ヒットを生んだ「シバリ(条件)」と「ネタバレ厳禁」という2要素
全国公開の大規模な映画の場合、PR費も数千万円から1億円を超える場合があります。私も前職のTENGA時代、いくつかの映画に出資したり、製作委員会に参加したりといったことを経験しました。その経験からしても、低予算映画をヒットさせるのは、日本トップクラスのクリエイターやPRプランナーであっても至難の業だと感じます。『カメラを止めるな!』をヒットさせたのは、敏腕のクリエイターでもPRプランナーでもなく、一般のSNSユーザーでした。しかし、なぜ人々は、この映画を広めたのでしょうか。私は、2つのポイントがあると考えています。
ひとつは「シバリ(条件)」があるということ。全国公開の作品の場合、どこに住んでいてもほとんどの人が自分の生活圏内で映画を観ることができますが、本作は違いました。都内2館での上映のため、限られた人しか観ることができません。しかも、劇場に足を運んでもすでに満席で入れないケースが多々ありました。一種の希少性というか、“観た人=選ばれし者”のような要素があったと言えます。
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希少性を保ちながら、ビジネスを拡大させて売上を伸ばす。そのバランス感覚が、ヒット商品を長生きさせる最も大切な要素かもしれませんね。
そして2つ目は、「ネタバレ厳禁」という共通のお約束が生まれたこと。TwitterやFacebookといったテキストベースのSNSを中心に、ユーザーの「拡散したい欲」を巧みにくすぐったと言えるのではないでしょうか。
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「ネタバレ厳禁」というルールを守ることで、他人同士でありながら、観た人たちの間にはある種の仲間意識が芽生えます。皆が口をつぐみ、「でも絶対に面白いから観ないと損だよ」と発信し、その投稿を見た人たちの間で「よしよし、お前もちゃんとルールを守っているな」という、ネット上の“監視”とは異なる“見守る感”が醸成される。
何かあればすぐに炎上し、人をボコボコに叩くというネットのネガティブな側面でなく、ポジティブな側面が上手く働き、話題の広がりにつながっていきました。
無名の監督と無名の俳優陣を、他人同士がネット上で一致団結し盛り上げる。PRの目指すところで言えば、“共感”の上の“応援”が自然発生したわけです。