最新ニュースから読み解く、物流とマーケティング #01

家庭の電力データからAIが配送ルートを自動生成し、再配達9割減。進む宅配クライシス対策

再配達を減らすための最新テクノロジー

 昨年12月24日、東京大学の越塚研究室らは「不在配送ゼロ化AIプロジェクト」(※1)が開発した配送ルーティングエンジンによる配送試験を行い、98%の配送成功率を記録した。これは不在による再配達を9割以上、削減したことを意味する。

 このエンジンは、各戸に設置されたスマートメーターから取得される電力データをAIが学習し、配達時刻における在宅予測に基づいて、在宅戸から優先的に配送するルートを自動生成するものだ。

 スマートメーター情報を外部活用するプライバシーの問題については、配送順路を人ではなくAIが行う点、各戸の在否を隠すことができる様々な工夫をこらすといった対策が講じられているという。
 
不在配送ゼロ化 AIプロジェクト・ホームページより画像引用
 また、本年2月5日には日本郵便が置き配で再配達6割削減の実験結果を公表した。
実験は2018年12月、物流系ITスタートアップ企業のYper(イーパー、東京・渋谷)と協力し、東京都杉並区で千世帯を対象に、イーパーが開発した置き配向けのバッグ「OKIPPA(オキッパ)」を配り、どれだけ再配達を減らせるかデータを集めた。オキッパは南京錠で施錠され、ワイヤで玄関先に固定される仕組みだ。

 1カ月間の荷物量の総数は6000個、大きな荷物と食料品などバッグで受取れない事例はあったが、オキッパがなかった場合と比べて再配達を最大で6割減らせた。
 
Yperホームページより画像引用
 次々と発表される新しい物流スキーム、この背景はご存じの通り、2016年度後半から始まった「物流の危機」(通称:宅配クライシス)から始まっている。

 ネット通販の急伸に伴って時間指定配達や再配達などの物流への負荷が急増し、貨物の遅配や宅配ドライバーの労働負荷、一部車両の逼迫といった事態が顕著となった。
 

ネット通販の成長に合わせて、ドライバー不足が顕在化

 筆者は2014年から宅配研究会というクローズドな研究会に参画している。その時点で、宅配クライシスが来ることを予見していたのである。宅配便の個数増加に対するドライバー数(運輸・郵便業の就業者数)の推移を見てみよう。



 宅配便の個数は増加しているのに、ドライバー数は横ばい。そのため1人当りの個数が増え続けているのがわかる。さらに不在による再配達がドライバーへの負担として大きく問題視されている。

 2014年12月に国交省が調査したデータでは、宅配便の全訪問件数に対する不在訪問回数は19.1%となっている。不在による再配達がなくなれば、年間9万人の労働力が生まれることとなると試算されている。

 2016年のEC市場規模は15兆円。これが2022年には、26兆円となると言われている(野村総研試算)。そうなると、宅配ドライバーが9万人ほど必要となる。

 ネット通販でいくら売れても、商品が自宅に届かなくなる日が来る。そんなことにならないように、前述のような新しい物流スキームが開発されているのである。

 2014年に発足した宅配研究会では、「①コンビニ受取の推進、②宅配ロッカーの拡大、③スマホ配送アプリ、④地域貨物の活用」といった対策が必要と方針を策定して活動してきた。

 ①のコンビニ受取では、我々スクロール360とファミリーマートが宅配キャリアを使わないコンビニ受取「コトリ」をリリースした。スクロール360の倉庫から直接、ファミリーマートの日配センターにコンビニ受取の荷物を発送し、そこからはファミリーマートのトラックがコンビニ商品と一緒に各店舗に届ける独自のシステムだ。

 ③のスマホ配送アプリでは、自分が頼んだ商品の配送状況が一目でわかる「ウケトル」というアプリが、宅配研究会発からリリースされている。アマゾンや楽天で頼んだ商品が、どこまで配送先の近くまで来ているかがわかる仕組みだ。いちいち配送キャリアのホームページで配送番号を打ち込む必要がないうえに、出先から再配達の指定ができるようになっている。

 ネット通販の急伸と、物流革命の追いかけっこは、まだまだ続いていく。ネット通販物流の未来は予断できないが、けっして悲観的ではないと思っている。



(※1)
 「不在配送ゼロ化AIプロジェクト」は東京大学大学院情報学環・越塚登研究室、東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学・システム創成学専攻 田中謙司研究室、株式会社日本データサイエンス研究所、NextDrive株式会社、プロジェクト代表者 大杉慎平の協力の元、配送実験が行われた。

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