独自市場で勝つための3つの戦略


—「生体リズム」という新しい市場で、どのような戦略を描いていますか?

 「生体リズム」は一見ニッチで、まだ一般的な言葉になっていない潜在的な市場です。しかし、だからこそ、価格や機能で戦う消耗戦ではなく、当社にしかつくれない土俵で勝負するという決意の表れでもあります。これこそが、漢方に根差した製薬会社としてDtoCで生き残るための「孤独だが最も安全な航路」だと信じています。それを確かな航路とするために3つの明確な戦略を持っています。

 1つ目は、「独自の技術・ノウハウ」です。ポジティブリズムが提案するのは、人が多くの時間を過ごす住環境で、生体リズムに影響を与える音や光といった外的要因そのものをセンシングし、最適化するという世界でも類を見ないアプローチです。他社には真似できない技術を確立し、特許を申請する準備を重ねています。

 2つ目は「データ」です。「マイリズムチェック」などから得られる人間や住環境に関する膨大なデータを、AI活用によって指数関数的に進化させ、後発の追随を許さない「深い堀」を築きます。

 3つ目は「知性」です。ドモホルンリンクルはマスコミュニケーションを主軸としてきましたが、新規事業は広告費をかけて情報発信するのではなく、社会がニュースにしたくなるような「知性」を生み出すことに主眼を置きます。この源泉となるのが、九州大学との10年以上にわたる共同研究や、2024年4月に設立した新会社「再春館共創ラボラトリー」(※)でのオープンイノベーションです。これらは自らの知性によって人を集め、社会の注目を集めるエンジンとして機能します。

 このように、「生体リズム」という新しい挑戦は一見、成功の保証がない社会 実験のように見えるかもしれませんが、当社にとっては、これからの時代に生き残るための経営戦略と哲学とが完全に一致した「必然の一手」だと考えています。

(※再春館グループと外部企業・研究機関をつなぐオープンイノベーション推進会社。異業種連携による共同研究、JV、M&A、出資などを通じて新しい価値創造を促進し、再春館グループの事業成長を支援する。2025年9月には宮崎県の健康食品OEM会社であるニホンバイオフーヅ製造を完全子会社化し、新たな生産拠点とした。)

— 2025年4月に販売開始したLib Work社(熊本県)との共同開発商品「ポジティブエイジハウス」、7月の美容栄養ドリンク「ナイトケアコラーゲン」、10月にスタートした「マイリズムチェック」とカウンセリングを組み合わせた「パーソナライズした養生提案」。いずれも「ポジティブリズム」に連なる商品ですが、今後注力する企画を教えてください。

 注力するのは個別のプロダクトではなく、「生体リズムを整え、自己回復力を高める」という新しい文化・習慣をつくることです。挙げてくださった商品群は、単なる「モノ売り」ではなく、新しい価値観をつくるための啓蒙であり、それぞれの商品は当社がドモホルンリンクルの延長線上で戦うのではなく、「自己回復力」を社会に実装するためのパーツです。

 単発に見える施策もすべて「生体リズムを整えることによる自己回復力の増強」という体験につながるように設計しています。

 たとえば「ポジティブエイジハウス」は、人生の多くの部分を過ごす住環境そのものをデザインし、日常の無意識に働きかけ、究極の自己回復空間を創造するものです。「老い」に対する固定観念を変えるプロジェクトを表彰する「Age-Well Design Award 2025」で企業部門を受賞し、複数の不動産事業者や高齢者施設、自治体などからも関心を示していただいています。今後、設計システムを含めて幅広く展開したいと考えています。ちなみに、一般住宅であれば標準価格に+200万円程度の価格設定です。

「ポジティブエイジハウス」の例

 「家」が当社の思想や決意を表明する旗艦的な事業だとしたら、「マイリズムチェック」は気軽にスマホから取り組める「自分との対話」を促す施策です。誰も見たことのない「自分の生体リズム」を無料のアンケートと漢方の知見で可視化します。さらに興味を持っていただけたら、今度は専門知識を持つ「お客さまプリーザー」が一人ひとりに寄り添うパートナーとして、パーソナライズした最適な養生提案をします。このカウンセリングは現在、無料で行なっていただけます。

スマホでできる「マイリズムチェック」

 また最近では、国際線LCCの機内食で薬膳粥の販売を開始し、「時差ボケ」という究極のリズムの乱れに挑んでいます。今後もあらゆる角度から「自己回復力」を体験できる機会を創造していきます。

—旗艦的な事業とはいえ、いきなり「家を売る」というのは斬新なアイデアに思います。間地さんが主導されたと伺いましたが、ドモホルンリンクルの研究開発に長年従事した薬剤師である間地さんが、なぜ畑違いに思える新規事業の統括をされているのでしょうか。

 昔と今で全然違う仕事をしていると映るかもしれませんが、遡るとやはり、ドモホルンリンクルの経験が根幹にあります。ドモホルンリンクルが追求するのはシンプルで、肌の「自己回復力」があれば悩みはなくなる、というものです。そのためにお客さまが迷わなくてすむワンラインに絞り、何十年も使ってくださっている方も含め20万人以上のお客さまに常に喜んでいただけるよう、絶えずリニューアルを繰り返してきました。

 私自身、その中枢で働く中で、だんだんと後進に道を譲りながら、本当の意味でお客さまの「自己回復力を高める」のであれば、肌につけるだけでなく、体そのものや環境など、他にも働きかけられる場所があるはずだと考えるようになりました。体のリズムを整えれば肌も良くなるし、ほかにもいいことがたくさんあります。一つひとつの不具合に個別に対応するより、リズムを整えるほうが上位にくるはず————そこから「ポジティブリズム」の考え方が生まれました。じつは以前から健康食品や入浴剤のような商品を出してはいたのですが、どうしてもドモホルンリンクルの「子事業」となってしまい、違いを打ち出せずにいました。

 けれど、先ほどお話した市場変化や経営上の課題が待ったなしとなり、手を挙げて、ドモホルンリンクル以外でお客さまの「自己回復力」をつくる使命を負うことになりました。すでにレッドオーシャンであるインナーケア市場に入っていくには、単なる事業多角化ではなく、目先の売上やトレンドに左右されず貫ける堅固な思想、ポリシーが必要です。創業以来の漢方理念に立ち返り、「自己回復力」を頂点とする価値提供のあり方を再構築しようと考え、たどり着いたのが、現代人が本質的に必要としている「生体リズム」と、それを核とした暮らし・養生、さらには住環境や社会環境の改革という価値提供(下図)でした。九州大との理論構築や新体制の準備に1年ほどかけ、2025年4月に「ポジティブエイジハウス」のローンチとなった次第です。



 戦い方も、ドモホルンリンクルのコミュニティに依存するのではなく、「ポジティブエイジハウス」や機内食のような他企業との協業や、研究成果などを話題にしていただけるようなコミュニケーションを進めていきます。もちろん「自己回復力を高めてお客さまを幸せにしたい」という根幹は同じなので、ドモホルンリンクルとは互いに引き立て合いながら、再春館製薬所としてお客さまや社会との接点を多様化していきます。