支援者という立場から「高次の理念」を考えてみる
ジム・ステンゲル塾の開講に寄せた原稿依頼をいただき、雲の上の存在に対して僭越とはこういうことを指すのだと思いながら、せっかくの機会なので私なりの想いを寄せてみる。厚顔無恥をお許しいただけると幸いである。また、本稿はブランドを支援する立場からの寄稿であることも予めお伝えしておく。
ジム・ステンゲル氏の著書『GROW』の中で「ブランド」とは「ビジネス」と同義語として定義されている。また、市場の中で独自性、差別性を示し、利益の獲得と事業の成長を牽引するものとして「ブランド理念」をより高次に設定することの重要性が方法論と多くの事例をもって解説されている。
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実際に、当時の組織マネジメントにおいて私が理念として掲げていたものは、ステンゲル氏の言葉を借りると、世の中のデジタル化を背景とした自社の生き残りや社内におけるイノベーションを高らかに叫ぶレベルに終始していたのかもしれない。その次元だったが故に、確かに関係各所との合意形成やマネジメントの難しさにも直面していた。その約一年後に私は当時の組織を去ることになるのだが、その一年は少しだけ部門のスローガンを高次に設定し、評価のKPIもトップラインから目的に対するチャレンジ性と収益性に修正した記憶がある。その結果、KPIとしては切り捨てたトップラインも伸びた。
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しかし、ここで語られている「ブランド理念」とは、必ずしも顧客企業固有のテーマではないはずなのだ。実際、「ステンゲル50」(ステンゲル氏がブランド理念において特に優れていると考える50のブランド)の中にはアクセンチュアのような世界を代表する支援企業が含まれているし、書中からは時々のステンゲル氏を支えたパートナー企業の理念に対するリスペクトも読み取ることができる。
「理念」というものは、とても面白い。例えば、当社に所属する従業員は、機能やスキルでいえば(厳密には少し違うが)広告代理店のアカウントプランナーやストラテジックプランナー、コンサルティングファームのコンサルタントに置き換えが可能かもしれない。ただ、理念が異なることによって、顧客企業からは明確に異なる目的で雇用されている。理念に規定されることによって、私たちは目先のマネタイズを優先せず、勇気をもってやらない仕事を決めることができる。この判断や行動が、真実として顧客に伝わるのだ。製品やサービスに対するコミットメントはもちろん大切だが、理念に共感を得て雇用されている実感が強い。そして、その喜びを従業員と分かち合っている。これはとても幸せなことであると同時に、理念が強い繋がりを生み出す一方で、機能は置き換えが可能であるという実感値を伴う体験でもある。