AIが「機能」から「前提」へと移行。そのスピードとダイナミズム、効果的な発信をBtoB製造業から学ぶ


 レポート第4弾は、筆者が大好きなBtoBリーダー企業をメインにお届けしたい。物理世界とデジタルを融合させ、「産業の再発明」を主導するSiemens、キャタピラー、Hyundaiの3社による基調講演から、注目すべきAI実装の現在地、Physical AIへの取り組みと未来像についてレポートする。

 今回の「CES 2026」から、AIは単なる「目玉機能」ではなくなり、産業と生活を設計する「前提条件」への移行が主要な議題として発信された。そのスピードとダイナミズムは現在、BtoCよりもBtoBの世界において顕著と言えるだろう。3社の講演に共通したのは、AIの単体導入についての説明ではなく、データの活用、業務を起点とした運用への導入、社外パートナーとのアライアンス体制の発信だったことだ。
 

Siemensが描くIndustrial AIとは? NVIDIA ジェンスン・フアン氏と語った「100年に一度の変革」


 最も重要な初日朝のキーノートで、スタートを切ったのはSiemensだった。社長兼CEOであるロランド・ブッシュ氏が登壇、AIを「今世紀における電気と同じくらい変革的な力」と定義した。同氏によると、蒸気機関が社会を変えるのに60年、電気が15年かかったのに対し、AIは7年以内に日常を支えるシステムに埋め込まれる。さらに、AIが現場で成果を生み出す条件として、「データ品質」「物理忠実なシミュレーション」「自動化基盤」「安全・責任ある運用」を挙げ、デジタルツインが設計・検証・製造・運用までを一本でつなぐという。これは昨年のCESや、Hannover Messe(ドイツの製造業カンファレンス)でも同様のプレゼンテーションを行っていた。Siemensは「AIとデジタルツインが次世代の製造業を構築する」という発信を一貫して行っている。

 基調講演の目玉はNVIDIAのジェンスン・フアン氏との対談だった。やはり、同氏が登場すると会場は熱気を増す。そして両社の強い関係性を印象づけた。対談では、Siemens を「コンピューティング・インフラの上にソフトウェアとAIが構築された世界」へと進化させるビジョンを共有。具体的には、NVIDIAの「CUDA-X」や「Omniverse」を、Siemens の設計・シミュレーション基盤に統合することで、製品設計から生産、運用までを一気通貫で高度化する「Physical AI」の実装を加速させるとのことだった。

  
講演全体を貫くテーマとして「Industrial AI」を提示。AIを単なるデジタル技術ではなく、産業の設計・製造・運用を横断する「変革の中核」に位置付ける姿勢を示した。

  
Industrial AIは、Software/Hardware/Compute/Dataの4要素で成り立つという。AIの実装には、これらを統合する産業基盤が不可欠であることを強調した。

  
NVIDIAのジェンスン・フアン氏との対談。筆者は何度、同氏を撮っているのだろう。

  
デジタルツインのシミュレーション事例を紹介。実世界の物理挙動を高精度に再現し、設計・検証・最適化を仮想空間で行うアプローチが紹介された。

  

  
PepsiCoのアテナ・ハン氏が登壇。デジタルツインにより3ヶ月で効率20%向上、資本コスト最大15%削減を達成。設計期間を月単位から日単位へ短縮したという。

  
MicrosoftのCEOサティア・ナデラ氏もビデオメッセージで参加。SiemensとMicrosoftがIndustrial Copilotで協業していることが紹介された。

  
SiemensとMetaは、現場作業者の支援にスマートグラスで協業することをアナウンス。スマートグラスはIndustrial AIを人間の作業に接続する役割を担うという。

  
Commonwealth Fusion Systemsとの協業による核融合開発の事例を紹介。核融合装置の設計・製造・検証にデジタルツインを活用し、複雑な物理条件を仮想空間で再現・評価することで、開発プロセスの高度化とスピード向上を図るという。Siemensの構想が、次世代エネルギー実装を支えることを印象づけた。

