました。

 「審査員全員を、あなたのアイデアに惚れさせろ」という言葉も印象的でした。
 

勝つケースフィルムに必要な7つの要素
 
パンチライン5|”If you work from knowledge, you are not going anywhere new”
「いまある知識だけでアイデアを考えると、新しいことは生まれない」

 これはAlexandra Taylor氏という、私がイギリスで見たことのあった英軍徴兵のCMを作ったアートディレクターの強烈な言葉でした。田丸的パンチライン1位かもしれないです。

 彼女が伝えたかったことは、今の時代、AIやカンヌの「Love The Work More」にアクセスすれば無数のすばらしい事例やアイデアの種や切り口にありつけるけれど、そこだけでアイディエーションしていてはなんにも面白味がないぞ、ということでした。

 アイデアは掛け算とよく聞きますし、全くその通りだと思いますが、その変数を本当にゼロから考えないことには真のクリエイティビティとは言えないということ。そんなの当たり前だと思いつつ、手が回っていないときに、つい事例からヒントを探してしまう、そんな自分の心に深く刺さりました。
 
パンチライン6|”AI should be like a roommate”
「AIとは、ルームメイトくらいの関係性で」

 パンチライン5にも繋がるのですが、PRセッションでこのコメントを即興で出したEdelman CanadaのCCOのAnthony Chelvanathan氏はあまりにも天才だと思ってしまいました。

 AIとの関わり方を参加者から問われた際に、彼は「もちろんAIとともに生活(過ごす)してもいいが、自分のスペースに入り込みすぎるとうざったくなるだろ? その感覚を持って、AIをどれくらい自分の生活圏内に入り込ませるかを判断してみて」とスマートに返しました。

 示唆に富みすぎている言葉とともに、わかりやすすぎる例えをすぐに出せる彼のセンスに思わず脱帽してしまいました。

 AIに頼りすぎるのは、ダメ。ゼッタイ。
 
パンチライン7|“Always be uncomfortable”
「いつだって居心地悪くあれ」

 よくコンフォートゾーンやストレッチゾーンの話を面談でされたりはしますが、「ここまでか!」というくらい、海外のクリエイティブリーダーたちは権威的かつのぼり詰めたポストでありながらチャレンジをやめず、泥水をすすっている話をたくさんしてくださいました。

 居心地の悪さから脱却しようと足掻く瞬間に、もっともクリエイティビティが発揮され、成長につながる。「彼らでも居心地が悪いところに飛び込んでいるのか・・・自分、もっとやれます!やります!!」と思わず姿勢を正してしまいました。

 いま、あなたの担当している案件のうち、どれくらいが「居心地の悪い」ものですか?
 
パンチライン8|“Media is your Vehicle”
「メディアはアイデアを届ける重要な乗り物だ」

 海外のメディアエージェンシーの代表の視点に目から鱗がこぼれ落ちました。

 海外では、クリエイティブエージェンシーとメディアエージェンシーが分かれていることが多く、メディアクリエイティブに対する理解が特に少ないことがセミナーで分かりました。

 とはいえ、日本のクリエイティブも、メディアホールダーたちと媒体営業を介さずにやりとりすることはそう多くはないでしょう。

 メディア選定だって、そこに載せるアイデアと同じくらいクリエイティビティを発揮するチャンスであること。メディアの人とタッグを組むことで生まれる相乗効果。媒体営業やメディアエージェンシーとの関わりを日本でもっと増やそうと決心させてくれました。
 

メディアエージェンシーの第一人者によるパネルディスカッション
 
パンチライン9|“It is good? or Fxxking good?”
「それは良い作品か、それとも、クソいい作品か」

 少なくとも私が参加したBrand EntertainmentとBrand Content部門の審査会では、驚くほどの放送禁止ワードが飛び交っていました。

 審査員たちが罵声を浴びせていたわけでは決してなく、エントリー作品に対する最大級の賞賛を表す指標として使われていました。

 カンヌライオンズなどの主要海外広告賞やACC TOKYO CREATIVITY AWARDSでも同じ考えを持っていると聞いたことがありますが、前提条件として「それは、今年の受賞作として後世に残し、布教したいアイデアか」という視点でグランプリやゴールドを決めていました。

 今年カンヌでもグランプリを獲っていたロレアルの「The Final Copy Of Ilon Specht」は、審査委員長から「伝説のコピーライターに対する敬意とトリビュートとしてもグランプリにしよう」という発言があり、満場一致でグランプリを獲得していました。
 

ロレアル「The Final Copy Of Ilon Specht」
 

審査会の様子、ふかふかのソファに深く座った審査員陣が何時間もぶっ通しで作品を見ては感想を述べていく緊迫した空間でした。