やりがいがあり、人に誇れる仕事が大切
今回は、私が三重県のレジャー施設「志摩スペイン村」の村長として気づき、そして実践したことを紹介する。志摩スペイン村は、関西・中部地方の人には、ある程度認知されているが、それ以外のエリアでは、あまり知られていない施設だ。三重県の伊勢神宮から車で(もちろん近鉄電車でも)1時間弱南に位置し、文字通りスペインの町並みを再現したテーマパークで、ジェットコースターなど28のアトラクションのほか、スペイン人と日本人ダンサーやキャラクターが出演するパレードやショーなどを提供している。規模的には、東京ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンよりも若干小さい。
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地元には住んでいる人が少なく、大学も無いため、特にアルバイトが集まりにくい。都道府県別で最低賃金制度があるため、地方では賃金が低くなり、都市部に出ていく人が多いという理由もある。
そもそも地方の人口が少ないのは、働く場所が少ないからではないかと感じていた。人が少ないから産業が発展せず、それが故に仕事を求めて都会へ出て行き、そして人が少なくなるという悪循環に陥っている。
そこで、まずは地方に「やりがいがあり、人に誇れる仕事」があれば、そこで働きたいと人が集まってくると考えた。
現場のやる気がマーケティングの源泉
現場キャストが仕事にやりがいを感じるために、実践したことがある。現場がやりたいということを実現させる。そして成功体験、つまり目に見える成果を実感してもらうことだ。志摩スペイン村は、入園時にパスポートを購入すると、ほぼすべてのアトラクションとショーを無料で利用できるが、いくつか有料サービスがある。そのひとつに400円でゲームに成功すると景品がゲットできるアトラクションがある。
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あるとき、キャストとの何気ない雑談で、「景品を換えたら、ちょっとコストアップになるけど、絶対に利用者が増えますよ。500円に値上げしても、利用者の数は減らないと思いますよ」という提案をもらった。
私は感覚的に利用者が1割程度減るとみていたが、2割減ることがなければ、収入は今より減らないので、やってみることにした。結果はキャストの言うとおり、利用者数は減るどころか逆に増え、売上が7割も伸びた。
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(客単価は、アトラクションの売上をスペイン村入園者数で割った値)
この結果には景品と価格の変更もあるが、それ以前に事前に現場の意見を聞き、アイデアを採用し、やりやすいよう、自信を持ってゲストにおすすめできるようにしたこと。また結果を見える化して共有したことで成果が実感でき、SV(現場のリーダー)をはじめ、キャストの意識を上手く変えられたことがあると思う。
そして何より、キャストたちが純粋に、ゲストに喜んで欲しい、即ち価値を提供したい、そのために景品はこういうものが良い、そしてそれは500円でも受け入れられる、というマーケター的な現場感覚を持っていたからではないかと思う。