直販・通販事業に携わるトップマーケターが集結するカンファレンス「ダイレクトアジェンダ2025」が、2025年3月18日から20日にかけて、出島メッセ(長崎県)で開催された。スペシャルセッションでは「新スタジアムで注目『V・ファーレン長崎』社長が挑む、スポーツの枠を超えた『顧客体験』」と題して、V・ファーレン長崎 代表取締役社長の田河毅宜氏がスピーカーとして登壇。
長崎県をホームタウンとするプロサッカークラブとして、地域に根ざし多くの人々に愛される「V・ファーレン長崎」は、2024年10月開業した長崎スタジアムシティのPEACE STADIUM Connected by SoftBankを拠点に、従来のスポーツ観戦の枠を超えた顧客体験の創出に挑戦している。また、ECや会員プログラムを活用し、オンラインとオフラインを融合させたマーケティング施策にも注力している。田河氏はプロバスケットボールクラブ長崎ヴェルカを、クラブ立ち上げから4年間でB1へ昇格、優勝に導いた経験を持つ。本記事では、同氏の経験を生かした「日常・非日常」の仕掛けづくりや企業全体で収益最大化にベクトルを向ける体制づくりついて語ったセッションをレポートする。
長崎県をホームタウンとするプロサッカークラブとして、地域に根ざし多くの人々に愛される「V・ファーレン長崎」は、2024年10月開業した長崎スタジアムシティのPEACE STADIUM Connected by SoftBankを拠点に、従来のスポーツ観戦の枠を超えた顧客体験の創出に挑戦している。また、ECや会員プログラムを活用し、オンラインとオフラインを融合させたマーケティング施策にも注力している。田河氏はプロバスケットボールクラブ長崎ヴェルカを、クラブ立ち上げから4年間でB1へ昇格、優勝に導いた経験を持つ。本記事では、同氏の経験を生かした「日常・非日常」の仕掛けづくりや企業全体で収益最大化にベクトルを向ける体制づくりついて語ったセッションをレポートする。
感動とビジネスを両立させた地域創生に挑むジャパネットグループ
猿渡 アンカー・ジャパン 代表取締役CEOの猿渡です。我々は、神奈川県川崎市をホームタウンとする川崎フロンターレのユニフォームへのロゴ掲出や「Ankerフロンタウン生田」という施設のネーミングライツ取得し、トップスポンサーをさせていただいています。この度はそういった経緯で、私がモデレーターをさせていただくこととなりました。まずは田河さん、自己紹介をお願いします。
田河 V・ファーレン長崎の田河です。私は長崎スタジアムシティプロジェクトに出会ったことをきっかけに、2019年にジャパネットグループに入社しました。現在、ジャパネットグループは通販事業と、スポーツ地域創生、この2つの大きな柱で経営をしております。

V・ファーレン長崎
代表取締役社長
田河 毅宜 氏
総合印刷会社を経て2019年に株式会社ジャパネットホールディングスに入社。
長崎スタジアムシティプロジェクトのプロモーション事業などに携わる。
バスケットを通したエンターテインメントによる地域創生、感動とビジネスの共存をめざして長崎ヴェルカの立ち上げに従事。2023年長崎ヴェルカ取締役に就任し、2024年12月末をもって退任。2025年1月にV・ファーレン長崎 代表取締役社長に就任。現在に至る。
代表取締役社長
田河 毅宜 氏
総合印刷会社を経て2019年に株式会社ジャパネットホールディングスに入社。
長崎スタジアムシティプロジェクトのプロモーション事業などに携わる。
バスケットを通したエンターテインメントによる地域創生、感動とビジネスの共存をめざして長崎ヴェルカの立ち上げに従事。2023年長崎ヴェルカ取締役に就任し、2024年12月末をもって退任。2025年1月にV・ファーレン長崎 代表取締役社長に就任。現在に至る。
私は前職で、地域創生事業における各自治体のコンサルタントのような業務を行っていました。そのときに、イタリアの「サン・シーロ(ACミランやインテル・ミラノなど、セリエAの強豪チームのホームスタジアム)」に行く機会がありました。あまり大きくないミラノの町で、5万人近くの市民が熱狂する姿や海外客の経済効果を感じ「地域創生とはこういうことだ」と強く感じました。
長崎市は人口流出数が全国でワースト圏内に入る都市でした。もし我々が長崎で感動とビジネスを両立させて経済波及効果を生み、少しでも人口を増やすことができれば、全国47都道府県、どこにでも横展開できるのではないか。そう考え、まずは長崎でしっかり成功と呼べる実績を出していきたいと思っています。
猿渡 この長崎スタジアムシティは、試合の観戦に集中する欧州型のエンターテインメントと、レーザーや花火を使った非日常の演出を重視した米国型のエンターテインメント、その両方をミックスさせたようなコンセプトが印象的です。ビジネスの目線からはどういう意図があるのでしょうか。
田河 スポーツには、いわゆる「熱狂的なファン層」と「ライトなファン層」があります。特に長崎のような地方都市においてはそういったファン層の垣根を取り払い、スタジアムを面で満員にしていくことがとても重要です。花火やレーザーの演出はライトなファン層の獲得、そして観客が「ワーッ」と声を出す瞬間づくりなど、盛り上げるための予行演習という意味でも活用しています。
ジャパネットの強みを生かした、日常・非日常の仕掛けづくり
猿渡 他にも長崎スタジアムシティには多くの特徴があると感じました。たとえば、サッカースタジアムそのものについて、長崎スタジアムシティは商業施設も含めてほぼ自社グループが運営していますよね。一般的には市町村が保有しているケースが多い中、これは珍しい取り組みなのではないでしょうか。また、総事業費は約1000億円と大きな金額と伺っています。

