「そのアイデアが実装される前と後で、世界が変わったかどうか」
今年強かったこの3つに共通していると思ったのは、「このアイデアが実装される前と後で、住む世界が変わったかどうか」という点だ。
「Caption with Intention」は、無機質だった字幕に感情を吹き込むことによって、聴覚障害者の映画体験を完全に変えた。AXAの「Three Words」もそうだ。たった3語を加えることで、AXAの住宅保険なら、自然災害だけでなく万が一DVを受けるようになったとしても、そこから逃れて別の場所で住める世界にした。「Lucky Yatra」も、電車のタダ乗りすることが横行していた世界に、「一発当てたくてきっぷを買う」という新たな行為を生み出した。
キャンペーンからプラットフォームへ。インフォメーションからトランスフォーメーションへ。ここ数年、クリエイティビティの使いどころは、「意識を変えることではなく、仕組みを変えること」へシフトしてきている。アイデアによって一時的に人の意識を変えても、それ以降何もしなければ、また元の世界に戻ってしまう。また、意識を変えようとする気持ちが強ければ強くなるほど、ブロックしたくなるようなクリエイティブに陥りがちだ。しかし、仕組みそのものを変えると、その後の世界の在り方もおのずと変わる。今年、各部門を席巻したこの3つは、まさにそれを体現する戦略とアイデアに満ちた事例だった。
そうこうしているうちに、編集長からオーダーされていた文字数に迫ってきてしまった。冒頭で触れたセミナーについては、まだ一言もかけていない。
第2回では、ここでは書き切れなかった事例と、実務においても参考になったセミナーについても触れたい。
最後に、Human Truthについて
そうは言っても、ベタでアホなアイデアで笑わせてくれる「The 広告」も好きなので、最後に少しだけ触れておきたい。
アウトドア部門でゴールドを獲得した、ボディフレグランスブランド AXE(AXAじゃなくて)の「Scratch and Sniff」。AXEが股間のニオイをいいニオイにするためにつくった新商品の広告だ(そんな新商品をつくるのも、さすがAXEだ)。
「Scratch and Sniff」ケースフィルム
世の男性の「ついつい股間をかいてしまう」という無意識の挙動にフォーカスした、股間の横をかいてニオイを嗅いだら、いい香りがするというポスター。
男たちが無意識のうちにしてしまうこの仕草は、多くの人が密かに共感できる、人間の可笑しさや滑稽さにあふれた真実だ。ストラテジーをつくる上で大切な「Human Truth(ヒューマン・トゥルース)」は、「人間のおかしみ」と訳せるのかもしれない。
(第2回につづく)
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