その“現場”というヤツをここに連れてこい!
メガネスーパーは、JINSはじめ新興勢力の市場参入による価格破壊、リーマンショックなどの外因による不況の結果として、何年も赤字に苦しんでいた。その中で、星﨑氏は本社から指示を飛ばすのではなく、現場を回って一つひとつの事柄に着目し改善案をつくり、それを全社に広げていった。本社の会議では、幹部社員が「現場」を語る。しかし、それはすべてフィルターを通したもの。星﨑氏は「現場って、一体誰なんだ?」「いいから、その“現場”というヤツをここに連れてこい!」と幾度も叫んだそうだ。
「誰も何も決めようとせず」「誰も責任をとろうとしない」「指示待ち人間」が、やらない理由ばかりを、さも正論のように並べ立てるのである。その間に会社の赤字は積み上がり、倒産するというのに。
そこで、星﨑氏が決めたのは、店舗運営に直接関わることだった。“天領店”と呼ぶ有楽町、新宿、吉祥寺、横浜、小田原店を自らの直轄とし、店舗に身を置いた。「現場に行く」という表現では、生ぬるい。自分自身が、「現場になるのだ」と語る。
この本のタイトルである「0秒経営」とは、「やるべきことをやっていない」中で、現場で見て考えたことをすぐに実行するという意味だ。天領店で成功したことは、次々と全社へ展開されていく。
そのために生み出したのが、「アクション会議」である。毎週月曜日、全国から200人が集まり、正午から議論して「疑問点があれば会議中にすべて潰す」のだ。ときには、10時間に及ぶ会議となる。これだけ重要かつ“決める” 会議を行うためには、社長と社員の信頼関係、逃げない社長の覚悟が必須だろう。そして、たとえ実行に移して失敗したとしても、「早く失敗し早くリカバー」すればいいだけだ。
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だからといって、星崎氏は「いいからやれ」は厳禁だと語る。「いいからやれ」のマネジメントでは、人を伸ばせず、むしろ考えない人を生み出すだけだからだ。
また、「会社には、お客さまや社員の暮らしを守る責任がある。経営者ごときのレベルで天井を決めてはいけないのだ」「経営者の成長が止まったなら、経営者を踏み越えてでも、会社は成長していかなければならない」とも語る。
書籍には、再建に向けての考え方や具体的な施策についても書かれており、ぜひ読んでほしい。マーケターに何よりも伝えたいのは、星﨑氏が再三にわたって伝えている考え方だ。それは、きれいなデジタルマーケティングのロジックやコンサルのフレームワーク整理よりも、現場や数字という泥臭いものにまみれている方が成長し、より仕事が楽しくなるということだ。
マーケターは、そのような経営者・事業責任者であれ。私は心から強くそう思う。
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