ビジネスパーソンの“カンヌ活用法”
ー いわゆる「クリエイター」ではない一般ビジネスパーソンがクリエイティブの素養を持つということに、どのような意義があると思いますか? クリエイティブ・クリエイティビティについて、世一さんがどのように整理・認識されているかも合わせて聞かせてください。私は、クリエイティブの力が発揮される対象は「戦略」「企画」「表現」の大きく3つに分けられると考えています。戦略は広義の、表現寄りは狭義のクリエイティブです。例えば、一つのキャンペーンをつくるとして、ターゲットやインサイトを探して大きな方向性を決めるのが「戦略」、コアとなる面白いアイデアや利用する媒体を決めていくのが「企画」、映像やコピーライティングにメッセージを落とし込むのが「表現」です。広義のクリエイティブはすべてのビジネスパーソンに必要なものであり、狭義のクリエイティブはより専門的なスキルと言えると思います。
総合商社など事業会社で事業開発に携わる人もそうですし、スタートアップなどの起業家もそうですが、新たなビジネスの枠組みを開拓している人たちは、自分のことを「クリエイター」とは思っておらずとも、かなりクリエイティブな考え方や行動をしているんじゃないかと思うんです。
というのも私自身、事業開発に携わる中で、「定量的アプローチで解決できることとできないことがある」と痛感しているんです。いま存在するデータを分析して、市場の状況や過去の実績を正確に把握し、目標達成に向けて進捗を管理することはできる。しかし、0→1での事業立ち上げや飛躍的な成長には、定性的な「発見」が役立つシーンもあると感じます。
例えば、新しいコンセプトや商品・サービスを生み出したりするためには、根拠となるようなインサイトを見つけたり、もしくは既存の施策からジャンプするようなアイデアを思いつく必要があります。私は、これも広い意味での「クリエイティビティ」なのではないかと考えているのです。
消費者・お客様のニーズと、自社の強みを因数分解した上で、真に喜ばれる価値を見出して、具体的な商品・サービスや施策に落とし込んでいく。それって、総合商社を含む多くの企業にとって、事業の最もコアな部分ですよね。そこを支える上流工程のクリエイティビティは、すべてのビジネスパーソンに必要なものに他なりません。
ー 事業会社のマーケターを含む、ビジネスパーソンにお勧めの“カンヌ活用法”はありますか?
カンヌライオンズにはたくさんの賞(部門)がありますよね。それぞれの部門の受賞作品を眺めて、それらが評価された理由を分析するのはとても面白いです。「クリエイティブを見る目を養う」ということですね。
どんな指標で・どんなポイントが評価されるかは賞によって大きく異なります。クラフト(芸術性や視覚的表現力)が優れていたり、アイデアの新規性が高かったりするものがどうしても目立ちやすいのですが、キャンペーン設計が秀逸で、認知→興味喚起→コンバージョン(購買)までのプロセスを上手くつなげた企画が評価される部門や、新たなサービス・テクノロジーが評価される部門もある。社会のトレンドの波を上手く乗りこなして、新しい需要を開拓した企画が評価される賞もあります。
カンヌの作品を見て「素敵だね、面白いね」とシンプルに楽しむのも良いのですが、各賞が重視している要素を把握した上で、それぞれの受賞作品がどこを評価されたのかを分析しながら見ることで、より理解を深められるのではないかと考えています。
カンヌライオンズ公式サイトより
上図のように、カンヌライオンズの賞はその特性によっていくつかにグルーピングされています。例えば、お客さまとのより良いコミュニケーション方法について考えるのであれば、Experience領域の賞を見てみると面白いのではないでしょうか。
また、カンヌライオンズは、世界中から審査員が集まり、さまざまな国のキャンペーンや施策について議論がなされるグローバルな場です。そのため、世界中の誰にでも伝わる作品が上位賞に選ばれる傾向にあります。
事業を展開する際、展開地域やターゲットが複数にわたるものの、リソースの制約でローカライズが叶わない時もあるかと思います。そんな時に役立つのが「普遍的なインサイトとアプローチ」です。バックグラウンドの違いを超えて多くの人に共通する心の動きや、多くの人に伝わる企画を知ることは、効果的なマーケティングのヒントになるのではないでしょうか。
消費者コミュニケーションにおいては世界最高峰のケースが集まる場ですから、これ以上勉強になる場はありませんよね。
ー ヤングカンヌ本戦に向けて、抱負を聞かせてください。
やはり簡単に立てる舞台ではないので、出るからには世界一を目指したいです。それと同じぐらい、世界中の新進気鋭の若手たちと出会えることが楽しみで仕方ありません。そんな人たちと横並びで競える機会なんて、そうそうありませんし…!
また、デジタル部門は、デジタルメディアやデジタルプラットフォーム、エンターテインメント、テクノロジーを用いた課題解決が求められます。最近は毎週末ヤングカンヌの模擬練習をしていますが、特にメディアプランニングとエグゼキューション(企画の実行プロセス)を詰めるうえで、メディア・デジタルグループで得た業界知識と実務感覚は大いに役立っています。
一般的にヤングカンヌは、“飛び道具”的なアプローチや“一発芸”的な表現が求められると認識されているように思います。でも実際のところ、やることはめちゃくちゃ泥臭いんです。過去の受賞作品や世界の最新トレンドをリサーチし、それをひたすら因数分解しながら分析して、勝ち筋を探す。そして、その勝ち筋に合致度が1%でも高いアイデアを24期間で捻り出す。左脳も右脳もフル活用する戦いです。そういう意味で、本戦の前からすでに戦いは始まっています。
おそらく20代のビジネスパーソンは、熱量も体力も気力も持て余している人が多いはず。仕事をしてもなお有り余るパッションを、ぶつけられる対象を常に探しているんじゃないでしょうか。今の私は、それをヤングカンヌにぶつけているわけですが…ヤングカンヌが終わったら次は何をしようかな?とずっと考えています。
結果発表は6月20日です。授賞式で「ジャパン」と呼ばれるよう、精一杯頑張ってきます!
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