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オムニチャネルがもたらす変革、問われるリテールとメーカーの新たな関係 #01

「新たなステージを迎える流通とメーカーの関係」Supership 中村大亮

 Supershipで執行役員 CMOの中村大亮です。今回、オムニチャネルと流通について寄稿する機会をもらいましたが、オムニチャネルやテクノロジーについては、すでに専門家が様々な場で語っています。

 そこで本連載では、家電とトイレタリーメーカーのマーケターからデジタルマーケティングのエージェンシーへと籍を変えた私の経験に基づき、これまで語られることが少なかったオムニチャネル時代のリテールとメーカーの関係性について、両者の課題やその解決方法などをお話していきます。

 私自身の経験から話すため、ここで語られる流通業は家電量販店、総合スーパー(GMS)、ホームセンター、ドラッグストアを念頭においています。しばし、お付き合いください。
 

待ったなしに激変する流通業界

 流通業界のマクロなトピックスを、簡単におさらいします。まずオンラインチャネルの席巻は、言うまでもないでしょう。これが起爆剤となり、テクノロジーの進化も相まって、顧客接点の拡張、ひいては流通業の再定義にまで話が及んでいます。

 米アマゾンの前期(2017年12月)の日本における売上高は1兆3360億円。昨対比で13.5%の増収であり、2010年度から比較すると7年で約3倍という凄まじい成長率です。

 国内の雄である楽天はネットスーパー事業でウォルマートと連携し、オンラインとオフラインの境目なく消費者の生活ニーズに応える「楽天経済圏」の戦略を推進しています。通販サイト「オムニ7」を展開するセブン&アイ・ホールディングスは、グループ外とのオープンな連携により、さらなる総合チャネルを目指す段階に入っています。

 アパレル通販サイト「ZOZOTOWN」を手掛けるスタートトゥデイは、昨年の年間購入者数が720万人と3年で倍増したように、ファッション分野で一人勝ち状態。その上、「ZOZOSUIT」や外部とのオープンイノベーションを通じて、ECサイトからプラットフォーマーへ進化しようとする意図が見えます。
 

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 それに対して、リージョナルチェーンも自社のアセットを活用した取り組みを強化しています。北海道を拠点とするドラックチェーンのサッポロドラッグストアーはWechat Pay決済が店頭だけでなく自販機でも可能にするなど、デジタルソリューションを活用し店舗を超えた顧客接点づくりに余念がありません。

 熊本の老舗百貨店である鶴屋では、自社の社員を講師に据えたサービス「鶴屋ラララ大学」を顧客向けに展開しています。例えば、アウトドア好きの社員による「キャンプの楽しみ方講座」など、自社のアセットをこれまでの発想と異なる使い方をすることで、新たな顧客価値を生みだしています。

 これらの例のように、「オムニチャネル」という言葉の文脈が、単純にオンラインとオフラインの統合だけではなく、顧客価値の創造にまで変化していることが、大きなトピックスであると考えています。
 

目的を達成するためのオムニチャネル推進

 各プレーヤーが起こすイノベーションの核心は何かと問われると、繰り返しになりますが、流通の顧客体験の再設計、さらに大上段な表現では「流通業の価値の再定義」ではないでしょうか。

 かつて、流通業のマーケティングは店舗集客、あるいは商品購入のタイミングに的を絞っていましたが、今や点ではなく来店前や購入後の顧客体験まで、線での発想が重要になっているのは周知の事実です。

 前述のセブン&アイ・ホールディングスやイオンなどのナショナルチェーンがいっときのオムニチャネル協奏曲から一周回って、こうした“デジタルありき”ではない、本質的な改革に着手する中、地方に目を転じると、カリスマ創業者からバトンタッチを受けた創業2代目、3代目社長が業界をリードしつつあります。

 ナショナルチェーンよりも、良い意味で組織がコンパクトな分、意思決定から実行までのスピードが速いように思います。しかも、その内容にもオムニチャネルという概念を超えたドラスティックさを感じます。これらの具体例は、このシリーズ内で紹介していくつもりです。

 いずれにしても、「目的化していたオムニチャネル」が、「目的を達成するためのオムニチャネル」へと舵がきられ、手段としてのデジタルが正しく理解され始めたことは、正しい進化への推進エンジンになるのではないでしょうか。
 

問われるパートナー企業のケーパビリティ

 進化の胎動の中で、ナショナルチェーンやリージョナルチェーン、その取引先であるメーカーやパートナー会社も変化する必要があります。

 例えば、メーカーはマーケティング部門にデジタルマーケティング機能を保有している一方、バイヤーに向き合う営業部門はそうした機能がない、あるいは機能として不足しているのが現状だと思います。長年、営業部門に求められてきた主なミッションは、定番の棚を押さえること、そして商品の販売数の増加であり、店頭を基軸とした商談や交渉でした。

 しかしながら、流通業の顧客接点が店頭という「点」から、購買前後の「線」になった今、営業部門のミッションも拡張せざるを得ない状況になっていますと考えています。

 販売店が顧客接点を構築するツールとして、独自アプリやLINEを活用する以上、向き合う営業部門もデジタルへの理解が不可欠です。オムニチャネルの推進にあたり、デジタルの存在感が増しているのです。

 例えば、先ほど紹介したサッポロドラッグストアーのWechat Payで決済できる自動販売機を使った販促企画の提案であれば、WeChat Payの仕組みや機能を理解しなければいけないでしょう。

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