小売の未来は「ニューリテール」にある #03

新たに提示された「ニューリテール」の課題、日本の小売業はどのような世界を描くのか

モバイルアプリ決済導入で最終的に売り場効率が3倍に

 中国では、すでに現金よりもモバイル決済が一般化しているため、フーマーフレッシュがアプリ決済のみを実行していることに何も疑問を持たないかもしれないが、幅広い顧客が来店する生鮮食品スーパーでは、フーマーフレッシュでも最初は抵抗にあったことを候毅(ホウイー)は述懐している。

 それは「オフラインの売上をオンラインに誘導する」という明確な目的があったからで、フーマーフレッシュが半年以上営業している店舗においてはオンラインの受注が50%を超えて、上海の第一号店ではその比率が70%となりオンラインの売上が2倍以上になった。

 これはオフラインの売上と合わせると同じ売り場面積で3倍の効率があるという計算になる。モバイルアプリ決済の目的の最終的な意味合いはこういうところにあるのがニューリテールなのだ。

 また、フーマーフレッシュは店舗自体がECの配送センターになっている「店舗倉庫直結」なので、小島氏が指摘したEC倉庫と店舗在庫の課題とは融合されているからこそ効率が良い。フーマーフレッシュは最も投資がかさんだ部分は物流体制で、コールドチェーン物流、常温物流、生きた魚介類を扱う物流配送センターなどの構築に1億元(16億円)ほどかかったそうである。

 だからこそ物流に関してはそれなりのスケールが求められる。フーマーフレッシュは2017年の末までで25店舗に達し、2019年2月現在では138店舗まで拡大している。そのような計画も当初からある程度見込んだうえでの投資といえるだろう。
 

融合による高効率化はビジョンを実行する戦略が必須


 中国におけるニューリテールの事例と現在日本で議論されているオムニチャネルの課題を比較すると、最終的には既存のオフライン店舗とオンライン店舗をただ統合しただけでは、それぞれの課題が別々に湧き上がっていくだけで、社内的にどちらに優先順位をおくかという曖昧な決断になりやすい。

 アリババのフーマーフレッシュにせよ、シャオミのミーストアにせよ、従来の方法にとらわれず、高い効率を実現する融合が可能かをトップダウンで戦略的に考えることが重要であることを気が付かされる。

 そのような戦略なしでは物流などの大きな投資ができず、最終的に消費者が求めている購買行動に合わせるテクノロジーが逐次導入され競争に晒される、という事態が起きる。現在の日本で起きているモバイル決済競争がその体を成していて、明確なビジョンがないままにクーポン競争に陥っている。

 日本型のニューリテールが起きるとすれば、九州のトライアルホールディングスのようにAmazon Goを真似するわけではなく、AIカメラを積極的に活用して新しい小売のイノベーションを起こすという姿勢にこそあるだろう。

 トライアルの松井会長は、顧客のリテラシーを懸念してフーマーフレッシュのようなアプリ決済を急には導入せず、ショッピングカートへのタブレット設置でその中間的な措置をとった。その決断が候毅(ホウイー)のビジョンとどう異なるかは、今後のトライアルの成功の可否にかかっている。
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