マーケティングを、組織・社会のOSに


富永 朋信 氏
Preferred Networks
エグゼクティブアドバイザー

 消費者の心を動かすのがマーケティングだとしたら、それで禄を食む者は「人の心の機序理解」をしていることが死活的に重要です。なぜなら人の心がどのように作用するか理解していなければ、どんな施策に対して消費者がどのように反応するかわからないはずだからです。

 そして心の機序理解は、マーケティングの業務範囲を超えて広く援用可能です。消費者の心を動かせるのであれば、その方法を社員に向け、彼ら彼女らの心を動かすこともできるはずで、これは人事の仕事の核心。またあらゆる仕事は社内の関連部門のバイインを取らなければならないことを考えると、たとえば説得にかかる人の心の機序理解は、組織で働く誰もが身につけるべき素養である、といえそうです。

 ここのところ経営のキーワードで、ウェルビーイングが盛んに取り扱われます。「よりよくある」=幸福であることを希求する、というこの概念は、幸福という人にとっておそらく唯一の絶対的に重要なものに関するものであり、本来は誰もが向き合うべきテーマなはず。しかし、一方でその周辺で行われている議論はやや抽象的であり、芯を食った腹落ち感があまりないように見受けられます。

 しかし、人の心の機序理解を通じてウェルビーイングを眺めると、人が幸せを感じるメカニズムを因数分解することにより、幸福・ウェルビーイングを計算可能とすることができそうに思われます。ちなみに今のところ筆者は、ウェルビーイングの構成要素を、必要条件としての「自己認識」「自己受容」、及び十分条件としての「達成」「社会的関係の充実」「利他」「知足」「オートノミー」であると考えており、これらを増進していくことが社会の幸福総量の増大に結びつくのではないか、と考えています。そしてウェルビーイングはこのような考え方を取り込むことにより、つまりマーケティングと綜合されることにより、次のステージに昇華されていく、とも。

 やや大きな話になりましたが、これらの話は、マーケティングの核である人の心の機序の重要さとともに、これらを理解・会得したマーケターの活躍の幅のポテンシャルを示していると考えます。共に心の理解に研鑽を積み、マーケティングを組織や社会のOSとすべく、活動してまいりましょう。

 

自身の知能をもって「再構築している世界」を意識する


音部 大輔 氏
クー・マーケティング・カンパニー
代表取締役

 2024年、2025年と年初の展望でAIを取り上げてきましたが、議論が進むにつれ、私自身は「知能とは何か」を改めて考えるようになりました。ひとまずの結論は、「知能とは、認識のなかで世界を再構築する能力である」という捉え方です。

 「1を聞いて10を知る」ように、限られた情報から文脈や構造を理解するのは、高い知能だと言えるでしょう。問題解決とは、目の前の事象をそのまま扱うことではなく、何が起きているのか、その仕組みや原因を理解し直すことでもあります。人間は五感と脳によって、機械はセンサーとプロセッサによって、世界を再構築しています。

 人間の知能は、一次体験や二次体験といった経験を材料に成り立ちます。ただし処理能力には限界があるため、知覚の一部は自動処理されます。その結果、判断は速くなりますが、同時にバイアスも生まれます。ひょっとすると、バイアスは知能の副産物かもしれません。否定的に語られがちですが、AIとの比較で見るなら、バイアスは人間に固有で、しかも個々人の経験や個性に根ざしたものであるとも言えそうです。2026年は、自身が再構築している世界を意識する一年になるかもしれません。

 では、具体的には何を意識すべきでしょうか。

① 経験を「増やす」より、「どう解釈しているか」を点検する
自分で構築している世界像を、あらためて自覚してみましょう。自身に固有の世界観、世界認識が見えてくるかもしれません。

② 自動化された判断を、ときどき疑う
経験にもとづく直感や、慣れた判断は実務では不可欠ですが、そうした判断が前提としている環境は変化していることがあります。AIは自分の認識の癖を映し出す鏡として使えそうです。

③ 自分に固有の視点を言語化する
自分に固有の見方や引っかかりを言葉にし、意図的に使えるようになることは、AI時代における人間の知能の磨きどころであろうかと思います。気になる観点や違和感を感じる解釈などを手掛かりに、問いを発してみてください。