2025年4月、基礎化粧品ブランド「ドモホルンリンクル」で圧倒的知名度を誇る再春館製薬所が健康に着目した住宅「ポジティブエイジハウス」を販売開始したニュースは、世間に少なからぬ衝撃を与えた。加えて7月には新たなライフスタイル提案型ブランド「ポジティブリズム」を発表し、美容ドリンクやアンケート方式の「マイリズムチェック」、パーソナライズした養生提案を行うカウンセリングサービスなどを次々とローンチ。「生体リズム」という概念の啓発と、それを起点とした企業コラボや多彩な商品提案を本格化している。

 化粧品DtoC事業の老舗が、「漢方の製薬会社」として打ち出す新規事業は何を意味するのか。「生体リズム」という聞き慣れない価値提案で、どのような勝ち筋を描いているのか。ドモホルンリンクルの研究開発に20年以上従事し、現在は新規事業の経営責任者を務めるキーパーソン・間地大輔氏に直撃した。
 

ドモホルンリンクルの課題=「第二の創業」への号砲


— 貴社は2032年の創業100年に向けた「ポジティブエイジカンパニー宣言」の中で「漢方の製薬会社としてのソリューション提案」という中長期的な事業計画を掲げました。具体的には、創業時の「漢方理念」に立ち返り、人間が持つ「生体リズム」と「自己回復力」を軸とした提案につながる研究・製品開発・新規事業に取り組むとしています。今回は、この新規事業でどのような「勝つための戦略(勝ち筋)」を描いているかをお聞きしたいと思います。

前提として、売上の9割を占めるとされるドモホルンリンクルの状況をお聞かせください。昨今、CPAの高騰や顧客の高齢化によるLTVの伸び悩みなどは、各社共通の課題ですが、貴社も例外ではないのでしょうか。


 ドモホルンリンクルは長きにわたる当社の基幹事業であり、極めて高いお客さま満足度とリピート率に支えられてきましたが、ご指摘のとおり、CPAの高騰や、一緒に歩んできたお客さまたちの高齢化、若年層への認知率の低さといった課題に直面しています。私たちがドモホルンリンクルの成功体験に安住し、一本足打法で経営を続けられる時代の「終わり」を明確に突きつけられていると考えています。

 ただ、これらの課題は、当社が「ただのモノ売り」で終わらず次のステージへと進化するための、つまり健全な危機感に基づく「第二の創業」へと舵を切るための原動力と捉えています。

 美容という「売れる」市場の延長線で安易な戦いを挑むのではなく、自らの存在意義を問い直し、「漢方理念の原点」へと深く潜るという道を選ぶことができました。

 この変革は結果として、当社が長年培ってきた「お客さま一人ひとりに深く寄り添う人材」と、身体を部分ではなく全体で捉える「漢方の全方位的な視点」という、当社ならではの無形資産を、新しい事業領域で最大限に生かす絶好の機会となっています。
 
再春館製薬所 ポジティブエイジ統括本部 経営責任者
間地 大輔 氏

薬剤師。 入社後、20年以上にわたり基幹ブランド「ドモホルンリンクル」の研究開発に従事。製品リニューアルの中枢を担い、肌の自己回復力を追求。2020年代より「漢方理念」に基づいた新たな価値提供を構想し、九州大学との共同研究を主導した。その成果を生かした住宅事業「ポジティブエイジハウス」や新ブランド「ポジティブリズム」など、全社的な新規事業戦略を統括する。

— 新ブランド「ポジティブリズム」は、日常生活において「生体リズム」(※)の最適化を図る商品・サービスを展開されています。ブランド創出の背景には、先ほどの諸課題のほか、新規顧客とのコミュニケーションの大半がデジタル経由になり、従来のように電話などで個別ニーズを丁寧に把握することが難しくなったことがあると聞きました。新規事業と顧客コミュニケーションの変化にはどんな関わりがあるのでしょうか。

※生体リズム:人間や動植物を含むすべての生物が持つ体内時計によって調整される生命現象の周期(出典:再春館製薬所リリース)


 デジタル化でお客さまの悩みがつかみにくくなったのは事実ですが、それは表面的なきっかけに過ぎません。本質的には、ドモホルンリンクルが生んだ価値提供モデルの限界を突きつけられ、お客さまとの新しい関係構築のエンジンを、自分たちの「哲学」から創造する必要性に迫られた、ということです。

 これまでドモホルンリンクルは、シミやシワといった顕在化したお悩みに対し、研究に裏打ちされた「絶対解」を提示する、いわば「親」や「先生」のような存在でした。しかし、価値観が多様化した現代において、ひとつの正解を提示するだけでは、お客さま一人ひとりの人生に本当の意味で寄り添うことはできません。

 そこで構想したのが、お客さま自身も気づいていない「なんとなく不調」という潜在的な課題に光を当て、画一的な正解ではなく、その方だけの「最適解」を共に探していく「ポジティブリズム」です。これは互いに自立し、尊重し合う「夫婦」のような関係性をお客さまと築く事業です。

 既存事業のドモホルンリンクルとのカニバリゼーションを懸念する声もありますが、むしろ逆です。ドモホルンリンクルが根底に持っていた「自己回復力」という哲学を、「漢方理念×サイエンス」という再春館製薬所の根幹に根ざした10年以上にわたる「生体リズム」の研究成果から補強し、より「自己回復力を支えるブランド」として補完関係を築く布石です。