関西発・地方創生とマーケティング #10
交通の革命児 ウィラー 村瀨社長が語る「MaaSで実現する地方創生」
2019/03/05
「MaaSによる地方創生」の成功事例をつくる
皆さん、高速バスのWILLERを利用したことはありますか?私は、自分の子どもがまだ小さかった10年ぐらい前、初めてWILLER(ウィラー)を利用しました。当時、住んでいた大阪から東京ディズニーランドに家族で行く費用を抑えようと色々と調べていたら、格安の高速バスを見つけて「この値段で本当に東京行きなの?」と驚いたのが、最初にWILLERに抱いた印象です。
交通事業者としては珍しく、マーケティングに力を入れている会社としてずっと気になっていたのですが、昨年テレビ東京「カンブリア宮殿」に同社 代表取締役 村瀨茂高さんが出演されているのを見て、直接話を聞いてみたいと思い、梅田スカイビルの本社に伺いました。
村瀨さんが力を入れているのは、「MaaS(Mobility as a Service)」です。
国土交通省は、MaaSについて「ICT を活用して交通をクラウド化し、公共機関や民間など運営主体に関わらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)をひとつのサービスとしてとらえてシームレスにつなぐ新たな『移動』の概念のこと」と定義しています。米国で開催されるテクノロジーの見本市であるCESでも話題になっていましたね。
WILLERは、このMaaSによって地方創生の成功事例をつくろうとしています。そこで今回は、「MaaSが交通の課題を解決するというテーマ」、そして「その移動をマーケティングすることで地方創生につなげるというテーマ」の2回に分けて皆さまにお届けします。
地方創生には「生活交通と観光交通の2本柱」が重要
村瀨さんは、「地方創生には、交通すなわち移動手段が重要になる。それは、そこに住む人の豊かな暮らしのための生活交通と、外から人を呼ぶ観光交通の2つだ」と言います。豊かな暮らしとは、そこに住む人が行きたい場所にいつでも行けて、自分らしく生活できること。自宅から5km圏内にあるスーパー、病院、役所、駅にマイカーを使わず簡単に安くアクセスできれば、人々の生活はより良くなると言うのです。そして、自動運転も含めて、車と鉄道がつながる将来は、5~10年以内に実現できるだろう、村瀨さんは予測されます。
そして、もう一つの観光交通については、「鉄道を基軸に他の交通手段を利用するにあたり、1日定額制や月単位のサブスクリプションなど、チケット購入と乗り継ぎを便利にして地域を活性化させたい」と語ります。
そのために、WILLERは2015年からバス以外にも京都と兵庫の北部を走る赤字ローカル線「京都タンゴ鉄道」の運行を但っています。また、北海道でもJR北海道や自治体、地元事業者などと協力し、鉄道・バス・アクティビティが一体となった交通パス「Eastern Hokkaido Nature Pass」をつくり、WILLERのWebサイトから予約できるようにしています。
そこで大事なのは「交通手段の見える化」だと語ります。旅行の計画を立てる時も、目的地での移動手段が時間や費用まで含めて見えていれば、事前に安心して予約できます。
例えば、北海道の大草原をレンタカーで走るのは気持ちが良いけど、旅行中それが毎日続くと疲れてきて快適ではないこともあります。もしかしたら、釧路湿原はカヌー、草原は車窓が楽しめる電車、まっすぐな広い道は自分で運転、流氷は砕氷船など、それを見るのに体験するのに最も適した手段を選ぶことができるかもしれません。年齢や嗜好に合った交通手段を取り揃えて、チケットも含めてシームレスに提供することが求められると語るのです。
ここで私が「これは旅行会社がすでにツアーとして取り組んでいることではないか」と尋ねたところ、村瀨さんは「違う」と言います。
WILLER自身が交通事業者なので、同業他社の交通事業者の考えや現場のオペレーションも含めてよく理解していて、そしてお客さまの気持ちも分かる。そこが利便性に重きを置いた旅行会社と違うポイントで、双方を通訳してつなぐことが強みだと言うわけです。
このようにMaaSによって交通の課題を解決して、人の暮らしや観光産業を活発化させて地方創生につなげることは、本来は国が取り組むべきことです。ただし、村瀨さんは、「具体的なものの姿が見えないと何ごとも前に進まないため、成功事例をつくることが先への一歩になる。だから補助金を当てにせず、先行して自分たちで自由に取り組んでいる」と力を込めて語ります。