  
「Design/Engineer/Operate」の3つの工程を、設計から運用まで一貫してデータでつなぐアプローチを紹介。Industrial AIは、特定工程ではなくバリューチェーン全体で価値創出を行うことを示した。
 

キャタピラーは現場全体がAIによって知能化され、連動する未来を提示


 BtoB製造業による2つ目の基調講演は、米国のキャタピラー社が担った。キャタピラーは、同社のウェブサイトによると「建設機器および鉱山用機械、ディーゼルおよび天然ガスエンジン、産業用タービン、ディーゼル電気機関車などの製造で世界をリードする会社」。ショベルカーやブルドーザーなどでもおなじみだ。基調講演では、Executive Chair and CEOのジョー・クリード氏が登壇し、同社が道路・港湾・鉱山・発電・データセンターなど「見えない層(invisible layer)」を支える企業として、成熟産業を「Industrial AI・自律化・エッジコンピューティングで再定義する」と述べた。

 同社が想定する課題は「人手不足・安全・生産性」であり、通信が弱い現場でも成立するオンボード(エッジ)AIを重視する。基調講演で紹介された「Cat AI ASSISTANT」は、音声・テキスト・画像・動画を使い、操作のコツ、警告灯の解釈、安全設定、稼働データの要約などを 「会話」で解決する仕組みだ。現場の意思決定を短縮する「プロアクティブな相棒」と強調した。

 ここでもNVIDIAが登場。協業拡大を打ち出し、ロボティクス・エッジAI領域でオンボードAI機能やAIエージェントを産業スケールで展開する構えを示した。

 最後に「AIが進化しても、それをつくる人々がいなくなるわけではない」と断言。人的投資に2500万ドルのコミットメントをし、最新テクノロジーによって創出される新しい役割(データサイエンティストやマネージャーなど)へと人々が移行できるよう、トレーニングや教育に投資することを表明した。

  
Executive Chair and CEOのジョー・クリード氏。
 
  
 
  
キャタピラーはNVIDIAとの提携により、エッジAIプラットフォーム「Thor」を採用。通信環境が不安定な過酷な現場でも、リアルタイムで推論・実行が可能な「Physical AI」の実装を強力に推進するとした。
 
  
150万台の接続資産が生むデータ価値を強調。世界中で稼働する接続資産が、独自基盤「Helios」に蓄積された16ペタバイト超の稼働データとなり、それをAIが学習することで現場の安全性と効率を継続的にアップデートするという。
 
  
 
  
新開発の「CAT AI ASSISTANT」 を発表。熟練工の知見をデジタル化し、音声や画像によるAIガイドとの対話によって、経験の浅い社員でも初日からプロの精度で機械を操作できるようになるという。
 
  

  
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ミニ油圧ショベルを用いた実機デモ。AIが「コパイロット(副操縦士)」として操作方法を音声ナビゲート。深刻化する人手不足やスキルギャップを、技術によって解消する具体的なソリューションを示した。

  
キャタピラーが推進する自律走行・AIの未来像を発表。ブルドーザーやトラックなど、自律走行・AI化された主要5機種を紹介した。現場全体が「知能化されたチーム」として連動する未来を提示した。
 

あえて「車」ではなく「ロボット」を主役に。HyundaiがBoston Dynamicsとのタッグで賭ける「人間中心のAI ロボティクス」


 今回、プレスカンファレンス(開幕前の記者向けプレゼンテーション)で最も盛り上がったのはHyundaiだったかもしれない。時間帯がNVIDIAの講演と重なったため、残念ながら筆者は出席できなかったが、その熱気は伝わってきた。本稿は同社が発信するYouTubeなどの情報から制作した(展示会場の写真は筆者撮影)。同社は、プレスカンファレンスに参加にしたロボット最有力企業の一つであるBoston Dynamicsとともに「人間中心のAIロボティクス」というビジョンを掲げた。

