生成AI活用の社内コミュニティに国内社員200人が参加

 2018年にデジタル推進組織を立ち上げ、「社員が自分ごと化しながらデジタル変革を推進する!」をミッションとして掲げているミツカングループ。DXを推進する取り組みの一環で運営しているのが、社内コミュニティ「生成AIフレンド会(以下、フレンド会)」だ。

 2024年10月に発足した同会は、2025年3月までの半年間で役職や部門を超えて約200人が参加する組織となった。この人数は、グループ国内社員の約10%に相当する。当初は20人程度のコミュニティを想定していたが、社員の口コミによってその10倍にまで輪が広がった。



 「多くの社員の間で広がりつつある、生成AIに対する関心と熱意を活かしたい」との考えから発足したフレンド会は、デジタル推進部に所属する新卒入社1~4年目の若手社員3人が企画・推進している。合言葉は「ともに楽しむDX」。生成AIに関する知識や事例を共有し合い、実践的な活用をともに学んでいる。トップダウンではなく現場発の主体的な取り組みとして、社員のマインドや組織風土の変革をもたらしている。

 ミツカングループ 日本・アジア事業 CDOの渡邉英右氏によると、さまざまな企業と生成AIに関する情報交換を行う中で見えてきたのが、関心のある人が集まり、気軽に情報や悩みを共有できる社内コミュニティの重要性だったという。一部の先進企業では、それが活用促進に良い効果をもたらしていることから、そうした動向を参考にしつつ、社風に合った形として生まれたのがフレンド会だ。

 以前から、社内で生成AIの活用を模索する取り組みは行われていたものの、トップダウンでメンバーを指名する形では温度差が生まれ、効果が限定的になっていた。「トップダウンだけでは広がらない」という学びから、“やらされる”ではなく“やってみたい”と思う社員が、自分の意思で集えるコミュニティとした。

 フレンド会には手挙げ式で参加することができ、入会条件や所属条件はない。「生成AIやその活用事例をもっと知りたい」「業務効率化に興味がある」という人であれば、誰でも入会可能だという。「半期に1回の追加募集」「期中の退会は自由」「すべての活動は自由参加」といった、あえての"ゆるさ"が多様なメンバーの集まりにつながっているという。

 会の名称には、「生成 AI にワクワクする仲間が集まる場所にしたい」「自分の意見や考えをいつでも忌憚なく話せる“友人”のような関係でつながりたい」との思いが込められている。デジタル推進部の運営メンバーも含め、参加した時点で全員が“フレンド”という名称で仲間になる。

 活動内容は、勉強会やワークショップの開催、社外との交流、コミュニケーションツール Microsoft Teams上での情報共有、自主的な検証プロジェクトなど幅広い。

 
 現在、以下のような領域をはじめとして、生成AI のトライアルや本格的な活用を進めている。

▶︎アジア向けWebサイトの構築
生成AIを活用しながら、ほぼ内製で Web サイトを制作し 2025年2月にリリース。SEOなども自走化。
▶︎新商品のマーケティング戦略構築でのPoC
マーケティング戦略におけるコンセプト企画、商品名・コピーの検討、生活者理解などで活用。
▶︎営業本部での生成AI部立ち上げ
営業本部内での活用推進のための「部活」を 2025年7月より始動。
▶︎社内広告審査プロセスの効率化と審査業務の心理的安全性向上
2025年秋に立ち上げ予定。
 

フレンド会の継続・活性化の秘訣

 2025年8月現在、フレンド会が発足して約10ヵ月が経過した。社員の自主的な活動が継続し、想定以上の数の“フレンド”が集まった秘訣は何か。所属動機としては、①豊富な自由参加型コンテンツ、②部門や役職を超えた横のつながり の大きく2つを挙げる。

①豊富な"自由参加型コンテンツ"
 楽しく生成AIを学ぶことができるイベントや勉強会などを毎月実施し、継続した学びの場を提供している。時間がある時に、興味があるものだけを選んで、プレッシャーなく参加できるのがポイント。

②部門や役職を超えたつながり
 アクティブキャンペーン(注1)や事例共有会などを通して、社内外のさまざまな活用事例を知ることができる。事例を知るだけでなく、若手も管理職も自由に自身の活用事例を発信することができ、同じ悩みを持つ人とつながることができたり、共感やアドバイスがもらえる。また、特定テーマにおける生成AI活用を検証する仲間を見つけることもでき、社員のアピールの場にもなっている。

注1:「生成 AI を活用してうまくいったこと・失敗したこと」をテーマにTeams上で事例を投稿するイベントを実施し、実施期間17日間に50件以上の投稿とコメント・リアクションが集まった。これまでも社内で情報共有の試みはあったものの、自発的な投稿が少なく、議論が活性化しにくいという課題があったが、このキャンペーンが、組織の壁を超えて自分の意見や考えを忌憚なく話す組織風土の醸成・波及に向けた大きな一歩となった。

 この2つが、「学び合える」「刺激がある」「一緒に挑戦する仲間がいる」といった、フレンドにとっての価値を生んでいる。ミツカングループでは、生成AIに関心を持つ社員が増える一方で、「一人だと情報のキャッチアップが大変」「他の人や他部署はどう活用しているのか」といった悩みや戸惑いを感じる声も多くなっていた。そうした課題を受け止める仕組みを用意していることが、コミュニティが継続・活性化している秘訣といえそうだ。

 企画・運営を担うデジタル推進部の林田理央氏・近藤陽菜氏・山口美紅氏は、「運営側が新卒入社1~4年目ということで、まだまだ経験不足なところも多く、フレンドの皆さんに助けてもらいながら活動を続けています。デジタル推進部からの一方的な関係性ではなく、私たちもフレンドの一員として活動し、フレンド同士で支え合っているのが、このコミュニティの魅力の一つです。フレンドからは『若手社員が中心になって社内を盛り上げてくれているのをみて、応援したくなる!刺激になる!』との声をいただいており、心強く思っています」と話す。



 CDO 渡邉氏は次のようにコメントし、フレンド会の活動を含め、自社のAI活用の今後に期待をのぞかせた。

 「生成AIの活用が、コミュニティをきっかけに社内で自発的に広まっていることはとても素晴らしいことだと考えています。ミツカンのバリューである『ともに』の考え方と、2つの原点である『買う身になって まごころこめて よい品を』『脚下照顧に基づく現状否認の実行』をまさに実践している例だと思います。すでに本当に素晴らしいアイデアがたくさん出てきていますし、メンバーの皆さんの熱意にはいつも感心しています。今後、これまでの人間主導の事業・業務から、人間と AI が連携した事業・業務に変わるエージェンティックAI(注2)時代が訪れると考えています。今後は、どのように新しい価値提供ができるか、効率化できるかを、ゼロベースで考え、社内外でDXを加速させていきます」

注2:エージェンティックAIとは、エージェントなどの様々な高度な仕組みを組み合わせて、自律的に、人間が実施しているような多くの業務を計画して、実行、判断していく仕組みのこと。