TikTokが切り開く“発見の再定義”とは


 次に、欧州でも爆発的な人気を誇るTikTokの基調講演を紹介しよう。TikTokからは、 Global Business SolutionsのKhartoon Weiss氏が登壇した。同氏は、TikTokが単なる動画プラットフォームを超え、「AIを介してカルチャーそのものを創出する存在へ進化している」と語った。

 同氏が示したのは、TikTokが消費者の“いま”を映す場であるだけでなく、“次に何が流行し、何が購買につながるのか?購買を創出するのか”を可視化する装置として機能しているという点である。

 TikTokの影響度を示す例として、BookTok(注1)やTravelTok(注2)、スモールビジネスの例が紹介された。BookTokは、世界的な販売増を牽引し、TravelTokの投稿が人々の旅行先に影響を与えたという。さらに、個人商店を一夜で行列店に仕立て上げたという、スモールビジネスで起こった奇跡を紹介した。まさに、AIがユーザーの興味を瞬時にとらえ、クリエイターの表現を“現実世界の行動”へ結びつける流れが加速しているといえよう。

注1
BookTok:TikTok上で、さまざまな本を紹介・レビューするコミュニティやトレンドを指す
注2
TravelTok:TikTok上で、旅行体験やおすすめスポット、旅のヒント、美しい風景などを紹介するコミュニティやトレンドを指す


 Weiss氏はまた、AIがクリエイターを置き換えるものではなく、「創造性を拡張するパートナー」であると強調。コンテンツのモデレーションやAI生成物のラベリングにAIを活用し、安全性99.2%という高精度の運用を実現することで、表現の自由と安心を両立しているのだという。さらに、言語ツールやアナリティクスなど、クリエイターの持続的な成長を支える機能を拡充させ、TikTokというプラットフォーム全体が“カルチャーとビジネスのエンジン”となっているのだ。

 TikTokが体現するのは、AIが“発見”を再定義する時代のマーケティングエンジンであり、アルゴリズムによって消費行動がストーリー化される。このことは、AIはもはや裏方の技術ではなく、カルチャーそのものを動かすエンジンそのものであると、AIの新たな側面について語っていた。

 企業担当者にとってTikTokは、もはや単なるインフルエンサー・マーケティングのツールではなく、ブランドの体現からコマースを含めた購買という具体的な行動につなげる重要なプラットフォームとして捉え戦略的に投資する必要があるだろう。
 

TikTok Global Business Solutions VPのKhartoon Weiss氏(左)と、WIRED Global Editorial DirectorのKatie Drummond氏(右)
 

AI時代のメディア再発明。報道価値をどう維持するか?


 次はメディアによる基調講演を紹介する。Dow JonesのCEO Almar Latour氏が、AI時代における報道価値とメディアの存続をテーマに登壇。まさに今、メディア業界が直面する問題と業界の戦略について語った。

 Latour氏によれば、米国では地方紙が40%減少するという新聞ビジネスの問題、さらに世界的なジャーナリストの拘束が起きており、ジャーナリストにとっての脅威が増しているという。それが意味するところは、報道の自由の悪化であると指摘した。一方で、報道機関には“持続可能なモデルを再発明する責務”があると訴えた。

 そんな中で、AI企業との関係において、「Sue or Woo(訴えるか、提携するか)」という明確な方針を採用し、商業価値を認める企業とは提携し、記事の無断利用には訴訟で対抗しているという。例えば、Open AIとは商業契約を結ぶ一方、Perplexityとは訴訟中であると説明した。さらに、世界最大級の生成AI向けコンテンツ・マーケットプレイスを構築しており、7,500以上の出版社に代わって権利管理と利用料配分を行っているという。AI時代における“情報の価値保全”の中心的役割を果たしているのだ。

 Dow Jonesはニュースだけでなく、データ・分析・専門家コミュニティを束ねたBusiness to Professionalモデルを推進し、エネルギー・地政学リスク・ウェルスなどの産業特化型 ・セグメント特化型の事業を拡張し、外部データと独自データを組み合わせた高付加価値情報サービスを展開しているという。そして、持続的ジャーナリズムの未来像として「独自のニュース × データ × 分析 × コミュニティ」が融合したモデルが不可欠になると締めくくった。
 

Dow JonesのCEO Almar Latour氏(左)と、AxiosのMedia Correspondent Sara Fischer氏
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