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富士フイルムとの実証実験で証明された、ダイレクトメールの有用性 【早稲田大学 恩藏直人教授】
2019/12/02
デジタルマーケティングが注目される昨今、ダイレクトメール(DM)などアナログな手法が論じられる機会は減ってきました。しかし、感覚マーケティングの研究に力を入れる早稲田大学の恩藏直人教授は、「アナログには、大きな価値がある」と語ります。日本郵便と富士フイルムとの産学連携の試みから明らかになった、デジタル時代におけるDMの価値について聞きました。
DMには、消費者に訴えかける何かがある
恩藏直人氏
早稲田大学 常任理事(広報担当)教授神奈川県生まれ。早稲田大学商学部卒。早稲田大学商学部専任講師、助教授をへて、96年より教授。著書に『コモディティ化市場のマーケティング論理』、『マーケティングに強くなる』、『コトラーのマーケティング3.0』(監訳)など多数。
早稲田大学 常任理事(広報担当)教授神奈川県生まれ。早稲田大学商学部卒。早稲田大学商学部専任講師、助教授をへて、96年より教授。著書に『コモディティ化市場のマーケティング論理』、『マーケティングに強くなる』、『コトラーのマーケティング3.0』(監訳)など多数。
感覚マーケティングをご存知でしょうか。消費者の五感と消費行動の関連性に光を当てた研究です。かつて、米国の大学図書館における、ある取り組みが議論になりました。その図書館が書籍のデジタル化を推進したところ、教員たちが強く反対したのです。ただ、教員たちはその理由を論理的に説明できず、書籍の香りや既存の空間を失いたくないなど、感覚的な理由しか話せませんでした。
これは、感覚マーケティング研究の面白さを伝えてくれるエピソードです。近年、マーケティングの世界ではデジタルばかりが注目され、アナログの世界が完全に駆逐されてしまうのではないかという危機意識があります。アナログの世界には、理屈で説明しづらい価値があり、その最たるものがダイレクトメール(DM)ではないかと考えていました。
そうした背景から日本郵便さんに話を持ち掛けて、富士フイルムさんの協力を得て、DMとデジタルの融合の実証実験を4年前に始めたのです。
DMとEメールでクーポンを送付、最も効果が高かった順番は
最初に行ったのは、富士フイルムのネットプリントサービス会員に対してDMとEメールを使って、クーポンを送付して使用率を調べるという実験です。クーポンを送る際、紙のDMの方がEメールよりも反応が良さそうだ、ということはなんとなく想像がつきます。
ただ、実務の世界ではDMだけを送ることは、ほとんどないと聞きます。そこで、「① DMを送った後にEメールを送る」、「② Eメールを送った後にDMを送る」、「③ Eメールのみを2回送る」という3つの条件でクーポンを送付し、送付する順番による使用率の違いを検証しました。使用した表現や文言は、DMもEメールも同じです。
その結果、最も高い効果が得られたのは、「① DMを送った後にEメールを送る」で、クーポン使用率は20.7%。次に効果が高かったのは「② Eメールを送った後にDMを送る」、で17.8%。「③ Eメールのみを2回送る」は効果が低く、使用率は3.5%でした。
■実証実験の効果
- DMを送った後にEメールを送る 20.7%
- Eメールを送った後にDMを送る 17.8%
- Eメールのみを2回送る 3.5%
さらに興味深かったのは、若者ほどDMの効果が高かったということ。その理由は、まだ完全に解明されたわけではありませんが、「サプライズ効果」だという仮説を立てています。というのも、若者は、それまでの人生で紙のDMを受け取る機会が少なかったため、最初に紙のDMが届くと頭の隅に印象が残る。そのあとに同じ内容のEメールを受け取ると、「ああ、そういえば」と紙のDMを受け取った記憶が再生されて反応するというわけです。
DMがEメールよりも効果が高かった理由としてはもう一つ、「IKEA効果」と呼ばれている仮説があります。IKEAの家具は時間をかけて自分でつくるので、愛着が湧きます。同じようにDMにおいても、自分に対して企業が手間を掛けていることが伝わるため、高い価値を感じるのです。