オフラインの「体験」がファンを虜にする
猿渡 スポーツビジネスは、リピーターの獲得も大きな課題です。LTVにおけるチャーン(顧客の解約)の低下を防ぐ意味からも、やはりリピートしてもらうことがファン化につながり、グッズの売上などの収益にも結びつきます。より多くの人に長くファンでいていただくために工夫されている点はどのようなことですか。
田河 これは私が長崎ヴェルカにいたときのバスケットボールの事例です。長崎ヴェルカでは、過去のデータから「3回来場」がひとつのトリガーだという分析結果があります。シーズンを通じて3回来場したお客さまはコアなファンになるということです。そのため2回目以降の足が少し遠のいているお客さまにシークレットクーポンを発行するなど、来場を促すための施策を行っています。

猿渡 私も川崎フロンターレもスポンサーになるまで、実はあまりJリーグを見ていませんでした。でも今ではホーム試合はほとんどスタジアムで観戦していますし、練習の様子をYouTubeで見るなどもしています。人々の可処分時間や可処分所得が減少している中で、人として、チームとして好きになってもらう、自分ごと化してもらうというのが究極のファン化なのだなと感じます。
地域を盛り上げるという点で3月16日(本イベント開催の2日前)、川崎フロンターレとファジアーノ岡山の試合が岡山でありました。川崎フロンターレのファン5000人近くが岡山まで行ってホテルに泊まり、地域での飲食の様子をXで発信して盛り上げました。どのくらいの収益になったかは見えづらいものの、これは岡山にとってかなりの経済効果となったと思います。
スタジアムがきっかけで、その地域の魅力に気が付いてもらえ「来て良かった」と思ってもらえる。そういう風に地域全体が盛り上がります。非合理から間接的に得られる、いわば「非合理の合理」があるのだなと感じます。V・ファーレン長崎ではオフラインでの体験も重視している、素晴らしい経営だと感じます。
田河 スポーツは、本当に非合理の象徴のようなビジネスですね。スポーツがもたらす人と人との結びつきには、大きなポテンシャルがあると信じています。
猿渡 お客さまにとって「体験」は非常に重要です。アンカー・ジャパンはECが強く、特に充電関連製品では、Amazonでの売上がプラットフォーム上で1番のブランドになるまで成長しています。しかし、実は直営店舗も全国に30店舗以上に展開を拡大していて、そこだけでも何百人も雇用しています。「直営店を続ける必要はあるのか」と言われることも多いのですが、続けているのはやはりオフラインで得られる「体験」が貴重だと考えているからです。
直営店でどのようなコミュニケーションをして売り上げを出したのか。お客さまからどのような意見があったのか。今後、我々がシェアを40~50%に広げていくためには、ランチェスター戦略(強者と弱者がそれぞれどのように戦うべきかを考えるための戦略論)の面からもより多くの層を獲得していく必要があると考えています。他社の参入障壁をどう上げるかが、マーケティングでは非常に重要だと思います。
SNSを活用するなどして一時的に数値を上げることもできます。しかし、簡単に上がるということは、他の企業もすぐに上げられる可能性があるということです。ファンの心を「失わない」という意味で掴み続けるには、数値だけでは測れない部分も重要だと思います。
田河 V・ファーレン長崎は長崎だけを盛り上げたいわけではなく、我々の事例が日本全国に波及して少しでも日本全体がエンターテイメント産業を含めて盛り上がっていくことを望んでおります。
長崎スタジアムシティのような施設が全国各地にできてくればいいなと思っているので、皆さんの中で街を元気にする取り組みをされている企業様がいらっしゃれば、ぜひ視察などにお気軽にお越しいただけたらと思います。一緒に地域を盛り上げていきましょう。
