市場創造に挑む~リテール×メーカーによる限界突破~ #01

実店舗に宿る「市場創造力」とは? イオン九州 川村泰平・サントリー 中村直人・グランドデザイン 村尾大介

“商売人の数値感覚”をテクノロジーで加速する


村尾  川村さんは、ご自身のお店をお客さまに認めてもらうために、様々な仮説を立てて施策を実行されてきました。どんな数値基準を持たれていましたか。

川村  GMS全体客数・カテゴリーの拡縮・施策のレスポンスという3つの数値感覚で店舗を運営していました。全体客数で言えば、対前年比1~2%を伸ばすという世界で戦っているため、例えば全体の売上で5%の変化は異常値です。外的要因をフラットにした上で、5%も変えられる店長がいたら奇跡だと言われていました。

しかし、カテゴリー別で見ると、その状況は大きく違っていまして、例えば、ある時期のオリーブオイルはマーケットそのものが拡大して、みりんは徐々に縮んでいました。練り物は食べる機会が減るけれども、ヨーグルトは毎日のように食卓に並び始める。男性の下着がトランクスからボクサーブリーフにスイッチする。こんな変化は、数パーセントレベルではなく、もっと勢いがあるわけです。

また、仕掛けに対するレスポンスという数値感覚もあります。テレビCMや折込チラシであれば、5%程度の変化。そんな中でアプリでクーポン提供した際のレスポンスが16%で、注目に値する数値だったりします。私のような経験で今日を迎えている人間の数値感覚は結構鼻が利くと言いますか。

村尾  そのような数値感覚を基にした成功事例は、ありますか?

川村  例えば、惣菜・デリカなんかは近年、市場の拡大と共にコンペティターが増えています。冷凍食品やデリバリー、ECプレイヤーなどとも戦っています。このカテゴリーは5%ほど伸びればいいと考えては、絶対にダメなマーケットで、むしろ「20%は伸ばさなければ、ダメなんだ」と自ら決めないといけません。

そして、それをどうしたら実現できるか頭を捻ります。ピークタイムが18-21時であれば、そこに陳列量のマックスを持っていきますが、廃棄リスクへの考慮も必要です。そこは数値感覚がものを言います。

私は経験的にその時間帯の食品客数が1,000人の店では「19時に2,000パック並べなさい、売価変更率は15%が指標」と伝えて、2,000パックと15%という数値しか見ません。あとは現場の責任者がその数値を守りながら、お客さまの反応を見て段々とチューニングしていくわけです。そうすると、自然と品揃えがマーケットにフィットしてくし、トップラインも20%の勢いで伸長していくんです。指標が上手に決められる時もありますし、ダメだったこともあります。ここにテクノロジーを持ち込んで、成功率を高めたい。

村尾  まさにおっしゃる通りだと思っていて、それは我われが担っているデジタル上のサービスやマーケティングの考え方と全く同じです。

しかしながら、多くのデジタル広告は、「情報を見せる」をゴールにした指標設計とチューニングに留まっている。そのゴールが「商品を買う」だと指標は変わってきます。極端な話、クリックしなくても買う理由になれば良いですよね。

川村さんは、テクノロジーの力を借りて全店舗をマネジメントし、フィットする施策を見つけられたとすれば、その結果がドラスティックに変わる感覚を、きっとお持ちなんですよね?

川村  そうです。その感覚は、ものすごく持っています。今までは、現場の優秀な店長やリーダーに委ねるしかありませんでした。現場の特徴を現場で捉えて、ベースになる考え方をアレンジしてくれと。しかし現代は、データさえあれば、最適化ができるわけです。その設定を間違わなければ、極めて高いレベルで実現できます。

村尾  メーカーにおける数値感覚は、どのようなものでしょうか?

中村 メーカー視点では、2段階の顧客が存在します。ひとつは流通企業さま、もうひとつはその先のお客さまです。我々は、この2つの顧客にいかに貢献するかを考えるべきです。

今までは、まさに売り手発想で、出荷数で全てのKPI/KGIを測っていました。しかし、お客さまの人数が増えない中で、想定よりも商品が売れていかないわけです。いくら店舗に商品をいれても、その先で詰まっては循環しません。

川村さんたちと一緒になって顧客を起点にした新たな需要を喚起しないと消耗戦から脱却できません。しっかり市場創造できるように、リソースとコストを充てるべきだと思うんです。

村尾  それを目指して、ここまでは近づけたかなと思う取り組みはありますか?

中村  顧客を見るという意味では、やはりID-POSデータが鍵になると思います。具体的な数値は、申し上げられないのですが、この一年間で開示・共有はかなり進んだ感覚があります。共有いただいたデータは、メーカーだからこそ客観的に分析して、お客さまの嗜好性に対する仮説を論理的に立てていけると思っています。

村尾  川村さんのお話を伺っていると、店舗から生まれる仮説と、本部でデータを見て立てる仮説に距離を感じます。この距離は何から来ていていると思われますか?それがリテールとメーカーが市場創造への距離を縮めるヒントになると思うのですが。

後編「小売の“価値”を取り戻すために。」へ続く

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