ビジネスにおけるカンヌライオンズとクリエイティブ
帰国から約1ヵ月が過ぎ、現在はアジェンダノートをはじめとするメディアや各種報告会でヤングカンヌの話をさせていただいています。やはり話題の中心になるのは「ビジネスにおけるカンヌライオンズ、クリエイティブとは」という部分です。
まずはカンヌライオンズに関してですが、今回現地を訪れて実感したのは、非常に多面的な要素をもったイベントであるということです。世界最高峰の情報共有やネットワーキングが行われる場所であるほか、広告クリエイティブのトレンドや評価基準を決めるという機能も持ちますし、アワード自体にはブランド・メディアとしての側面もあります。
出国前に「自ら動かなければ、カンヌでは何も起こらない」という話を聞きましたが、まさにその通り。街を駆け回って情報や人脈を集めても良いですし、さらには俯瞰的にアワードという構造を理解し、うまく乗りこなしていくのも有用な選択肢だと感じます。
もし来年以降カンヌライオンズに行く方がいらっしゃれば、ぜひ渡航の数ヵ月前から情報を集め始めることをお勧めします。色々な視点でフェスティバルを解析することで、カンヌで過ごす1週間の価値を最大化することができるはずです。

最終日のAWARD SHOW(カンヌライオンズ全体の表彰式)
また、今年のカンヌライオンズのグランプリ受賞作品を見ていて感じたのは、広告の枠を超えて、仕組みとして社会実装された施策が目立ったことです。
チタニウム部門グランプリを受賞したAXA「Three Words」では、住宅保険契約に“and domestic violence(それと、ドメスティック・バイオレンス)” の3ワードを付加し、家庭内暴力に対する支援を実際の保険商品に組み込んだことが評価されました。

また、ブランドエクスペリエンス & アクティベーション部門とデザイン部門の2つでグランプリを受賞した「Caption with Intention」では、新しいキャプションシステムを開発し、映画業界において新たなシステムをスタンダード化した点で高い評価を得ました。

もちろん、直近の社会分断や「ユーモア」ブームからの反動など、社会的背景も影響しているとはいえ、2011年にフェスティバルの名称が「Cannes Lions International Advertising Festival(カンヌ国際広告祭)」から「Cannes Lions International Festival of Creativity(カンヌ国際クリエイティビティフェスティバル)」に変更されてから、このような評価の傾向は年々強まっていると思います。
昨今、いわゆるカンヌ的文脈でのクリエイティブと、そのメインプレイヤーである広告代理店の動き方は、コンサルティングもしくはエンターテインメントに寄ってきているように感じられます。クリエイティブが広告宣伝費の枠を出たとき、それはより大きな企業活動の一部となりますから、ビジネスとの関係性はよりシームレスになります。
事業会社のマーケティングや事業開発に活用できる実例が世の中に増えてきているとも言えると思います。たとえば、エンターテインメント部門でグランプリを受賞した「NIGHT FISHING」は、自動車ブランド・ヒュンダイの車載カメラを用いた映像施策です。CMの代わりに映画を制作し、コスト項目であるプロモーションを事業性のあるエンターテインメントに転換したことで高い評価を受けました。

「NIGHT FISHING」ケースフィルム
優れたクリエイティブアイデアとは、「テコの原理」のように、小さな変化で大きなインパクトをつくる発想です。
これらを形にする際、表現に比重を置いた施策であれば、制作技術や芸術的センスが必要になります。一方、ビジネス・サービスのような形で社会実装を目指す場合、求められるのは経営知識や会社全体の事業像に対する理解です。既存のアイデアであってもビジネスという実装手段が取られていない切り口は存在しますし、制度設計・商品設計の上で初めて成り立つアイデアもあるはずです。

カンヌライオンズ終幕。来年はどのような施策がグランプリを取るのでしょうか?
理想像の前では、ビジネスもクリエイティブもすべて手段にすぎません。両者は、そのイメージに反して、実は遠からず。実現したい未来がある限り、どちらも課題を見つけ、構造を捉え、最適な一手を考える知的な行動です。そして何と言っても、社会や人を動かす力を秘めています。
これからの時代、既存の枠組みにとどまらない創造性が、ますます社会の推進力となっていくはずです。私も、自身が立つフィールドで実践力と実績を培い、そんな未来に貢献していけたらと願っています。

ヤングカンヌ日本代表、カンヌライオンズ最終日の会場にて。
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