小売の未来は「ニューリテール」にある #03

新たに提示された「ニューリテール」の課題、日本の小売業はどのような世界を描くのか

オフラインの人流量発想と、オンラインのリピートの仕組み

 劉潤は、ニューリテールの革新のポイントは、オフライン店舗は人気店発想から、テクノロジーとデータによって「人流量発想」に転換すべきだと説く。

 店舗という固定化された場所でトラフィックが来るのをじっと待つのではなく、小売として「人と物が出会う新しい接点」をつくり出すというのだ。彼の言葉では「人流量が流れた先に、我々は自身の場所をつくり、自身のパーチェスファネルを設置して人流量をここへ向かわせて物を買わせる」のだ。

 そのような人流量の新しい接点として、中国のオンライン配車サービス、ディディ(DiDi滴滴出行)と提携してタクシー車内で飲料や食品を売るコーナー「車載コンビニ」をはじめた魔急便(Mobile Go)を紹介している。

 このような接点は日本でコカ・コーラ社が取り組んでいる自販機アプリ「Coke On」にも言えるし、オフィスに対して飲料やお菓子を届けるネスカフェアンバサダーやオフィスグリコなど成功したビジネスモデルにも同様のヒントがある。

 新しい接点で得られた顧客層は、新規の人流であることで終わるのでなく、そこからテクノロジーを使って買わなかった場合でもデータを得ることができれば、デジタルツールを通して、再度顧客にアプローチすることも可能である。

 また、個人情報が得られなくても行動特性から親和性の高いコミュニティを探すことができる。このようなデータ活用は、オンラインのチャネルにとっては最も得意な領域である。

 例えば、スマートフォンで有名な中国のシャオミは自社のミーストアで家電やツールも販売しているが、自社の顧客層がスターバックスやユニクロ、無印良品と重なっていることを知って、ファーストファッションの出店エリアをベンチマークするようになった。



 また、オフライン店舗は、当然ながらオンラインよりも効率よく新規顧客を得ることができ、成約率も高い。しかし、そのような新規顧客はシャオミのことをよく理解せずに購入している人が多いことを知り、オフラインでは体験性を重視し、その後に利便性の高いオンラインチャネルでリピートしてもらう仕組みを構築している。

 ニューリテールの代表であるアリババグループの「盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)」は、店内の生け簀からそのまま新鮮な魚介類をピックアップし、配送用の食材が店内のベルトコンベアで移動していく独特なオペレーション、3キロ圏以内30分で配送という驚異的なスピードが目を引くため、中国のみで許される特殊な店舗と理解されている。

撮影:スクロール360 高山隆司氏

 劉潤は『新小売革命』のなかで、フーマーフレッシュの成功は、アリババグループCEOのダニエル・チャンが創業者のコンピュータサイエンスの学歴を持ち伝統的流通と物流の経験がある候毅(ホウイー)と最初からオンラインの生鮮分野をオフラインの店舗と融合した形でどのように実現すべきか明確な目標を持っていたことが示されている。それは、次の4つの大きな「ムーンショット」からなる。

 1.    オンラインの収入はオフラインの収入を上回ること

 2.    オンラインの注文数は1日5000件を上回ること

 3.    半径3㎞以内の配送を30分以内に実現すること

 4.    オフラインからオンラインへ誘導し、アプリは他のトラフックなしに独立できること

 大きな目標設定であるからこそ、通常の業務改善では到達が難しく、最初からの飛躍が要求される。店内にレストランをオープンする、支払いは決済アプリのみ、頭上にベルトコンベアを設置するなどのアイデアは、トップダウンで考えられた。ニューリテールは、そのようなトータルのビジネスのデザインがなされてこそ、その特長を融合できるのである。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録