アンカー・ジャパン
代表取締役CEO
猿渡 歩 氏
Deloitteにてコンサルティング業務やIPO支援に従事後、PEファンド日本産業パートナーズにてプライベート・エクイティ投資業務に携わる。Ankerの日本事業部門創設より参画し、同部門を統括。参入したほぼ全ての製品カテゴリでオンラインシェア1位を実現するとともに、創業12年で売上728億円超を達成。現アンカー・ジャパン代表取締役CEOおよびアンカー・ストア株式会社代表取締役CEO。他EC関連企業の社外取締役や顧問も務める。著書「1位思考」。
代表取締役CEO
猿渡 歩 氏
Deloitteにてコンサルティング業務やIPO支援に従事後、PEファンド日本産業パートナーズにてプライベート・エクイティ投資業務に携わる。Ankerの日本事業部門創設より参画し、同部門を統括。参入したほぼ全ての製品カテゴリでオンラインシェア1位を実現するとともに、創業12年で売上728億円超を達成。現アンカー・ジャパン代表取締役CEOおよびアンカー・ストア株式会社代表取締役CEO。他EC関連企業の社外取締役や顧問も務める。著書「1位思考」。
田河 実は、私が2019年に参画したときの計画予算は500億円でした(笑)。コロナ禍による資材や人件費の高騰などの理由もあり、最終的には約1000億円の投資となりました。
意思決定の背景は「ユニークなものにしたい」という思いです。「投資した分を大きく回収できるのであれば、どんどん挑戦していく」という経営者の判断でした。また試合観戦だけではなく日常的に利用してもらいたいという意図で、天然温泉に入ることができる温浴施設も建設しました。
猿渡 1年のうち約300日は試合がないのがサッカーのスタジアムです。またJリーグには英国のプレミアリーグのように特定の強豪チームが存在する一方で、そうではないチームも多くあります。つまり勝つ試合もあれば、負ける試合もあるのが日常です。
熱狂的なコアなファン層であればそれも楽しんでもらえます。しかし、大多数のライトなファン層はやはり「勝たないと面白くない」ところがあるでしょう。川崎フロンターレの場合、新監督発表イベントではコスプレをするなど、エンタメ的な要素に注力しています。長崎スタジアムシティは日常を盛り上げる面で、どのようなことに注力されていますか。
田河 V・ファーレン長崎の場合、自社でスタジアムを保有していることがひとつの強みです。行政が持つスタジアムとは違い、365日すべて自分たちで使うことができるからです。たとえば、平日朝の練習を公開することなどの取り組みを行っています。チケットも不要で気軽にふらっと見に来てもらえることができ、3000人ほど集客できる日もあります。
また、スタジアムの観客席について、一般的なスタジアムでは選手や関係者しか入れないような選手の入場口に近い場所にVIP席を設けています。選手が待機している様子や記者会見など、普段見ることのできない臨場感のある様子もすべて見ることができるのはコアなファン層にとっては貴重な体験です。これも自社のスタジアムだからこそ提供できる顧客体験です。

猿渡 長崎スタジアムシティの特徴として、もうひとつチケットシステムが挙げられるかなと思います。一般的にJリーグのチームは、提携のチケットシステムを活用することがほとんどです。しかし、V・ファーレン長崎には、独自のチケットシステムがありますね。
田河 グループ会社のジャパネットたかたが通信販売を主としている企業であることからコールセンターのシステムを流用することができています。そのため、 シニア層の人にも観戦をしてもらえる入口が用意しやすい面があります。同様に顧客の LTV(顧客生涯価値)の意識などは、もともと企業文化として浸透しています。他にも出稿しているテレビ局とのお付き合いもあり、 グループ内のリソースが使える部分の強みはあるかもしれません。