感情を揺さぶるための「強度のあるコンタクト」が必要
実は、カタログ通販事業と並び、ディノスの柱であるテレビ通販事業は、この偶然の瞬間を戦略的に獲得する秀逸なモデルである。
私も以前、収録を見学する機会があったが、考え抜かれた演出と演者の巧妙なプレゼンテーションを聞いていると、関係者にもかかわらず、純粋に商品を買いたくなったものだ。
つまり、ECが単体で機能し始める「集客」の手前、ものが欲しくなる偶然の瞬間に立ち会うには、感情を揺さぶるための「より強度のあるコンタクト」が必要となる。
それがこれまでの文脈では、オムニチャネルと呼ばれる店舗活用であるし、カタログ通販であればカタログそのものが果たしてきた役割である。
カタログについて言えば、その機能は反射光と透過光の違いという脳科学的なアプローチからも理論付けられている。重要なのは脳にフラグが立つコンタクト強度までいかにして持って行くかということらしい。
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私の理解では、カスタマージャーニーを1本のゴールデンルートとして定義することはあまり意味がない、というか、そのように顧客が動いて欲しいという願望でしかないように思う。
そうではなく、欲しいという気持ちになるまでのコンタクト強度を、どういう体験を通じてつくり上げるのか、強度の大小とフリークエンシーによって定義していく方が、より具体的な施策に繋がる気がしている。この話になるとまた道が逸れるので、それはまた別の機会に。
そして、おそらく「欲しい!」の最初の種を掴むには、偶然の連続を戦略的に設計する努力を企業がしなければならない。
通販でいえば、マンションのゴミ捨て場に積まれたAmazonとZOZOのダンボールの間に、自社のダンボールと一目で分かるものを仕込むことから始まるのかもしれないし、生活者のSNSの中で拡散するような非日常体験を考えることかもしれないし、急に暑くなったタイミングで最新のショートパンツの紹介コンテンツを届け、「タイミングいいわ~」と思ってもらうことかもしれない。