 講演ではBoston DynamicsのVP兼General Managerであるザック・ジャコウスキー氏が登壇し、汎用ヒト型ロボット「Atlas」の商用化を発表した。Atlasは360度回転する関節を持ち、人間を模倣するだけでなく、人間を超える効率で動作するよう設計されているという。110ポンド(約50kg)の重量物を持ち上げ、マイナス4度から104度(華氏)の過酷な環境でも稼働可能。既にHyundaiの工場でテスト運用が始まっており、2026年には同グループ内での本格導入、2027年以降は顧客への提供を予定しているという。具体的な年代によるロードマップが示されたことで、現実感が格段に増したと筆者は考える。

 さらに会場を沸かせたのが、Boston DynamicsとGoogle DeepMindのロボティクスチームによる戦略的提携の発表だ。Google DeepMindのAIモデル「Gemini」の推論・汎用能力と、Boston Dynamicsのロボットが持つ身体能力を融合させ、「世界で最も先進的なロボット用基盤モデル」の構築を目指すという。

 Hyundaiは企業がロボットを導入しやすくするための「Robot as a Service(RaaS)」というサブスクリプションモデルも展開すると語った。

 
「Partnering Human Progress(人類の進歩のためのパートナーシップ)」のビジョンのもと、HYUNDAIとBoston Dynamicsが開発してきた歴代ロボットを展示。人間とロボットが協働し、困難で危険な作業を分担することで、人類の可能性を拡張する「ヒューマンセントリック(人間中心)」なAIロボティクスの歩みを示している。
 
「Streamlined Logistics(効率化された物流)」の展示。自律走行ロボット「H-Motion」や、すでに2000万箱以上を扱った実績を持つ「Stretch」などの技術を統合。過酷な労働環境での作業を自動化し、物流現場の安全性と生産性を劇的に向上させるソリューションを提示した。昨年のCESでも展示されていたが、着実に進化している。
 
次世代型汎用ヒト型ロボット「Atlas」の展示。人間を単に模倣するのではなく、人間を超える効率で動作するように設計されているという。
 
ロボットは「あらゆる場所へ行き、周囲を理解し、何でも操る」。空港での荷物運びや家庭への配送など、ロボットが産業界から日常生活へと広がり、人々を繰り返し作業から解放して、より豊かな生活を送れるよう支える。そんな未来の社会実装シーンを構想しているようだ。
 

3社が示した、力強い未来への投資とダイナミズム


 3社の講演は、日本の製造業・BtoB企業にとって参考にすべきことが多かったと感じる。浮かび上がったのは米国、ドイツ、韓国のBtoB製造業による未来に向けた積極的なAI投資と、そのダイナミズムだ。彼らはNVIDIAのような先端企業とのパートナーシップを通じてイノベーションを加速させ、その取り組みをCESのような場で印象的に発信している。そして「オープンイノベーションが競争優位につながる」という示唆を力強く提示した。

 グローバルな先端製造業の発信に共通して見られたのは、AIをはじめとした新興技術への取り組み、それを支えるデータ基盤とオープンイノベーションを軸としたエコシステムの形成だ。今後は自社の要素技術やプロダクト、そして未来像を語る際、これらの発信が前提になると言っても過言でないだろう。

 
森 直樹 氏
株式会社電通
ビジネストランスフォーメーション・クリエイティブセンター
エクスペリエンス・デザイン部長/クリエイティブディレクター

光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。米デザインコンサルティングファームであるfrog社との協業及び国内企業への事業展開、デジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。2023年まで公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の幹事(モバイル委員長)を務める。著書に「モバイルシフト」(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST(INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia(PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo公式スピーカー他、講演多数。CESでは、ライフワークとして各種メディアに10年以上の寄稿経験がある。