市場創造に挑む~リテール×メーカーによる限界突破~ #02

小売の「価値」を取り戻すために。イオン九州 川村泰平・サントリー 中村直人・グランドデザイン 村尾大介

テクノロジーで“小売の役割を取り戻す”

川村  私は、そもそもの小売の役割をもっと深く考えなければいけない、そうでなければ本当に小売不要論へまっしぐらという危機感を強く持っています。

その重要な役割のひとつに、メーカーさんが開発した商品を、メーカーさんの代わりにお客さまへ説明することがあります。メーカーさんはご自身の商品のことを深くご存知ですが、小売であればお客さまの生活という視点から、もう少し広げて個々のお客さまにフィットした情報を提供できます。さらに組み合わせやトッピング、シーンの提案をする使命もあります。だからこそ、メーカーさんから初めてマージンをいただけるわけです。

中村  そう言ってくださる川村さんとであれば、市場創造の成果が出せると思います。

川村  例えば、鍋つゆといった商品は、非常にたくさんの種類があり、特に私たちが担うべき仕事なんです。ミツカンさんのごま豆乳鍋が王者で、定番のキムチ鍋に加えて、今年で言えばポトフなど洋風商品も増えています。ミツカンさん、大庄さん、久原醤油さんと、メーカーさんは味やレシピなど、それぞれでマーケティングされています。その全てを横断して扱えるのが小売です。

去年キムチ鍋を食べたお客さまがいたとして、「今年もキムチ鍋が食べたい」と思ってお店に行ったら、新しいキムチ鍋が提案されているというお店でなければいけません。店舗を回り、それができている店を見つけると「小売の役割をよくわかってる」と感じます。

村尾  そうした意識が薄れているというお話ですが、小売の役割はどこで学ぶのですか?

川村  正直なところ、微妙ですね。私も偉そうに話していますが、それは自分の中で常に考えてきたから根付いたものです。店舗では、どうしてもPLを見て、赤か黒かだけに目を奪われがちです。

客数が増えるお店があれば、小売としての役割を前よりも果たしていると見るべきです。そうした状況をテクノロジーを使って、「この店を見た方がいいよ」とアラートが上がる世界になると、だいぶ変わります。

また、経営レベルが個店対策をするときは、症状が致命的な状態でテーブルに乗ることが多いんです。そこで処方箋を書こうとしても手遅れ。予兆段階で正しく診断できるようにしたいですね。

村尾  「小売の役割」という着眼点は、私にとっても新鮮です。つまり、小売がマージンを貰う理由に目を向ける、でもそれを果たしきれていない現実があるわけです。そこにテクノロジーを活用して、その責任を果たしに行くわけですね。それがお客さまに伝わり、市場創造につながる。それを我われ自身もやっているんだなと改めて思いました。おこがましいですけど小売の役割を担っているんだと。

川村  その通りです。深刻な状況になっていましてね。ベンダーさんの提案棚割をほぼそのまま採用することも増えているのです。気を抜くと、棚割の類似性を生んでしまいます。結局、小売が仕事を放棄するとプロダクトアウトになってしまう。客観的にお客さまの代わりに商品をコーディネートしたり、選別をしたり、並べ方を変えたりすることが小売たる存在価値です。

客観的にお客さまの代わりに商品をコーディネートしたり、選別をしたり、並べ方を変えたりすることが小売たる存在価値です。

村尾  私は、小売さんともメーカーさんとも日常的にお話するんですが、立場が違うので、考えている内容、それこそ思考回路が違うんです。だから、それをつなぐテーマをつくる必要があると思っており、そのひとつが「市場創造」だと考えています。

今日の座談会を通じて、その方法論が小売の現場に詰まっていると改めて感じました。パートナー企業も現場を見ずにソリューションをつくったりしています。リーチから来店までが見えますよくらいの話では市場創造は起きません。

テクノロジーによって小売の役割を取り戻すということが、世の中の9割を占める実店舗消費をドライブさせて、買い物に活気や楽しさをもたらすんだと思います。そうでなければ、価値がプライスに寄り過ぎて、ディスカウンターしか存続できない環境になります。ひとりの生活者としても、それを望むのか考えるべき段階に来ています。

川村  今が変えられる、最後のチャンスだと思っていますし、諦めたくないですよね。しかし、社内のメンバーには「頑張っただけで、何も生み出せなければ、誰も見向きもしてくれない」とよく話しています。

価格競争に巻き込まれながらも、そこから抜け出そうとする人間が小売の中に一部いるとすれば、お客さまと名前で呼びあい、自分のお客さまのニーズの変化を知っている販売スタッフかもしれないし、テクノロジーで武装したマーケッターかもしれないし、志の高い店長かもしれません。現状に黙っていられない人同士で市場創造に向き合った瞬間、そこに起こる化学反応が突破口になると思っています。
 

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