今、世界的にビジネスにおけるマーケティングの役割が激しく変容している。広告コミュニケーションに留まらず、企業や事業の価値を押し上げ、成長にダイレクトに貢献することがこれまで以上に求められる。本連載では、厳しさを増すグローバルマーケティングの世界で奮闘し、進化し続けるグローバルマーケターに焦点を当て、独自の価値を発揮するために必要なものを探っていく。
第3回は寝具メーカーのテンピュール・シーリージャパンやコアラスリープジャパンなど数々の企業でマーケティングを統括し、組織づくりから事業成長までを牽引したDazzle Fusion Inc.代表の尾澤恭子氏にインタビュー。前編では20代で渡米し、ITバブルに沸くシリコンバレーで複数事業を立ち上げた尾澤氏の「負けたら明日はない」覚悟と実践知に迫った。後編は40代でMBAを修了し、体系化された知識と豊富な経験を強みにコアラスリープジャパンをV字回復に導いた軌跡を聞いた。
第3回は寝具メーカーのテンピュール・シーリージャパンやコアラスリープジャパンなど数々の企業でマーケティングを統括し、組織づくりから事業成長までを牽引したDazzle Fusion Inc.代表の尾澤恭子氏にインタビュー。前編では20代で渡米し、ITバブルに沸くシリコンバレーで複数事業を立ち上げた尾澤氏の「負けたら明日はない」覚悟と実践知に迫った。後編は40代でMBAを修了し、体系化された知識と豊富な経験を強みにコアラスリープジャパンをV字回復に導いた軌跡を聞いた。
見出された「才能」
―― 米国での約10年に及ぶ壮絶な経験の後、テンピュール・シーリージャパンのEC事業をリードし、マーケティング全体の統括に就任されました。一方でチームでの言語化や再現性に限界を感じ、43歳でビジネススクールに入られたのですね。
はい。最初は自分がそれまでやってきたことを「答え合わせ」する程度の感覚で通い始めたのですが…。学び始めてみると、「自分がやってきたことは、やらなきゃいけないことのほんの一部だったんだ」ということに気付かされました。ビジネスの中でキャッシュという血液がどのように循環するか。人、モノ、金をどのように動かすことが経営上、有効か。再認識する部分もありましたが、特にファイナンスに関しては初めて学ぶ領域だったので、その知見を得られたのは有益でした。
また、それまで感覚的に使ってきたマーケティングの専門用語やフレームワークを改めて捉え直し、言語化できるようになったのは大きかったです。特にフレームワークは、それを使うと誰でも成功するわけではなく、使い方によってアウトプットも変わってきます。一方で誰にでも同じように伝えることができ、情報や思考の抜け漏れが防げます。たとえば議論や思考を深める際には「事実」と「解釈」の違いを踏まえることが大事ですが、フレームワークがないと、両者を混同したり、考え抜いたと思ってもある部分がすっぽり抜け落ちてしまったりすることがあります。フレームワークは完璧なものではありませんが、使いようによって思考や議論を深めるのに役立てることができます。
そういった体系的な知識や考え方を、これまでの経験や、テンピュールでの実務と照らし合わせながら身に付けられたのは、本当に良かったと思っています。
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Dazzle Fusion Inc. 代表
尾澤 恭子 氏
内資メーカーの広告宣伝部を経て1999年にシリコンバレーでスタートアップベンチャーに参画。オンライン決済、ウェブホスティング、開発、ウェブマーケティング、雑誌社などの事業をゼロから立上げ成長させる。2008年に帰国後、複数の事業立ち上げ経験を強みにテンピュール・シーリージャパンのマーケティング統括、フライシュマン・ヒラード ジャパンのデジタル部門ヴァイス・プレジデント、オリックスのデジタル戦略リードを経て2021年にコアラスリープジャパンに参画。セールス・マーケティング全般をハンズオンで統括し、短期間で業績のV字回復を実現、33カ月連続で昨対同月売上を更新。2018年より個人コンサルタントとしても美容、ヘルスケア、レジャー等の分野におけるマーケティングおよびDXプロジェクトを支援してきたが、よりフレキシブルな働き方と活動範囲を求め法人化、2024年10月に独立。
尾澤 恭子 氏
内資メーカーの広告宣伝部を経て1999年にシリコンバレーでスタートアップベンチャーに参画。オンライン決済、ウェブホスティング、開発、ウェブマーケティング、雑誌社などの事業をゼロから立上げ成長させる。2008年に帰国後、複数の事業立ち上げ経験を強みにテンピュール・シーリージャパンのマーケティング統括、フライシュマン・ヒラード ジャパンのデジタル部門ヴァイス・プレジデント、オリックスのデジタル戦略リードを経て2021年にコアラスリープジャパンに参画。セールス・マーケティング全般をハンズオンで統括し、短期間で業績のV字回復を実現、33カ月連続で昨対同月売上を更新。2018年より個人コンサルタントとしても美容、ヘルスケア、レジャー等の分野におけるマーケティングおよびDXプロジェクトを支援してきたが、よりフレキシブルな働き方と活動範囲を求め法人化、2024年10月に独立。
―― 尾澤さん持ち前の「学びを生かす」習慣が最大限に生かされたのですね。MBA修了と同時にコンサルティング会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパンに転職されました。
はい。ご縁があって、デジタル部門のヴァイス・プレジデントに就任しました。ところが私の場合、マーケティング・コンサルタントという仕事は「やれることに限りがある」という現実を突きつけられる経験になりました。クライアントの希望に応じて、認知度アップを目的とした施策を立案して実際に認知度が上がっても、売上に繋がっているかが気になって仕方がないのです。部分的な依頼をされても「売上に繋がるかどうか」という経営視点で見るので、どうしても大きな提案になってしまいます。
―― 全体最適を追求する視点が、裏目に出てしまったのでしょうか。
落ち込んでしまった時もあったのですが、「それは尾澤さんの才能だよ」と言ってくれる人がいて、自分の持ち味だと腹を括りました。たとえ広告の依頼でも、期待される結果が「売上増加」であれば、「広告イコール売上ではありません」と言って、経営視点の提案を突き詰めていったところ、信頼を寄せてくださるクライアントもいらっしゃいました。働き方がかなりハードだったこともあって、フライシュマンは結果として10カ月で卒業しましたが、その後もしばらくはフリーのコンサルタントとして、企業のマーケティングやDXなどを支援していました。