関西発・地方創生とマーケティング #02

やりがいのある仕事の創出が、人材確保につながる-三重県・志摩スペイン村での試み

前回の記事:
地方創生には、マーケティングの力が必要になる

やりがいがあり、人に誇れる仕事が大切

 今回は、私が三重県のレジャー施設「志摩スペイン村」の村長として気づき、そして実践したことを紹介する。

 志摩スペイン村は、関西・中部地方の人には、ある程度認知されているが、それ以外のエリアでは、あまり知られていない施設だ。三重県の伊勢神宮から車で(もちろん近鉄電車でも)1時間弱南に位置し、文字通りスペインの町並みを再現したテーマパークで、ジェットコースターなど28のアトラクションのほか、スペイン人と日本人ダンサーやキャラクターが出演するパレードやショーなどを提供している。規模的には、東京ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンよりも若干小さい。

Ben roach/ourworlds.co
 キャストには、地元で育ち地元の企業に勤めたいという人もいれば、テーマパークで働きたいと他エリアから来る人がいる。しかし、都市部から離れ、さらに2大テーマパークほど有名ではないため、なかなか人材が集まりにくいのが実情だ。

 地元には住んでいる人が少なく、大学も無いため、特にアルバイトが集まりにくい。都道府県別で最低賃金制度があるため、地方では賃金が低くなり、都市部に出ていく人が多いという理由もある。

 そもそも地方の人口が少ないのは、働く場所が少ないからではないかと感じていた。人が少ないから産業が発展せず、それが故に仕事を求めて都会へ出て行き、そして人が少なくなるという悪循環に陥っている。

 そこで、まずは地方に「やりがいがあり、人に誇れる仕事」があれば、そこで働きたいと人が集まってくると考えた。
 

現場のやる気がマーケティングの源泉

 現場キャストが仕事にやりがいを感じるために、実践したことがある。現場がやりたいということを実現させる。そして成功体験、つまり目に見える成果を実感してもらうことだ。

 志摩スペイン村は、入園時にパスポートを購入すると、ほぼすべてのアトラクションとショーを無料で利用できるが、いくつか有料サービスがある。そのひとつに400円でゲームに成功すると景品がゲットできるアトラクションがある。



 あるとき、キャストとの何気ない雑談で、「景品を換えたら、ちょっとコストアップになるけど、絶対に利用者が増えますよ。500円に値上げしても、利用者の数は減らないと思いますよ」という提案をもらった。

 私は感覚的に利用者が1割程度減るとみていたが、2割減ることがなければ、収入は今より減らないので、やってみることにした。結果はキャストの言うとおり、利用者数は減るどころか逆に増え、売上が7割も伸びた。
 
■現場のアイデアで伸びたアトラクションの利用率と客単価
(客単価は、アトラクションの売上をスペイン村入園者数で割った値)
 私が村長になる前の2013年度を100として、その後の利用率と売上単価を示している。取り組みを開始したのは2015年7月。それ以降の伸びをご理解いただけると思う(なお利用者、売上高はスペイン村の入園者数に影響を受けるため、あえて率と単価で表示している)。

 この結果には景品と価格の変更もあるが、それ以前に事前に現場の意見を聞き、アイデアを採用し、やりやすいよう、自信を持ってゲストにおすすめできるようにしたこと。また結果を見える化して共有したことで成果が実感でき、SV(現場のリーダー)をはじめ、キャストの意識を上手く変えられたことがあると思う。

 そして何より、キャストたちが純粋に、ゲストに喜んで欲しい、即ち価値を提供したい、そのために景品はこういうものが良い、そしてそれは500円でも受け入れられる、というマーケター的な現場感覚を持っていたからではないかと思う。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録