財務指標からみる経営の在り方
株主から経営を任されている企業の経営者という存在は、常に3つの市場から評価をされています。1つ目は財(モノ)やサービスが売買される「財市場」、2つ目は経済活動に必要な「労働市場」です。そして3つ目が資金の貸し手と借り手の間で、資金のやり取り(取引)が行われる「金融(資本)市場」です。

この3番目の市場としては「財務指標による評価」があります。売上や利益率などをベースに、現在株主から重要視されている指標には、主にROE、ROIC、PBR、EVA、DOE・TSRなどがあります。
特に令和の時代になり、株主がROE(自己資本利益率)とROIC(投下資本利益率)を最重要視するようになってきました。その最大の理由は、これらの指標が「企業が株主から預かった資本をどれだけ効率的に使って利益を生み出しているか」、つまり「企業の稼ぐ力(資本効率)」を測るものだからです。中でもROEは、株主から見た「投資に対するリターン」を測る最も重要な指標で、「当期純利益」を自己資本(株主資本)で除算したものです。株主にとって、ROEが高いほど、投資した資本が効率よく活用されていると評価されます。

▶︎ROE(自己資本利益率)の重要性:株主の視点
ROE(自己資本利益率)は、企業が負っている「株主資本コスト」を上回ることが、企業価値を創造するための大前提となります。株主資本コストは、株主がその企業に投資することで期待する最低限のリターンですが、昔はROE 5%以上、今は日本企業はグローバルな投資家の期待に応えるためにROE 8%以上を最低限目指すべきだと提言されています。
これが日本企業の経営目標として定着してきており、ROEが資本コストを上回らない企業は、長期的に株主価値を毀損していると見なされます。
▶︎ROIC(投下資本利益率)の重要性:事業の効率性と戦略の視点
もう一つの財務指標 ROIC(投下資本利益率)は、事業活動に投じたすべての資本(株主資本と有利子負債)を使って、どれだけ効率的に利益を生み出したかを示す指標で、「税引後営業利益」を「投下資本(有利子負債+自己資本)」で除算したものです。
ROEは資本構成(負債比率)によって変動しますが、ROICは負債と自己資本を区別しないため、事業そのものの収益性や効率性をより正確に評価できます。つまり、事業ごとの「真の稼ぐ力」を評価できる財務指標です。
経営者は、ROICを事業部門や製品ごとに算出し、資本効率の低い事業を特定したり、資源(資本)の最適な配分を決定したりする際の基準として活用します。最近の日本企業の中期経営計画(事業計画)でも、多くの企業の経営者は「ROIC経営」を謳うようになってきました。
先のROEが株主資本コストを上回るべきであるのと同様に、ROICはWACC(加重平均資本コスト)eを上回る必要があります。WACCは、企業が調達した資金全体のコスト(株主資本コストと負債コストを加重平均したもの)ですが、ROIC > WACCの場合はその事業は企業価値を創造しており、ROIC < WACCの場合は価値を毀損していると判断され、事業の撤退や再構築が検討されます。株主は、企業が事業を通じて継続的に価値を創造しているか(ROIC > WACCか)を重視しています。
▶︎市場評価(PBR)との連動性
ROEとROICという2つの重要財務指標の株主目線からの重要性を理解していただけたかと思いますが、株主は最終的にPBR(株価純資産倍率)の向上を期待しています。
PBRは株価を評価する主要な指標であり、PBRを向上させるには、ROEを高めることが最も直接的な手段となります。特に東京証券取引所(JPX)は、2023年以降、PBRが1倍を下回る企業に対し、資本コストや株価を意識した経営の実現を要請しており、これがROE・ROIC経営への注力をさらに加速させています。
前述の通り、ROEとROICは、株主が預けたお金(資本)に対して、「会社がどれだけのリターンを生み出す能力があるか」を測る指標として、株主が企業価値を判断するための、資本効率経営の「車の両輪」として重要視されています。
JPXが「PBR<1.0」の企業に対して、その改善を求めてきたのは、現在の日本の上場企業の中で、PBRが1.0割れの企業が欧米企業と比べて圧倒的に多いことに起因しています。 PBRと他の指標の関係性を式にすると下記になります。
PBR=ROE(自己資本利益率)x PER(株価収益率)
PBRを高めるには、企業が高いROE(効率よく利益を稼ぐ力)を達成し、かつ市場から高いPER(将来の利益成長に対する高い期待)を得ることが重要であることがわかります。つまり、ROEは「現在の稼ぐ力」、PERは「将来の稼ぐ力」を意味しており、経営者は今の事業で確実に結果を出しながら、一方で「将来の稼ぐ力」のための経営も同時にマネジメントすることが求められているということになります。




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